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「あー……、この設定、嫌いじゃなかったんだけどなぁ」
私、佐藤花子。先日の某ファンタジー小説大賞は二次選考突破ならず、息抜き代わりに「なろう」を巡回中。
せっかくだし、今の流行りって何かなって思って、同じ大賞に応募してる作品とか読んでみたんだけど、……だけど。
思わずため息が出ちゃうのはご愛敬ってやつ。
「はー、最悪。うざい。どっちもうざい」
読んでたのは、よくある……っていいのかな、王城に勤めるメイドがヒロインの話。王道かなって思って読み始めてみたら、メイドが物理で強くて面白かったんだよね。
「はぁぁぁぁー、ほんと、うざっ!」
後書きとかで、日刊ランキングがどうの、週刊ランキングがどうのって書いてたから、けっこうなPV数は稼いでいたと思うんだ。感想の返信も大変―って、それは後書きじゃなくて活動報告でいいんじゃないかな、って思ったんだけど、感想なんてほとんどもらえない私に対する挑戦状なのか、って思わなくもないけど……、羨ましくないけど。
「でもさー、マジでこれはない!」
せっせと毎日更新してて、大賞の締切日の更新を最後にストップ。え? 話? 中盤にさしかかったぐらいじゃないの? ちなみに、もう二次選考結果がでちゃってる時期だけど、まだ更新かかってないよ?
「ここでエタるかー……」
またため息が出ちゃった。幸せも一緒に逃げるって言うけどさ、幸せってこんなに軽いものなわけ?って思う。
「だーかーらー! あのキャラにヘイト溜まるのなんて分かってたじゃん! 感想欄で『あとでヘイトは解消する予定です』とかちょいネタバレなことまで返信してたじゃん! っつーか、何この二人! 粘着質な感想が二人もついてるし! 毎日ネガティブな感想とか!アホなの?バカなの?ヒマ人なの!?」
思わず座卓をバンバンと叩いてしまったけど、こういううざいのがいるから、エタる作者様が増えるわけよ。ツテ頼って特定して仕事じゃないけどヤっちゃおうか、なんて考えもよぎる。
「はー、最悪。うざー……」
後ろにぱったりと倒れる。折しも梅雨の真っ最中でお外は雨、そして部屋はじめじめ。扇風機の前に座り込んで、「ワ・レ・ワ・レ・ハー……」なんて遊ぶのにも飽きた。
「よっし、やめやめ! スパッと切り替えて書こう!」
もしかしたらカムバックしてくれるかも、と一縷の望みをこめてブクマをつけて、私は画面をホームに戻した。
「っと、きたーっ!」
来た来た。来ましたよ。赤い文字で「新しい感想が書かれました」の通知が! 私の「書かれた感想一覧」なんて本郷の嫌がらせと、彼花咲夜センセーの友情感想しかないからね。さぁ、ネガティブな感想でも、どんと来い!
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投稿者:大東@郷本EKUD
<良い点>
とくになし
<気になる点>
著作権にうるさい某ネズミの会社にケンカ売っているところ
<一言>
初めて読ませていただきました。作中のPC-98シリーズとか8インチフロッピーディスクとか、ハルルイエ先生はずいぶん年上なんですね。■ータス1-2-3とか初めて聞いたので、思わずぐぐってしまいました。
フロッピーディスクって、SDカードみたいなものかと思っていたら、ずいぶんと大きくて薄っぺらくて容量小さいんですね。あれを手裏剣みたいに投げつけるとか、ヒロインは忍者の修行でも積んだのでしょうか。
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うん、あれだよね。
なんて言うかさ、<良い点>のところに「とくになし」って書くぐらいなら、いっそ空欄でいいよね。そうしたら、感想一覧でも表示されない仕様なんだからさ。
……って、いうか、さ。
もうヤな予感しかしないんですけどー?
私は投稿者のリンクをポチッと押す。予想通り、投稿している作品はない。いわゆる「読み専」ってヤツだ。
さらにそこから、評価した作品一覧を表示させる。
――――予想通り、私の作品がずらりと並んでいた。しかも全て1・1の評価で。
「ほんごう~~~!」
なんかね、投稿者名も似た漢字が並んでるとは思ったのよ! 逆に並びかえただけじゃねーの! うざ! 死ね!
いつも通りにガチガチッと一言欄をコピーして暗号化/解読ツールにペースト。あーあー、そうですか、はいはいそうですかー、そうDEATHかー!
「もううざい、あいつ死ねよもう!」
私は仕事用の服に着替えると、イヤなことはとっとと終わらそうとばかりに玄関に向かう。
いや、切り替えよう。1つ仕事を終えれば、しばらく引きこもりで書くのに集中できる! よし、頑張ろう!
☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;:*
「ただいまー……。はぁ、ぐっしょぐしょ」
雨粒を垂らしながら戻ってきても、もちろん一人。いや、一人暮らしだから当たり前なんだけど、たまに「おかえりー」って言ってくれる人がいてくれたらいいなぁって思うけど、ないものねだりってヤツかな。……あ! そうか、そういうキャラにすればいいのか。家族とかにあまり縁のない人でー……
肌にべっちょりと貼り付く服を脱ぎ捨て、パンツ1枚でパソコンの前に座り、くそうざい感想の返信にいつもの完了報告を入力した。
さて、とっととシャワーでも浴びて、家族に縁のないぼっちキャラを詰めよ――――
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
風邪引くし、後にしよう。どうせ本郷だし。熱めのシャワー浴びて、すっきりしてから
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
バスタオルは、こないだ懸賞で当てたリラックスし過ぎるクマー!にしよう。うん、殺伐としたお仕事の後は、こういうものでリフレッシュもいい。
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
……。
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
「くっそ本郷、まじうざいんですけど!」
台所の引き出しからジップロックを取り出して、スマホを中にぽいっと入れると、そのまま風呂場へ直行する。
シャー……っとお湯を浴びながら、うるさく鳴り続けるスマホをタップした。
「まじうざいんだけど本郷!」
『お疲れちゃーん! いつも以上にキレッキレだねフラン・ハルルイエ先生!』
憎しみで人が殺せたらいいのに。
あ、でもそうしたら、今の仕事が仕事になんないか。残念。
『声に出てるよ……ってか、今どこ? 何か声が変だけど』
「そんなん本郷に関係ないしねー」
『いやいや、なんか反響がさ、っていうか、水音? 本当にどこ? まだ外じゃないよね? 返信来たし』
「どこでもいいじゃん。本郷はいちいちうざいしねー」
『と、とりあえず他の人がいないところなんだよね?』
「用件とっとと言えば? でないと、うざいしねー」
『……なんかさっきから語尾が気になるけど、まぁいいか。フラン・ハルルイエ先生のことは信用してるから大丈夫だよね』
「うわ、きしょいしねー」
はー、ようやく身体あったまってきた。こんな季節だけど、長いこと雨に打たれてたら、どうしても冷えちゃうよね。
『えーと、とりあえず今日もお仕事お疲れ様。ところで掃除屋からメッセージ預かってるんだけど』
「いらないしねー」
今回はちょっと特殊で、お仕事の後に掃除屋に生ごみを渡すところまでがワンセットだった。なんでも、生ごみを送りつけるんだって。きもい。
『初めてあの掃除屋と会ったよね? なんか先方が気に入ったらしくて、キュートでお持ち帰りしたいから連絡先教えてって』
「教えたら殺す」
『しない、しないって。個人情報の取り扱いとか厳しいんだから、そんなことしたら、ドヤされるって』
「あっそ、じゃぁ、もうKILLしねー」
『――――だから代わりに、これ面白いよってフラン・ハルルイエ先生の作品推しといた』
「最悪、うざ、死ねばいいのに、つーかいちいち仕事の後に連絡しないでよ、ほんとうざい」
ぷつん、と通話を切る。掛け直してこないことを見ると、とりあえずあっちも言いたいことは全部言い終えていたらしい。
「はー、掃除屋もうざいしねー」
シャワーを止めて、バスタオルでがしがしと水気を拭き取る。現場であった掃除屋の妙な視線はそういう意味だったのか。あいつマジ変態だな。うざい。
「……って」
Tシャツにハーフパンツ、という夏仕様のだらだら服に着替えたところで気が付いた。
「ああああぁぁぁぁ、なんだっけ、ほら、あれ、あれってなんだっけ」
シャワー浴びる前に、思いついたキャラがあったはずなのに。思い出せない。最悪。本郷のせいだ。
「いや、ほら、あったはず! あー、お風呂場に戻れば思い出せるかな、それともシャワー浴び直せばいい?」
こんなキャラありだよねって思ったことは覚えてるのに!
やっぱりあの電話、出なきゃよかった!