とりあえず三人で
悟は、涼子と矢野美由紀と協力して加納のことを調べていた。
しかし加納のガードは硬く、なかなか新しい情報を得ることができないでいた。
富岡絵美子との関係もさっぱりわからぬまま一ヶ月以上が過ぎ、梅雨が明けて真夏の空が眩しい季節になった。
悟は朝倉に何度も声をかけ、一緒に調査しようと言ったが彼は何も言わず、ただその場を立ち去っていった。その後ろ姿は悟に何かを語っているようで、しかしそれが何を言わんとしているのか、悟にはわからなかった。ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「朝倉くんにも困ったもんねぇ」
涼子は矢野美由紀と掃除のゴミ捨てに一緒に向かいながら、朝倉の様子をふたりで話していた。
「特に因果については、基本的に朝倉くんと加納くんが計画してたからね。いつどんな因果があるのか、私たちじゃよくわからないのよ」
「だから朝倉くんがやる気出してくれないと、行動のしようがないってわけか……」
「そういうこと」
美由紀は頷いてため息をついた。
焼却場に到着した。数人が並んでおり、涼子と美由紀はその一番後ろに並んだ。
「まったく、何考えてんだろうねえ」
涼子も呆れた顔をしてため息をついた。
「でもさ、信じていた人に裏切られるっていうのは辛いものよ。それも自分たちのやってきたことを、ほぼ全否定されたような物だし」
「まあねぇ、それはそうだけど……」
自分たちの順番が回ってきたので、焼却炉にゴミ箱の中を放り込む。そして教室に戻るためにUターンするが――視線の向こうに佐藤信正がいた。
「ちょっと、佐藤くん!」
涼子が呼びかけると佐藤は振り向いた。
「なんだ? 何か用か?」
「何か用かじゃないでしょ。ミーユ困ってるじゃん。仲間でしょ。何で手伝ってあげないのよ!」
涼子は佐藤たちに感じていた不満をぶつけた。
「……調べているのは矢野たちの勝手だろう。何で俺が手伝わんといかんのだ」
「何、その冷たい言い方!」
「別に何をしようと勝手だが、俺は俺で考えがある。そもそも何が正しいのかわからないんだぞ? そんな状態で何ができる!」
「それでも何かしないと前に進めないでしょ。裏切られていじけてさ、何にもしないなんてサイテー」
「ちょっと、涼子――」
険悪なムードに美由紀は慌てて止めに入ろうとした。しかし佐藤は、怒りで顔を真っ赤にして吠えた。
「何だと! 決死の思いで過去にやってきた俺たちの気も知らないでよく言えるな!」
「知るわけないでしょ! 私はあんたたちが無理矢理連れてこられたようなものだし! それでも男の子なわけ? 大変でも、難しくても必死に頑張ってるミーユや悟くんの方が、かっこいいし立派だよ!」
「な、何だと! き、貴様——」
周囲にはそんなに多くの生徒がいたわけではないが、突然ケンカになったふたりの生徒に注目が集まる。
「ふたりとも何やってるの! 先生が来るわよ!」
掴み合いになりそうなところを、美由紀が強引に割り込んでやめさせた。そして程なく教師が何事かとこちらを見ていた。それに気がついたふたりは慌てて離れて、お互い別の方向に走って行った。
教室の近くまで戻ってきた涼子と美由紀は、息を整えて先程のことを愚痴った。
「まったく、何なのよあの態度! 本当に腹立つ! でも……こりゃ、どうにもならないわね。あの佐藤くんがああだし」
佐藤はちょっと横柄な印象があるものの、正義感と使命感は人一倍強い。それがあの様子では相当深刻な状態だ。
「そうね。でもこのままじゃだめなのよ。私も及川くんと同じで、きっと何かあると思うの。……まあそれが何かさっぱりなんだけど」
美由紀は言った。
「……まあ、さ。私も協力するわ。だから頑張ろ!」
「うん、ありがと!」
美由紀は笑顔で答えた。
放課後、涼子は悟と美由紀で作戦会議を行った。悟は今調べていることを言った。
「前から探してはいるんだけど、世界再生会議のアジトを見つけたいんだ」
「アジトかぁ、何か悪の組織っぽくていいよね」
涼子はニヤニヤしながら言った。しかしすぐに美由紀が咎める。
「ちょっと涼子、真面目な話をしてるのよ」
「ごめんごめん——でもアジトだよね。あの人たちみんなこの辺で活動してるんでしょ。だったら私たちの行動範囲でどこかにあると思うけど」
「そうなんだ。ただ、定期的に場所を変えている可能性もある。僕たちは、実はずっと前から探してはいたんだ。しかし見つけられなかった」
悟は少し悔しそうな顔をして言った。
「そう。でもそれらしき場所はいくつかあるのよ」
美由紀が言った。
「え、そうなの? そこを調べたら……まあ、証拠を残すくらいならこんなに探していないか」
「うん、なかなか徹底しているみたいでね。情報は得られなかった」
世界再生会議の拠点は、実際に複数あった。そこをグルグルと一定期間使っては、また別の場所に移って、ということを繰り返していた。
「ねえ、金子くんは? 金子くんは抜けたんでしょ。何か教えてくれないのかな」
涼子は、金子に聞いてみることを提案した。しかしそれもだめだったようだ。
「金子くんには前に聞いたんだけどね。組織を守る義理はないが、仲のいいメンバーも残っているから、と断られたよ」
「ははは……やっぱそうだよね」
涼子は、なかなか難しいな……と改めて思った。自分がちょっと考えたことなんて、もうみんなすでにやっていることなんだ、と思うと少し恥ずかしくなった。
それからもしばらく、あれこれ提案してはダメだったを繰り返し、少し日が落ちてきた頃にお開きになった。
家の方角が違う美由紀はすぐにふたりに別れを告げて帰っていった。涼子は悟と一緒に帰路につく。
「なかなかいいアイデアってないね」
「しょうがないよ。でも簡単に諦めていたら元も子もない。根気よくやっていくしかない」
「そうだね。——でもさ、最近全然動きがないね。世界再生会議の人たち」
「確かに。因果に関して何かあれば、何かしら見られるはずなんだけど……まあ、今は重要な因果がないという証拠だと信じたいよ」
涼子の家の前まで帰ってくると、さらにその先に家がある悟と別れた。
涼子は、向こうから手を振る悟に手を振りかえして家に入った。
何も起こらないこともあって、ただ時間だけが過ぎていき、平穏な日常が繰り返される。いくつもの問題を背負ったまま。
このままこの平穏な時間が続いていくのか、それは誰にもわからない。




