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※短編連作を1つにまとめました
私、佐藤花子。ちょっと引きこもりな所はあるけど、小説家を目指しているの。今も、せっせと作品を書いて、web上に公開してるんだ。小説投稿サイトはいくつもあるけれど、「なろう」っていうサイトを選んだのは、いろんな出版社の賞を、ここ経由で応募できるからなの。
それでね、実は、今、ちょっと緊張してるんだ。
このサイトってね、読んだ人から感想が書かれると、その人のトップページに赤い文字で「新しい感想が書かれました」なんて通知を出してくれるの。親切だよね。……親切だよね。ほんっっっとうに親切設計だよね?
今、目の前に、その通知が出てるの。
嬉しいなぁ。前に感想もらったのいつだったっけ?
あぁ、でも、感想のような誤字報告だったよね。ほとんど感想はなかったよね。誤字報告はそれはそれで嬉しいんだけど!
でも、感想が来たからって、油断しちゃいけないの。だって、辛辣な感想だったらどうするの? 「ラストが残念でした。もっといい終わり方があったと思ったんですけど」とかなんとか書かれたりしちゃったら、私今日一日ブルー確定だよ? ま、引きこもりだし、ブルーになったところで誰かに迷惑かけるわけでもないけどさ。
深呼吸して、気を落ち着けてから、ちょっと震える指で感想一覧へのリンクをたどる。
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投稿者:デューク本郷三丁目@東大
<良い点>
流行りの設定を混ぜ込んで妙な化学変化させたところ
<悪い点>
流行りの設定を混ぜ込んで有害物質発生させたところ
<一言>
いつも読ませていただいてます(笑)。今回もキレッキレでしたね。ヒロインちゃんの猪突猛進ぷりに、お腹を抱えてしまいました。特に、湖で出会った二人連れの片割れに、温泉地で再会したとき、「なにかとれ」→「バスタオル」しちゃうところとかすごいとしか言いようがありません。どこの「オホーツクに消ゆ」ですかって、一人でツッコんでしまいました。相方とのブラックジャックも、やっぱりここからのオマージュですか? この調子で次回作も楽しみにしていますね。
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「ほんっごう~っ!」
さっきまで指が震えていたのに、今は拳が震えている。
毎度毎度、感想を書くなと言っても聞かないのは、どうしてくれようか。いっそ殺すか。
私はツールを起動させると、そこに感想の一言欄のメッセージをコピペした。
「……あーあ、最悪。ほんと最悪。うざっ!死ね!」
何が「デューク本郷三丁目@東大」だ。特に最後の「@東大」なんていらないでしょ。東大卒でもないくせに!
ぷりぷり怒りながら、私は仕事着に着替えると、小さなウエストポーチ一つに必要なものを詰め、玄関へ向かった。
え、引きこもり?
引きこもりって言っても、扶養してくれる人がいないなら、自分で食い扶持は稼がないとね? だから、仕事は別。それ以外はとことん引きこもるけど。外出は敵。おうちでゆるい格好して、だらだらするのが正義。
あー、もう。とっとと仕事終わらせて、あんなクソ感想ポイして、続き書こう。次回作も何も、続きがあるっつーの!
☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;:*
『―――本日、東京都○○区で男性が路上に倒れているのが発見されました。その後、病院へ搬送されましたが、死亡が確認されました。この男性に目立った外傷はなく、発作等により突然死したものと見られていますが、警察では身元の確認を急いでいます』
はー、だるい。くっそだるい。
どうして仕事の後ってこんなにだるいんだろう。
テレビでニュースを流しっぱなしにしながら、だらん、と寝転がる。
『CMの後は、なんと、「お手」と言われると後ろ足を出すワンちゃんの話題です』
缶コーヒーのCMが流れ始めたので、ぷちっとテレビをオフにする。明らかに飼い主を舐め切ってる犬には興味が持てない。
「あー、くっそだるー、うざー……」
ツールを起動させると、テキストボックスに「依頼完了。特に問題も発生せず。振り込みはいつもの通りに」と打ち込み、『感想返信』ボタンを押す。すっかり変更された文面を眺めてチェックし、出がけに確認したクソみたいな感想の返信欄にコピペした。
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<感想返信>
いつもありがとうございます。
今回もお楽しみいただいたようで何よりです。今後も頑張って続きを書いていきますので、応援よろしくお願いしますね。
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画面上の返信ボタンを押して、そのまま床にへちょりと倒れた。あー、ほんっとにくそだるい。
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
どうして、こんなタイミングで電話が来るわけ? あー、だるいのに。だるいのに。
画面を見ると「本郷」と見える。うっざ!
だけど、このまま無視しても、きっと何回もコールしてくるに違いない。知ってる。それ前回やった。ほんとうざい。
「もしもし」
『おーっす、フラン・ハルルイエ先生』
いきなりハイテンションで、しかもペンネームで呼ばれた。うざい。
「うっざ! 死ねよもう!」
『うわ、シャレんならないよ、キミが言うと』
「シャレじゃない。うざ。っていうか、感想寄越すなよ」
『えー? だってメールや電話だとシカトするじゃん? 連絡とろうと思ったら、小説の感想が一番確実なんだもん、しょーがないじゃん』
「はいはい、ちょーうざー」
『もう、仕事の後のテンションひどいなぁ、相変わらず』
「アンタ相手だからだっつの」
『特別扱いありがとー。そしてお仕事お疲れさま。毎回見事なお手並みで―――』
「用がないならKILL」
『ちょ、今、発音おかしくなかった? キミが言うとシャレんならないって。次の仕事なんだけど、また10日ぐらい後に連絡するからさ、準備しといてよ』
「はいはい、うざすうざす。あと感想は寄越すな」
『え? レビュー偽装の方がよかった?』
「よくない。つーか、普通に連絡よこして」
『だったら、メールと電話シカトしないで。こっちだって、証拠とか残したくないんだからさ』
「何のためのツールよ」
『えー、そりゃ暗号化/解読ツール使ってるけどさ、それにしたって』
「……うざ、じゃぁね」
ぷつり、と通話を終わらせる。
とりあえず、スマホの電源も落として、私はこたつにもぐりこんだ。
あの話の続きは、ちょっとひと眠りしてから書こうっと。あと、再来月応募締め切りになってるファンタジー小説大賞用のプロット練り直さないと。期限までに5万字いくかなぁ。がんばろっと。お仕事よりも断然モチベーションが上だわ。やること考えるだけでワクワクする。仕事の方はヤること考えるだけで鬱々するのに。
こたつの中で、もそもそと体勢を整え、私は目をつむった。
私は佐藤花子。ペンネーム:フラン・ハルルイエ。
いつか、小説家になりたいと夢見る、いたって普通の殺し屋だ。