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決闘

 金子芳樹と片山ジローの対立は、収まるどころか、益々激化しているように見えた。二日目になっても、朝から一触即発の危険な状態で、いつ喧嘩が起こってもおかしくない状態だった。

 しかし教師たちに警戒されていることもあり、芳樹とジローはあまりお互いを意識してないような行動をしている。

 しかし、その子分たちは「何かしやがったら、いつでもぶん殴ってやる」と息巻いている鼻息の荒い奴らがいる。この子分たちが、ちょっとしたことで揉め事を起こしてしまう。

 それが二日目の昼にあった。


 昼はカレーを作る。ご飯も「飯ごう」を使って炊くという、キャンプみたいな野外炊事である。数班に分かれて、それぞれ屋外に用意されている竈門で作る。

 涼子も同じ班の子と一緒に、ワイワイいいながら楽しくカレーを作っていた。

「ミーユ、ジャガイモ切れた?」

「もうちょっと。ニンジンは切れたよ」

「えぇ、わたしニンジンきらいだから、あんまり入れないでよぉ」

「だめだめ、たっくさん入れちゃうから」

「ちょっとぉ、裕美ぃ。カンベンしてよぉ」

 とても楽しそうである。

 涼子がご飯の様子を確認しようとしたとき、背後から怒号が聞こえた。一斉に声の方向に注目が集まる。

 泉田小の男子が、ふざけて戯れていた時、つい勢い余って由高小の方へ突っ込んでしまった。そしてそれに背を向けて、一生懸命調理している男子の背中を押してしまった。その勢いで四つ炊いていた飯ごうのひとつを蹴飛ばして倒してしまったのだ。挙句に蓋が外れて中身をぶちまけてしまった。

 背中を押された男子は芳樹の子分、小林秀樹で、当然のごとく激怒した。

「このやろう! 何しやがんだ!」

「ご、ごめん」

 押してしまった泉田小の男子はごく普通な感じの子で、怒鳴る小林にひたすら謝っていた。

 が、小林は敵と思っている泉田小の奴にやられた、と感じて、調子に乗ってどついた。バランスを崩した泉田小の子は、足場が悪かったこともあって、転んで足を強く打撲してしまった。足を抑えて痛がる。

「あ、どうしたん! なあ、大丈夫か?」

 同級生たちが集まってくる。そこにジローの子分が大袈裟に騒いだから、対立の導火線に火がついた状態だった。

「おい、お前! 泉田小を舐めてんのか!」

 ジローの子分、秋ヤンこと秋山幸一が、小林に突っかかっていき、肩をどついた。直接手が出ると、もう激突は避けられない。途端に数人が集まって喧嘩が始まった。

 が、近くに関口や斎藤たち教師がいたため、すぐに喧嘩は収まった。双方ともに散々に怒鳴られ、罰として後片付けを他の生徒より余分にやらされることになった。

 このため、教師たちにかなり警戒されることとなり、この日の夜のキャンドルサービスや、翌日のトリムコースなど不穏な動きは見られなかった。この辺りは、両校の生徒共に和気藹々と山の学校を楽しんでいた。涼子もかつての幼馴染である宮地可南子と、お互いの友達を紹介し合い、友達同士も仲よくなった。平穏で楽しい時間である。


 しかし、両者の対立はまったく解消されていなかった。

 三日目のトリムコースが終わった後の休み時間。ジローは芳樹を呼び出した。わざわざ使者を遣わして、一対一のタイマン勝負を持ちかけたのだ。三日目は最終日であり、もう何時間もいない。このままだと雌雄が決する前に別れてしまう。やはりどっちが強いのかはっきりさせようぜ、と言うことらしい。

 芳樹は、望むところだ、と受けてたった。邪魔が入ってはいかんということで、双方から見張りを用意して決闘をする。カレーを作った屋外炊事場の向こうの雑木林の辺りでやるつもりだ。


 このことを偶然知った悟は、決闘を止めようとしたが、朝倉は「力任せしか脳がない馬鹿な連中だ。放っておけよ」と言ったが、悟はそれでも「放っておいていいわけがないよ」と言って止めに行った。佐藤信正も「いざこざを放ってはおけん」と悟の後を追った。

 朝倉からしたら、関係ないのにそこまですることなのか、という考えのようだ。余計なことに首を突っ込んで何の得があるのか、理解に苦しんでいる。そもそも教師に告げ口すれば解決するじゃないか、とも考えたが、それをやると芳樹もジローも教師から怒られることになるから、なるべく自分の手でやめさせたいのだろうと思った。

 何にせよ、加納が何かしようとしていたことが失敗に終わったことで、朝倉は肩の荷が降りて、残りはのんびりしたいと思っていた。

「まったく、お節介な性格だな。まあ、それが彼らのいいところでもあるんだろうが」



 対峙する金子芳樹と片山ジロー。ジローは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

「とうとうどっちが強えのか、決着をつけられる時がきたな」

「望むところだぜ。お前如きには負けるわけねえからな。それからヨォ、卑怯な真似はすんなよ」

「ああ、心配すんな。一対一の決闘に手を出しやがったら、俺がそいつをぶん殴る。絶対にやらせねえよ」

 ジローはそう言って、子分たちを睨んだ。皆一斉にすくみ上がり、息を呑んだ。

「よっしゃ、来いや。熊ヤロウ!」

 芳樹は、かかってこいと言わんばかりに挑発した。

「そっちから来いや!」

 しかし、ジローはジローで芳樹の方からかかってこい、と言う。

 暫し沈黙が漂った。



 涼子は、自分の友達数人と宮地可南子とその友達たちと一緒に集まっておしゃべりしていた。もう数時間後にはそれぞれのバスに乗って、この山の学校を後にするのだ。それまで、少しでもこの新しい友達と仲よくしたい。

 そこへ、先ほど便所へ行っていた、友達の村上奈々子が血相を変えて戻ってきた。

「ねえ、あのふたりまたケンカするらしいよ!」

「ええ? それほんと?」

「本当よ、さっき及川くんと佐藤くんが、止めにいくって行っちゃったよ」

「何なのよ、あのふたりって。どうして仲よくできないかなあ」

 涼子は驚きを隠せない。結局、最後まで何か問題を起こさないと気が済まないらしい。

「男子ってどうしてケンカしたがるんだろ」

 可南子も困惑している。

「ジローくんも分別のわかる子になったな、って思ったけど……やっぱりまだまだ子供だよ」

「ねえ、涼子ちゃん。一緒に止めに行こうよ」

「うん。あんにゃろう……せっかくこうしてみんな楽しんでいるのに、どうしてぶち壊すようなことするかなあ」

 涼子と可南子が止めに行き、他の女子が先生に言いに行った。



 対峙して数分が経つが、まだ睨みあったままだった。何のこだわりがあるのか、どちらも相手から先に攻撃させようとしているようで、こんな有様となっている。もしかしたら、自分から向かっていくよりも、迎え撃つ方がカッコイイとでも思っているのかもしれない。

 しかし芳樹は気が短いこともあってか、先に我慢の限界がきたようだ。

「こんなことやっててもしょうがねえ——オラァ!」

 芳樹は一気に突撃し、ジローの腹に向かって頭突きを食らわした。かなり強烈だったようで、さすがのジローも倒れはしなかったものの、苦痛に顔を歪めた。

「……なかなかやるじゃねえか——よっ!」

 ジローは芳樹の腹めがけて思い切り殴った。

「うぐっ!」

 殴られた瞬間、大きく目を見開いて、ジローの鉄拳が確実に効いていることを証明した。

「お、おめえこそ……結構、いてぇ——なっ!」

 芳樹は、今度はジローの頬を殴った。予想以上の衝撃によろめき、とうとう膝をつくジロー。

「ああ、ジローくん!」

 ジローの子分は、初めてみるジローが崩れかかった様に、悲鳴に近いような声を上げた。

 突然、得意な顔をした芳樹の襟元をジローが掴んだ。引っ張られて転がる芳樹とジロー。そのまま取っ組み合いの喧嘩になった。たちまち枯れ草と土埃に塗れるふたり。

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