表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/268

友達と

「りょうこちゃん、それなに?」

 仲のいい女の子の友達、宮地可南子が涼子の描いている絵を見て言った。敏行たち自分の家族三人を描いたつもりだが、それぞれ人間に見えないような気がしている。ぱっと見は、熊か何かの動物っぽく見える。それは多分、耳の位置が変なのも原因のひとつではないかと思う。

「お父さんとお母さんと翔太」

 そう言うと、加奈子は当然の質問を言った。

「翔太って、お兄ちゃん? 弟?」

「弟だよ」

「わあ、いいなあ。かなこも弟がいたらいいのになあ」

「ふぅん、かなちゃんは弟が欲しいの?」

「うん。かなこ、ひとりっ子だから。妹でもいいんだ」

 可南子には、弟がいる涼子は羨ましいようだ。しかし、涼子からしたら、翔太は我儘ばっかり言って、敏行はそれを許してしまっている、困った弟だった。敏行は甘いが、真知子は逆に厳しい。

「でもうるさいよ。テレビなんて絶対ゆずらないもん」

「そうなの? でもかなこだったら、弟がいたらすごく仲良くなれると思うんだぁ」

「だといいね、翔太みたいなわがままは困る」

 そうこう話していると向こうから、

「はぁい、みんな。お昼の時間ですよ」

 先生の声がして、お絵かきの時間は終了した。



 涼子はテレビを見ている。翔太と一緒にテレビの前に座って見ている。見ている番組は、「魔法少女ララベル」だ。ふたりはテレビ画面に食い入るように見ていた。

 魔法少女ララベルは、涼子が幼稚園に入園する少し前の、昭和五十五年(一九八〇年)の二月に、「花の子ルンルン」の後番組として放送開始した。魔法界から事故で人間界に落ちてしまった、主人公ララベルが、老夫婦に助けられて人間界で生活していく、というストーリーである。このララベルで、長く続いた東映魔女っ子シリーズも最終作となる。

 ちなみに「花の子ルンルン」や、その前番組の「魔女っ子メグちゃん」も視聴していた。涼子は、最初はあまり興味がなかったが、女児向けのアニメなどもある程度はみておかないと、変に思われるかもしれないので、とりあえず当時放送中の女の子向けアニメを見ていた。みていると以外に面白いと思うようになった。なんだかんだで毎週視聴しており、最終回を迎えるとその後番組も継続してみている。

 前の世界にて、小さい時にみていた特撮ものなどにも興味があった。この時期だと、「ウルトラマン80」や「電子戦隊デンジマン」などが放送されていた。翔太はこの種の戦隊モノに興味津々で、内容を理解しているのか不明だが、一心不乱にテレビ画面に釘付けになっていた。

 ちなみにこのララベルの時間帯は、ちょうど夕食の後で、敏行はNHKのニュースを見たかったようだが、子供にチャンネルを占領され、ララベルの終わる午後7時半から三十分しか見れなかった。ちなみに、この午後7時台は他にも前述の「ウルトラマン80」や、翌年からは「Drスランプ アラレちゃん」が放送開始するなど、どの曜日も子供向け番組が目白押しで、特に翔太がアニメを見たがるため、ニュースはほとんど見れなかった。敏行も次第に諦めてしまったようだ。


「りょうこちゃん、ララベルみた?」

「うん、見たよ。面白かったね」

「そうだよね。かなこね、ララベルのステッキほしいなあって思うの」

 可南子は嬉しそうに言った。

 ララベルのステッキというのは、作中に登場する、ララベルが魔法を使う際に使用するアイテムで、玩具メーカーのポピーから発売されている「クルクルステッキー」などがある。安っぽいプラスチックの女児向け玩具ではあるが、これを振ってララベルになった気分になれるわけである。男児向けの、仮面ライダー変身ベルトなどと同じ方向性のおもちゃだ。このごろのアニメ作品は、玩具メーカーがスポンサーについているのが当たり前で、大抵は放送に連動して、作中に登場するアイテムを商品化し、スポンサーは売り上げを得る。

 涼子は、アニメの方は割と面白いと思っていたが、この種のおもちゃは興味がなかった。ただ、前におもちゃ屋で売っていたのを見かけていたし、コマーシャルを見たことがあるので、存在は知っている。

 可南子は「ベララルラー」と呪文の言葉を言いながら、魔法のバトンを振る仕草をしている。別の園児にも持っているという子がいて、結構人気があるんだな、と思っていた。

 ふと加奈子は、涼子の方を向いて、ニコニコと笑顔を振りまいている。

「じつはね、買ってもらえるんだよ」

 可南子は言った。

「え、そうなの?」

「うん。お父さんがね、ボーナスっていうのもらったら、買ってくれるって」

「ふぅん」

 なるほど、と思った。今は六月だし、早い会社はそろそろボーナス支給が始まる。ちなみに涼子は、前の世界において複数の会社で働いたが、まともにボーナスが出た会社はない。そのまんま寸志と言っていいレベルの金額しかくれなかった。しかも、そんな寸志ですら出さない会社もあった。

「ボーナスいいね。うらやましい」

 涼子は、ろくにボーナスをもらえなかったので、つい、本音が出てしまった。それを可南子は不思議そうな目で見ている。

「涼子ちゃん、ボーナスって何かわかるの?」

 余計なことを言ったなあ、と思いつつも、幼稚園児に難しいこと言っても理解はされないだろうし、特に問題ないだろうと考えた。

「まあね。詳しく言うと長くなるけど、ざっくり言って毎月のお給料とは別にもらえるの。ご褒美みたいなものね。大抵は一年に二回もらえるんだよ」

 涼子のいうことに、呆然と聞いている可南子は、「へえ……りょうこちゃん、すごい。先生みたい」と、言った。その目は涼子が魔法使いにでも見えているのだろうか、と思うくらい尊敬の眼差しだった。予想通り可南子は、あまり涼子のいうことを理解している風ではなかった。まあ幼稚園児だから、やっぱりそんなものだろう、と思ってそれ以上深く考えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ