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「いやったぁぁぁ!」
思わずガッツポーズした私を責められる人がいるだろうか、いや、いない。あ、これ反語表現ってやつね。こうすることで言いたいことを強調できるっていう表現技法。ふふふ、こういった表現さえも自然に操れる私としては、当然のこと!
「一次選考突破したぁぁぁっ!」
今日、発表されたばかりの某社のファンタジー小説大賞のサイトをチェックすれば、そこには燦然と輝く「フラン・ハルルイエ」の文字が!
「ふふふ、この調子で二次選考も突破できるよねー?」
今まで数多くの大賞に応募してきたけれど、こうして一次選考に名前が乗るのは初めてで、もう嬉しすぎて心がぴょんぴょ……あぁ、だめだめ、他の作品の後乗りなんてしちゃいけない。だって私は二次創作者ではなく一次創作者!
「こういうのって、やっぱり活動報告で書いた方がいいのかなぁ。でも、一次選考突破ぐらいで?って思われたら面倒だし、いやでも、嬉しいのは確かだし……」
困ったなぁ、と意味もなく一次選考作品の一覧をスクロールさせていくと、その中に「彼花咲夜」の名前を見つけてしまった。いつだかの仕事帰りに会った、私の作品の読者サマだ。
「……もう別レーベルで本出してるんだから、いいじゃん。―――いやいや、それはよくない。相手を貶めるなんてこと倫理にもとる! 正々堂々と戦わないとね!」
それに、本を出していると言っても、ジャンルが違うし、きっとこっちは苦手分野……のはず。そうだと思いたい。
「えぇい、やめやめ! 他の人のことなんて考えたって仕方ないし、ついでに活動報告もなんか面倒だからスルー!」
気持ちを切り替えて、とっとと書こう! 評価されるも何も、まず書いて出さないとどうしようもないし。
「でもなぁ……」
一次選考突破した作品の続きを書くか、それとも、また別の出版社が開催してる大賞用のを書くか、それが問題だ。こういうのって、一次選考が出たら、その後に追加で書いた分って選考に関わるのかな、関わらないのかな。どっちなんだろう。もし、追加分が評価されることがないなら、もう一つの作品に注力した方がいいだろうし、でも、万が一、書き続ける姿勢みたいなのを見られてるとしたら、頑張って更新は続けた方がいいよね。
「んん~~~~」
ちょっとアレだけど、彼花咲夜センセーに聞いてみようかなぁ。もしかしたら、何か情報持ってるかもしんないし。
善は急げとばかりに「なろう」のトップページにアクセスした私は、ぴたり、と動きを止めた。
そこには「新着のメッセージがあります」なんて赤文字が!
もしかしたら、彼花咲夜センセーの方からおめでとうメッセージ? コミュ力高そうだったから、そういうのする人なのかもしれない。そしたら、私も「一次通過おめでとう。一緒に頑張ろうね」的なメッセージを送っちゃうの? うわー、なんだか、作家同士の遣り取りって感じで、きゅんきゅんするかも! テンション上がってきた!
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送信者:デューク本郷三丁目@東大
件名:感想でおKです
いつも楽しく読ませていただいてます(笑)。相変わらずネタ満載のヒロインのセリフが楽しいですね。でも、「聞いてヨーグリーナ♪」は年齢バレも甚だしいんじゃないでしょうか(照)
乳酸菌推しなヒロインの性格は知ってますけど、あれは清涼飲料水の括りだからナシですよね。畳の上なら姿三四郎バリの活躍を見せるヒーローの、ベッドの上では役立たずな残念っぷりはお腹を抱えて笑ってしまいました。高スペックで残念なのがお好きでしたら、今度リアルで紹介しましょうか?
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「ほんっ……っごうぉぉぉっ!」
あいつ絶対私のこと嫌いでしょ! なんでこんなタイミングで寄越すわけ? しかもとうとう感想欄じゃなくて直接メッセージ送って来るし! ……ってリンクを辿れば予想通り、作品もブクマもないし、このためだけにアカウント登録したのか、あいつはぁぁぁっ!
ん? 評価した作品はあるのね……って嫌がらせのように私の作品全部に1・1付けてるし!
ガチガチッと荒くマウスをタップして、暗号化/解読ツールに本文をコピペする。仕事相手でなかったら、とっくに本郷アレしてる。仕事相手でさえなければ……!
残念ながら、私も一人の人間なので霞を食べて生きるわけにはいかない。お仕事をしないと生きていけないこの身が口惜しい……!
「あー、はいはい、そういう感じね。はいはい」
手早く着替えて仕事道具をチェック。うん、大丈夫。
マイスイートハートなこたつさんに別れを告げて、私はお仕事に出かけることにした。
☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;:*
「は~~~~……、もう何あれ、人多過ぎるし、みんなヒマなの?」
あんなに人が多いところに居るなんて聞いてない。現場から立ち去りやすいけど、人ゴミは大っ嫌いだ。勘弁して欲しい。
仕事着を洗濯機にポイして回し始めると、こたつの傍に脱ぎっぱなしにしてた部屋着に着替えた。某お布団メーカーのもふもふした部屋着が手触りから保温性からして優れ過ぎてて手放せない。今回のお金が振り込まれたら、もう一着買おうかな。
テレビを付けると、さっきまで居た病院の玄関が映し出されていた。
『こちら、会期中に病気理由の療養に入っていた国会議員の田中三四郎議員の入院している病院前です。この後、午後4時より記者会見が始まるということで、続々と報道関係者が集まっています。田中三四郎議員はいわゆる「黒い疑惑」と呼ばれる公共工事の談合の取りまとめなどが国会で取りざたされており……』
あー、まだ発覚してないか。どっかから漏れそうなもんなんだけど、病院の機密管理ってすごいんだね。何か書くネタになるかな、メモっておこう。
私はパソコンを立ち上げるといつも通りの完了報告をツールに打ち込み、「なろう」のメッセージにコピペして返信する。今回も問題発生せず、無事に仕事を終えました。合掌。
はー……、仕事ってめんどい。早く作家デビューしてこの仕事辞めたい。
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
スマホが鳴る。画面には予想通りに「本郷」の文字。
おかしいよね。
「なろう」ってさ、メッセージ受け取ったら携帯に通知とか、そんな機能ないはずなんだよね。
ってことはさ、私の帰宅時間を予測して、ひたすら完了報告が来てないかチェックしてるってこと? F5キー連打? それ明らかにサーバーに負荷かかるし大迷惑だよね?
「……もしもし」
『お疲れちゃーん、フラン・ハルルイエ先生』
このハイテンション。まじウザい。けどヤるのもめんどい。勝手にどっかでのたれ死んでくんないかな、もう!
「そのさぁ、仕事明けに電話すんのやめてくんない? っていうかもうKI――」
『待って待って、切らないで。ほら、今回は別のコの後始末押し付けちゃった感じだからさ、謝っとこうと思って』
「そんなんで電話してくるぐらいなら、謝罪なんていらない」
『っくぅぅぅぅ、ほんっとにドライだよね。まぁ、そこがキミの好きなとこなんだけどさ』
「は? 何言ってんの? きしょい」
私のことを使いやすい駒としか思ってないだろうに、褒めれば喜ぶとでも思ってるの? いつから頭に蛆わいたんだろう。
『ちょ、ちょっと待って、声に出てるから! ガラス細工みたいに繊細な僕の心が抉られてるから!』
「うん、(口に出してるのは)知ってた」
『ほんとひどいよね。僕、お仕事の斡旋してるだけなのにさ……。失敗した前任者も僕の担当じゃなかったのにさ……。どうせフラン・ハルルイエ先生は、僕のこと嫌いなんだよね』
「うん、DIE嫌い」
『……』
そうか、まだ気づいてなかったのか。安定のウザさばかり際立つ本郷を好きになれるわけがないじゃないか。
『えぇと、なんか、発音、違くなかった?』
「気のせいでしょ。ってか用件終わった? もうKILLよ?」
『いや待って、さっきのって「大嫌い」でいいんだよね? 僕の考えすぎだよね?』
「あぁ、DIE嫌いだから安心して。じゃ」
通話終了をタップすれば、ウザい男の声が聞こえなくなって、なんだか爽快な気分になる。
「さて、とりあえず一次選考通過した『さす俺!~レベル-273から始める勇者の修行日誌~』の続きから書くか。あ、活動報告じゃなくて、次話の前書きに一次選考突破したって書いておこう。それなら後で消しやすいし」
ちなみに、二次選考通過作品リストには、フラン・ハルルイエの名前が載っていなかったため、本郷がめちゃくちゃ八つ当たりされる未来が待っていることを、まだ誰も知らない。