表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/268

芳樹の気まぐれ

 女子更衣室の覗き騒動は、結局犯人が見つからないまま、数日が過ぎた。

 涼子は、金子芳樹が言う小柄なおじさんだと言うのは、嘘だと考えていた。涼子が見た影は子供に見えたのだ。しかし、なら誰だったのかというと、それはまったくわからない。また、それはそうとして、なら芳樹もどうしてそんな嘘を言ったのか、それもわからなかった。


 涼子は及川悟や矢野美由紀とともに、よく作戦会議を開催していた。朝倉隆之をはじめとした仲間たちが協力してくれないものの、自分たちだけでもやるべきことをやらなくては、と思って精力的に活動していた。

 今日も学校から帰った後、三人で作戦会議だ。この日は以前の覗き騒動のことについて話している。

「うぅん……私も金子くんが言うことは嘘だと思ったけど。確かにどうして嘘言ったのかっていうとねぇ……」

 矢野美由紀は言った。悟もそれに同意した。

「そうだね。僕もデタラメだと思う。まあ、単なる気まぐれかもしれないけど、何か考えがあっての事かもしれない」

「でしょ。私は何かあると思うんだよね」

 涼子は、芳樹がデタラメを言ったとは思っていなかった。

「ねえ涼子。いっそ金子くんに聞いてみてくれない? 多分私たちじゃまともに取り合ってもらえないかもしれないけど、涼子なら……」

 美由紀が言った。涼子は芳樹の弟を助けようとしたこともあり、美由紀たちよりも友好的だと考えられていた。

「わかった。でも金子くんって偏屈だからねえ」



 翌日、涼子は金子芳樹に声をかけた。

「——別にどうと言う話でもねえよ。確かにデタラメだな。犯人なんて見てねえし」

 芳樹はつまらなさそうな顔で言った。

「やっぱり。何か考えがあったのかなって思ったけど……」

「考えって言うほどじゃねえが……なんかよぉ、加納がなんか言いたそうだったからな」

「加納くんが?」

「ああ。あのスカシ野郎、再生会議を乗っ取ってから随分積極的になったじゃねえか。なんか鬱陶しくてな、先に適当なこと言ってやった」

「か、金子くん……」

 涼子は苦笑いした。

「なんか悔しそうな顔してたぜ。はっ、ざまぁねえ!」

 芳樹はその時を思い出して大笑いしだした。

「金子くん、結構いじわるだね……」


 芳樹は、少し間を置いて真顔に戻ると、神妙な顔をして話し始めた。

「……まあ、ちょっと聞いてな。あれ……俺が出しゃばらなかったら、加納が何か言って、それで解決するということで未来が変えられる……要するに因果だと聞いた」

「え、そうなの?」

「ああ、奴らは表立って動いてねえように見えるが、裏では何やらいろいろやってるぜ」

 涼子は驚いた。芳樹の行動自体は気まぐれだったようだが、あの時に何かの因果が発生していたという。加納が気に食わないから邪魔してやったということのようだ。

「そうだったんだ……ねえ、因果って私に関しての?」

「いや違う。今までのとは違うものだ。これまで色々やってきたのは、お前に関する因果だよな。しかし最近、加納は別の因果をこなそうと動いている」

「べ、別の因果……別のって、別の人の? 加納くん自身のとか」

「ああ。加納のかどうかは知らねえけど、これまで通りの、お前に関してのとは違うのは間違いねえ」

 金子芳樹は、先日の、嘘の犯人を見たっていう話は、何か別の因果に関するものだという。因果は誰にでもある。誰に関するものかはわからないが、芳樹は組織内にいる親しいメンバーにこっそり話を聞いたらしい。

 やはり加納慎也は、なんらかの目的をもって行動しているようだ。

「ま、奴は何を考えているか検討もつかねえ。俺に言えることはここまでだな——じゃあな」

 芳樹はそう言うと、涼子を置いてさっさと行ってしまった。



 この日の下校後、ふたたび悟と美由紀と三人で集まって、金子芳樹から聞いた話を話した。

「——なるほど、別の因果に切り替えた——いや、切り替えたんじゃなくて、同時に進行させているのかもしれないが——とにかくそれで、最近動きがさっぱり見えないわけか」

 悟は言った。それを受けて、今度は美由紀が言った。

「だとすると加納くんは、世界再生会議が裏で支配する未来ではなくて、自分が望む別の未来に変えたくて動いているというわけね」

「うん、そしてこれまでの因果に関しても、もしかしたらこれをやるための下拵えだったのかもしれないね」

「なんかちょっとだけど、加納くんが何をしようとしているのか、筋道が見えてきた感じがするね」

 涼子が言った。

「うん。まあ、その目的はいまだにわからないけど」

「一歩だけだけかもしれないけどさ、進めたじゃん。涼子、及川くん、私たちだけだってやれるよ。がんばろっ!」

「うん!」



 夕暮れ時、数人の子供が公園の片隅で何かを話し合っている。その子たちは、加納慎也とその側近たちだった。

「金子芳樹……彼は何を考えている?」

「わかりません。基本的には我々の計画には関与しないつもりらしいですが……」

「——忌々しい。気まぐれとでも言いたいのか」

「まだあるじゃないですか。これはそこまで重要ではないでしょう」

「ええ、そうです。だからそこまで深刻には考えていません。しかし——」

 そこまで言って、加納の目が光った。

「組織の風紀を厳しくしておかねばなりませんね。——彼がこれを自力で知ることは難しいでしょう。誰かが漏らしたとしか思えません」

「わかりました。それから、出どころも調べておきます」

 側近のひとりが言った。

「ええ、頼みますよ」


「しかし気になるのは……金子くんの動きですね。彼が何を考えているのか」

 加納は金子芳樹の動向を警戒しているようだ。もう組織には用がない、と出ていったが、涼子が芳樹の弟を助けようとしたことに恩義を感じて、影ながら支援しているという疑いも考えているようである。

「知らないようなふりをして、邪魔をしてくる可能性もあります。警戒はしておいた方がいいでしょうね」

 加納の側近たちも同様に芳樹を警戒している。彼の行動力は侮り難いと考えている。

「しかし、彼は何が不満なんですかね? 前から反抗的でしたが……我々は金子の弟を救うべく行動したはずですが。実際に死なずに済んだわけだし……」

「彼はそもそも僕を嫌っていました。多分それでしょう。彼に気質は僕とは真逆ですよ」

 加納が言った。おそらくその通りだと思われる。

「本当に気に触るやつだ。やっぱり俺は好かん」

「俺もだ。前から気に入らんやつだった」

 側近たちは、どうも芳樹とは合わないらしく、次々に愚痴を言い合った。

「まあいいでしょう。彼ひとりがどこまでやろうと、所詮は限界が見えている。それよりも組織内を厳しくしてください。それで金子くんは手も足も出なくなるでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ