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三学期の終わり

 三月。六年生は卒業し、涼子たち在校生は三学期が終わる。まだ桜の季節には早いが、厳しい寒さも少しだけ和らぎ始めていた。


 明日から春休み。同級生たちは休みを前にウキウキした気分だが、涼子たち一部の生徒はちょっと気分が沈んでいた。

 四月から涼子たちは小学四年生になる。それは……新しい学年になり、新しい教室になり、そして、新しい担任の先生に変わることを意味していた。

 涼子たち生徒によく慕われている三年B組の担任、斎藤麻里子と別れる事になるのだ。いや、担任ではなくなるだけで、いつでも会えるのだが、やはり今までの担任教師としての存在は大きい。

 

「斎藤先生、わたし先生の教室がいい!」

 涼子の友達、津田典子は半泣き状態で斎藤にすがった。涼子や村上菜々子、太田裕美などもそれに続く。

「何を言ってるの、みんな四月から四年生になるんだから。新しい教室で、新しい先生のもとで始まるのよ。典ちゃん、涼子ちゃん、奈々ちゃん、裕美ちゃん。みんなずっと仲良しでいてね。四年生もきっと、もっと素晴らしい一年になるわ。きっとよ」

 斎藤は、涼子たちを大きな体で抱きしめた。一年間、いろんなことがあった。怒られることもあったが、不思議と辛いことはなかった。どころか、むしろ斎藤のことがますます大好きになった。

 だが、もう斎藤先生との一年は終わるのだ。長い様で短い一年。とても充実した一年だったと涼子は思った。

 ちなみに涼子は未来の記憶がある。この先どうなるのか知っている。斎藤との関係がこの先どうなのか知っているが、今は触れないでおこう。



 学校が終わると、涼子は家に帰る。いつもよく一緒に下校する仲良したちと一緒だ。皆、大量の荷物を抱えて歩いている。

 毎度学期の最後は、普段置き去りの荷物を持って帰るのが常だが、学年の最後は教室も変わるものだから、持って帰るものも多い。何日か前から少しづつ持って帰っていたが、それでもみんな割と残った。

 涼子たちは少ししょんぼりした面持ちだったが、次第に明るさを取り戻し、アレコレ雑談に花を咲かせる様になった。

 明日から春休みだ、わたしはドコソコへ連れて行ってもらう、だとか、明日一緒に遊ぼうだとか、ワイワイ賑わった。

 太田裕美が隣を歩く村上奈々子と話している。

「四月から四年生かぁ。今度は担任の先生はだれなんだろうね?」

「国富先生とかいやだなあ。やさしい先生がいいなあ」

 厳しいことで有名な国富は、やっぱり嫌なようだ。しかし厳しいとは言っても、取りつく島もないほど有無を言わせぬ強烈な存在ではなく、生徒と親しく接することも普通にある。

 涼子はご近所のお姉さんである曽我洋子から、国富のことを聞いているので、以前強烈なことがあったにせよ、奈々子ほど恐れていなかった。曽我洋子は四年生の時に担任だったそうだ。

「わたし、関口先生がいいなあ」

 裕美が言った。

「あ、わたしも関口先生いいなあ」

 奈々子もそれに同意した。それに津田典子が反応した。

「どうして? 私は川崎先生がいい。キレイだし、やさしいし」

「だってハンサムだし。川崎先生ってやさしいの?」

「えぇ、ハンサム……? でも、こわいかもしれないよ。わたしはちょっとねぇ。だけど川崎先生はやさしいもん。おにいちゃんが言ってた」

「あ、わたし川崎先生と話たことあるよ。たしかにやさしいと思う。川崎先生もいいね」

 涼子は典子に同意した。

「ねえ、じゃあ島田先生は?」

「島田先生もいいよね。でもわたし二回目だよ」

「わたし、島田先生ははじめてだから、島田先生でもいいなあ」

 裕美が言った。ちなみに島田は、涼子が一年生の時の担任だった女性教師だ。

「あ、そっか、裕美は北浦先生だったよね」

「そう。北浦先生も優しかったなあ」

「あはは」

 それからしばらく先生たちの批評で盛り上がった。



「ばぁい、涼子」

「じゃあね、ばぁい」

 家の近くまで来たので、涼子は奈々子たちと別れた。別れてすぐ、持っていた絵具セットの筆洗いバケツを落としそうになって慌てた。わりとかさばるので早めに持って帰っておけば良かったが、うっかり忘れていた。

 毎回学期末ではありがちだが、学校に置いている教材は休みに入る前に持って帰る。うっかり忘れると、一度にあれもこれも持って帰らないといけないため、とても苦労する羽目になる。

 右手の手提げ袋には図工の時間に作ったびっくり箱と、同じく図工の時間に描いた親の似顔絵などがパンパンに詰め込まれている。

 左手には先ほどの絵具セットと体育館シューズを入れた袋。

 さらにランドセルには給食袋と上履き袋がぶら下がっていた。

 よくこんなにたくさん抱えて歩けるな、と思うが、子供は意外とどうにかやってしまうものである。


 自宅に向かう小道に入ってすぐ、前方に曽我洋子がいるのが見えた。曽我洋子は、涼子の家の向かいにあるご近所の中学生だ。彼女は来年は高校生。岡山五校のひとつ、岡山県立朝日高校に入学する。さすがは成績優秀なだけのことはある。

「あら、おかえり涼子ちゃん」

「あっ、洋子お姉ちゃん。ただいま」

「まあ、どうしたの? それ全部今日持って帰ってきたの?」

「う、うん。ちょっと忘れてて」

「よく落とさずに帰ってこれたわね。——ほら、それを持ってあげるわ」

「あ、お姉ちゃん、ありがと。いやぁ、実はさっきバケツ落としそうになったんだ」

「そうでしょ。ちゃんと前もってもって帰っておかないと」

「うん、そうだね。えへへ」

 涼子と洋子は、一緒に家に入っていった。


 さあ、明日から春休み。そして——それが終わったら小学四年生だ。一歩づつ未来へ歩みを進める涼子。

 さて四年生では、どんなことが起こるのやら。未来を決める争いは、そろそろ激化してくるだろう。

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