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ばったり遭遇

 少し待っている時、加納ではなく涼子がやってきた。

「あれ、みんなこんなところにいたの?」

 涼子は斎藤を見送った後、悟たちが近くにいるんだろうと思って、少し周辺を探していた。が、見つからずどこかに行ってしまったと思っていた。結局わからないので、今日は諦めて家に戻ろうとしたところ、意外にも近くにいることに気がついた。

「うん、家の近くで様子を見てたんだ」

 悟が言った。

「そうだったの? あのさ、小島先生なんだけど――」

 涼子は少し気まずそうな顔をして言った。

「それも見ていたよ。ちょっと予定とは違った形になったね」

「そうなのよ。あれ、よかったの?」

「まあ、大丈夫だとは思う。確信は持てないが、なんであれ知り合うことはできただろう」

 朝倉は難しい顔をしているが、問題ないだろうと判断している。

「まあ、そうなんだけど……でも、名前も聞いてないし、多分先生だと思うんだけど、名前を聞いてない」

 大丈夫だと言われたものの、涼子は少し不安になっていた。そこに朝倉が声をかけた。

「加納が来るのを待って、協議したら解散する。お前は帰った方がいい。もしかしたら、またすぐに小島と何か新しい接点があるかもしれん」

「うぅん、なるほど……そうかもね。わかった、それじゃまた明日ね、バァイ」

「涼子、バァイ」



 涼子が家に戻って十分かそこら経ったころ、加納が朝倉たちの元にやってきた。

「すみません、遅れました」

 加納は申し訳なさそうに、小声で言った。

「何かあったのか?」

 朝倉が尋ねると、

「富岡さんとばったり会いまして。ちょっと足止めをくらう羽目になりました」

 加納が説明するに、大分大回りして涼子の家を目指していた途中、偶然に会ったという。どうも困っているようだったので、無視するわけにもいかず、声をかけようとしたら富岡絵美子の方から声をかけてきた。財布を落としたという。

 かなり困っているようだったので、先を急ぎたいが一緒に探すことになった。

 なかなか見つからず時間だけが過ぎていき、常に冷静な加納も焦りを隠しきれなかった。しかしどうにか見つけることができ、お礼を言われて別れた。そしてこちらへ向かったという。

「ああ、それだったのか。その時を見かけたんだね」

 岡崎が言った。彼はその別れ際の加納と絵美子を見かけたのだ。

「すでに終わったようですが、どうなりましたか?」

「一応、藤崎と小島は知り合ったようだが――」

 朝倉がざっと説明すると、加納は安堵の表情になった。

「それなら大丈夫だと思います。問題は藤崎さんと小島氏が知り合い、今後も親しくすることが重要なのです。斎藤先生はそもそもここでばったり出会うはずではないのです」

「そうだな。……よし、今回はこれで完了だ。もう用はないからここで解散しよう。では、また明日」

 朝倉は今回の因果を達成と判断して仲間と別れた。みんなまた次の因果まで普段の生活に戻っていく。



 朝倉たちがそんなことをやっている時。

 涼子は家に戻った。が、家の中では小島と会うことなどないだろうと思った。名前も紹介されていない段階で、知り合ったと言えるのだろうか? と、ふと考えたからだ。それに懐かしさもあって、もっとちゃんと話をしてみたいと思っていた。

 何か適当に外を歩く理由でも考えて、「つるみ商店」に行ってお菓子でも買ってこようかと思った。

 学習机の引き出しに入れてある、財布を取り出した。黄色に白い水玉模様のお気に入りの財布である。開けてみると、二百円くらい入っている。五十円分くらい買うつもりだ。もうすぐ晩ごはんなので真知子にバレると怒られるが、こっそり買えば大丈夫だ。

 家を出るとキョロキョロと周辺を見回した。小島はいない。まあ、そう簡単には遭遇しないかと諦め、つるみ商店へ向かった。


 歩いて数分の位置にある店に入ると、店主のおばちゃんがいた。それに小学校低学年くらいの男の子がふたりいて、嬉しそうにおしゃべりしながらすぐに店を出ていった。

「いらっしゃい、涼子ちゃん。お使い?」

「ううん、何かお菓子買おうと思ってね……あ、ビックリマンがある」

 涼子は驚いて、思わず声をあげた。最近自身の周囲でも人気が高まっている話題の菓子「ビックリマンチョコ」である。そういえば、さっきの子たちも「天使だお守りだ」などとビックリマンについての話題と思われることをしゃべっていた。

 天使VS悪魔シリーズの、おまけシールの人気は社会現象といってもいいくらいに子供たちの人気を集めた。

 この昭和六十一年の4月頃はシリーズ第5弾で、ヘッドが「サタンマリア」の時だ。この田舎でも人気はすでに相当高くなっている頃で、店頭に並べばあっという間に売れていく。さらに来年の今時分には人気も絶頂で、もはや「ひとり一個だけ」と販売制限を設ける店まで現れるくらい凄まじい人気になっていく。

 涼子も周囲での人気の高まりもあり、よく買っている。特に翔太は小遣いが少ないくせに、ずいぶんコレクションを増やしているようである。前に、第四弾のヘッド「聖フェニックス」を当てたことを自慢していた。

「昨日、入ってきたのよ。なんか人気があるんでしょ? みんな買っていくんだから」

 おばちゃんはニコニコしながら言った。

「うん、シールが欲しいんだよね。チョコもおいしいけど」

「シールがねえ」

 おばちゃんは、何がいいのかよくわからないけど売れるのはいいことだ、と考えていた。駄菓子もいろんなものが出てきては消え、消えたと思ったら新しいのが出てくる。近年はおまけのついたものが目立ち始め、割と売れ行きがいいと感じており、つるみ商店としても力を入れたいところだった。

「私も一個かおっと。それから――おばちゃん、これください」

 涼子はビックリマンチョコと、そばにあった東豊製菓の「ポテトフライ」を手にとった。ビックリマンは三十円で、ポテトフライは二十円なので、これで合計五十円である。

「はい、五十円ね。いつもありがとうね」

 おばちゃんは涼子から五十円を受け取ると、ニコニコしながら五十円玉を仕舞った。レシートもなければふたつだけなので袋もない。さらに言うと、商品は涼子が持ったままである。もちろん涼子が手にとったのを見ているし、どの菓子かもよく知っているので、こんな適当な精算なのだ。色々と緩かった時代である。

 涼子が店を出ようとした時、客がひとり入ってきた。

「やあ、おばちゃん」

「あら、いらっしゃい」

 ニコニコしながら入ってきた青年は、なんとあのブレーキの壊れた自転車の青年だった。涼子は「こんにちは」と挨拶した。

「お、こりゃさっきの子だね。いやあ、奇遇だねぇ」

 青年は涼子のことを憶えていた。

「あの、自転車はどうしたんですか?」

「あれは駄目だね。ブレーキが壊れているし、僕には直せそうもない。お金ないけど新しいの買うしないねえ。ははは」

「そうなんですか」

 ふたりで話していると、つるみ商店のおばちゃんが声をかけてきた。

「おや、あんたたちは知り合いなのかい?」

「今日、ブレーキの壊れた自転車に乗ってて、危うくぶつかりそうになったんですよ。ははは、いやはや危なかった」

 小島はそう言って笑っているが、涼子は、ぶつかりそうになったというか、かなり豪快に転倒した小島の方が大丈夫だったんだろうか、と思った。

「僕は小島昭三というんだ。ここよりちょっと北にアパートがあるの知ってる? そこに住んでるんだ」

 やはり彼は小島昭三だった。涼子は懐かしさでうれしくなったが、あまり顔には出さず、冷静に対応した。

「あ、わかります。赤い屋根の田中さん家の向かいにあるアパートですよね」

「そうそう。君と会ったあの辺からも見えるよね。あのボロアパート」

「私の家は小島さんが転んだところなんです。私は藤崎涼子といいます」

「じゃあ、結構近所だったんだね。涼子ちゃん、ご近所同士よろしくね」

「はい!」

 なんだかんだで、親しくなってしまった。そして、自分が大学院生だと言うことなど、色々自己紹介された。


 小島はすぐにビックリマンを見つけると、ひとつ手にとって購入した。小島はビックリマンに目を輝かせていた。

「小島さん、ビックリマン好きなんですか?」

「うん、いいよねえ。今回はサタンマリア二種類あるけど、まだ片方しか持ってないんだよね。お金があったらもっとコレクション増やせるんだけど、貧乏学生には厳しいよ」

「……そうなんですか」

 涼子は意外に思っていた。ビックリマンなんて、小学生までしか興味はないと思っているからだ。

 元の記憶では、確かにSFが好きで、アシモフだブラッドベリだディックだなどと小学生相手に熱弁していた。さらに思い出してみれば、モビルスーツがどうとか、コロニーがミノフスキー粒子が、などと、そういう話もよく話していた。アニメの話などはかなり好きだった。

「そういえば涼子ちゃんもビックリマン買ったんだね。開けてみないのかい?」

「ええと、もうすぐ晩ご飯だし、今はまだいいかなって」

「そうかい。後で何が当たったか見せてよ。もしよかったら交換しよう」

 小島は嬉しそうに言った。

「うん、今度また――もう帰らないと」

 涼子は小島に別れを告げて、店を後にした。


 家に戻った涼子は、先ほどの小島を思い出し、色々思いを巡らせていた。

 ――それにしても……やっぱり小島先生って、若い頃からあんな感じだったのねぇ……。

 未来の記憶で、小島の家に招かれて、そこで小島の妻に愚痴をこぼされたことがある。「もう、あのひとったら、訳のわからないガラクタばっかり集めて! 困ってるのよ、まったく!」とプラモデルの箱の山を尻目に、不満げに溢していた。

 ふたたび子供の頃を思い出すと、プラモデルやテレビゲームなども好きで、やっぱりああいう性格なんだな、と再確認した。

 どうであるにせよ、懐かしい恩師である。家まで帰る間、嬉しさでニヤニヤが止まらなかった。

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