本題に戻る
随分と長くなったが、本来ここに集まった理由に戻ることになる。
「話が逸れたが、本題に戻ろうか」
朝倉が言った。
この昭和六十年は、重大な因果が発生する。最近あまりなかったが、これのために動いている連中には緊張が高まっている。
「かなり重要な因果なんだ。心して聞いてくれ」
それに続いて、加納慎也が口を開いた。
ゴールデンウィークも近い四月二十五日、由高小学校より南部及び西部地区になる、浜地区において、ある二年生の少年の下校途中に起こる。
この少年が友達と下校しているとき、途中で忘れ物に気がつく。友達に言って自分だけ学校に戻って忘れ物を手に入れると、また帰路につく。
彼らはそれを阻止し、午後四時まで家に帰らせないよう妨害しなくてはならない。少年が午後四時までに家に帰ってしまうと、涼子が中学生になった頃に、別の因果に影響し、未来が大きく狂う可能性があるという。
ひと通り話を聞いたメンバーの横山佳代が、説明をしてくれた加納慎也に言った。
「なるほど、その子をなんとかして足止めすればいいわけね」
「そういうことです」
加納は答えたが、すぐに朝倉が喋る。
「再生会議はこの因果を、おそらく把握している。自分たちの未来に関わる因果だからな。妨害は確実に予想される。帰宅のルートを変えられたり、正直なところ難易度はかなり高い」
「確かに。でも、絶対踏まなきゃならないんでしょ。大変よね」
「その二年生は、再生会議が直接接触できるのか?」
メンバーの佐藤信正が言った。
「ああ、そうだ」
朝倉隆之は言った。それを引き継いで、加納が言った。
「その少年は、再生会議と関係ある人物なのです」
「なに? 関係者なのか?」
「いったい誰の?」
佐藤信正や矢野美由紀たちが口々に疑問を唱えた。
朝倉は、驚く仲間を前に、ゆっくりと口を開いた。
「その二年生は――金子芳樹の弟だ」
「弟? うそ――」
横山佳代は驚愕の表情だ。佐藤は腕を組んで唸った。
「ううむ……ならば、それは相当に難しいな。金子は弟に、意図的にルートを誘導できるだろう」
「かなり厳しいわね……」
沈んだ顔をして、メンバーの矢野美由紀が言った。
「いっそのこと誘拐でもして、どこかで一時的に止まらせておくとか――なんちゃって」
メンバーの岡崎謙一郎は、沈んだ空気を和ませようとしたのか、冗談めかして言った。
「それができたら楽勝よね。実際は再生会議が先に手を打つに決まってるわ」
「は、はは……、だよね……」
しかし、それはうまくいかなかったようだ。
口数が少なくなったところで、加納が話し始める。
「……あと、帰らせないだけでは因果を踏むことはできないんです」
「どういうこと?」
「……正直なところ、言いにくいのですが」
加納慎也は口籠った。
「どうしたんだ?」
佐藤信正は加納に尋ねる。
「いえ……まあ」
何か嫌な予感が漂う。
「ねえ、因果を踏むにはどうするわけ?」
横山佳代は悟に聞いた。しかし、悟は口籠る。
涼子はその理由を自分の記憶の中で探った。そして、その内容を知ることになった。涼子の顔が青くなる。
「ねえ、涼子。どうしたの?」
「う、うん……」
「これがどういう因果か思い出したか——まあ、そういうことだ」
朝倉が言った。
「ねえ、どうなるわけ? 教えてよ」
佳代に迫られ、朝倉が口を開いた。
「金子芳樹の弟、金子和樹が死ぬことだ」