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宮田の思惑

 帰りの会が終わって、生徒たちの下校が始まる。そして、因果をめぐる戦いの幕が切って下される。

 朝倉たち数人が通学路で待ち伏せするために、帰りの会の終了を待っていたが、金子芳樹が同級生と揉めて、帰りの会が少し遅くなった。

 朝倉は、金子芳樹が意図的にやったのだろうと考え、恨めしそうに睨んだ。


「佐藤、矢野。頼んだぞ!」

「まかせろ!」

 佐藤信正と矢野美由紀に声をかけると、ふたりはひと言返事すると、すぐに駆け出した。彼らは現場付近に先回りして、世界再生会議のメンバーを排除する役目だった。

 先生から用事を申しつけられた悟と岡崎謙一郎も、後から駆けつける予定だ。再生会議の差金によるものだろうと予想された。

 涼子と横山佳代は、金子和樹を監視する役だ。朝倉隆之も通学路の途中に伏せて様子を見る。現場でメンバーに指示を出す役目だった。

 加納慎也は、世界再生会議の動向を探るために単独で動いている。


「涼子、あの子だよ」

「うん? ……あの青い手提げ持ってる子?」

「そう」

 物陰から様子を伺う涼子と佳代。五、六人の男子が出てきたが、その中のひとりが金子和樹のようだ。涼子も佳代も事前に誰かは説明を受けており、先日、物陰から「あの二年生だ」と朝倉から言われ、顔を知っていた。

「友達と帰るのかと思ったけど、ひとりなんだね」

「うん、もしかしたら金子くんがひとりで帰るように言ったのかも。関係ない子がいたら面倒そうだし」

「なるほどね……佳代、私たちも後を追ってみよ」

「うん」

 ふたりは和樹の後方からゆっくりと痕をつけていった。



 金子芳樹は、弟を死の運命から救い出すことを理由に、世界再生会議に参加した。それで前の世界において無事念願かなったが、奴らのせいで、また弟が死の運命に囚われることになったのだ。

 世界再生会議がどうだろうが、そんなことはどうでもいい。権力だとか、支配者だとか、くだらない話だ。

 芳樹にとって、この時のためにふたたび子供に戻って生きてきた。今回もやってやる。絶対に! と改めて心に誓う。

「いくぞ!」

 芳樹の掛け声に、三、四人の仲間が声をあげる。そして芳樹たちは作戦の場所に向かった。



 宮田は今日、学校を休んでいた。季節の変わり目でどうも体調を崩したと言って休むことにしていたのだ。本当の理由はもちろん、因果の様子が気になってということだ。

 彼は現場の近くに潜んでいた。これは珍しいことだ。普段は現場に姿を表すことはないのだが、今回はやはり気になってしょうがなかったようだ。


 宮田は考えていた。どうするべきかを。

 いや、それは考えるまでもないことだ。金子和樹には生きていてもらわないといけない。そうでないと、自分たちに都合のいい未来にするのが困難になるのだ。

 宮田にはこの場合に困る事情がある。個人的な事情だが、金子和樹が事故で死ななかった場合、彼の父が和樹を轢いてしまい、重傷を負わせる交通事故が発生する。これをきっかけに宮田は学校で壮絶ないじめを受けることになるのだ。

 それは宮田にとって、本当に地獄だった。高校を卒業するまで、あと数年続くのだ。

 しかし——将来のことを考えれば、選択肢はない。……ないはずだ……。

 宮田は自分に対して忠誠心の厚いメンバー三人を呼んだ。


 呼ばれてやってきた三人のうち、ひとりは板野章子だった。涼子や金子芳樹の同級生であり、世界再生会議のメンバーだった。これまでに何度も因果を妨害するための作戦に従事している。

 彼女は密かに野心が高く、組織内で高い地位に上りつめたいと考えていた。今は宮田のお気に入りになれば、それが望めると思って、宮田に取り入っていた。

 反対に、組織や宮田に反発する金子芳樹を毛嫌いしていた。実行力があるのは認めるが、奴に連座して宮田に嫌われるのが嫌で、今は宮田の側近の如く振る舞っていた。周囲にも、宮田の腰巾着、と陰口を叩かれているようだった。

「宮田さん、なんでしょうか?」

 板野章子は、他ふたりより先に声をかけた。まるで自分が側近の代表だとでも言いたげに、真ん中に立っている。他のふたりもそうしたかったが、章子の強引さに負けてしまったようだ。

「うむ、君たちにやってほしいことがある」

「やってほしいこと?」

「そうだ。今回の作戦に関してだが——」

 宮田は指示を出した。



「あれ? 涼子。どうしたの?」

 そう言って駆け寄ってきたのは、加藤早苗だった。早苗は再生会議のメンバーで、門脇の側近だ。

「あ、さな。……ああ、ええと、佳代んちに行くんだけど。ちょっと漫画を借りるのにね」

「そ、そう。涼子が先月号の「なかよし」を読みたいって言うから……ね、涼子」

「そうそう、そうなのよ。まだ読んでなかったしさあ。……でも、さなもどうしたの? 家はこっちじゃないけど」

「私は孝子んちに用があってね。——じゃあね。バァイ」

「バァイ、さな」

 早苗は、そのまま同級生の中村孝子の家がある方への道へ走っていった。

「びっくりしたなあ、いきなりさなが出てくるんだもん」

「タイミング悪わよねえ。まあいいわ、早く行こ。涼子」

「うん……って、あれ? 金子くんの弟は?」

「え? あっ、しまった!」

 先ほど、早苗とばったり出会ったことで、つい金子和樹の姿を見失ってしまったのだ。

 ふたりは現場方面に向かってあちこち見渡したが、姿が見えない。

 これはまずいことをしてしまった……と慌てた。



 加藤早苗は、ふと物陰に身を伏せて小声で呼んだ。その向こうには、門脇が身を潜めていた。

「……とりあえず、金子和樹と横山・藤崎組を引き離しました」

「急な役目ですいません。どうも動きがよくないようで……今度は金子くんが動く。引き続き監視を続けてください」

「はい」

 それだけ言うと、早苗はすぐにその場を離れた。

 門脇は物陰に潜んだまま、動向を思索した。

 ——どうも鈍い。作戦通りに円滑に動けていない。……まさかとは思うが……いや。

 門脇の細い目が鋭く光ると、すぐにその場を去って行った。

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