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過去改変計画

「ら、拉致……?」

 朝倉は驚いた。まさかそこまであからさまな行動に出るとは。

「そんなことをしたら、警察が動くだろう。かなりまずいことにならないか?」

「ええ。そうです。しかし、もちろんそんなことは想定していたようで、対策をしていたようです」

 加納は表情を変えぬまま、さらに話を進める。

「僕への援助を打ち切っただけでなく、研究のすべては持っていかれました。ありがちな脅し文句と共にね。……それからしばらくして、ことが起こったのです」

「過去に戻ったというのか?」

「そうです。及川涼子博士の生まれる前へ」

「前へ?」

「ええ、それが計画のようです――」



 及川涼子は、自分の発見した『タイムマシンを完成させるための技術』を詳細にデータとして残しているが、悪用を恐れ、それに対して強力なプロテクトを施していた。

 何重にも施されたプロテクトの前に、世界再生会議のハッカーたちが挑むもすべて弾き返される結果となった。

 そのため、結局は及川涼子本人を拉致し、直接手に入れる方法をとった。しかし、宮田は及川涼子の性格を事前に調査して知っており、間違いなく協力しないだろうとみていた。

 そこで、あるものを用意した。これは……加納が組織の資金援助によって開発した、人の記憶をデータ化し閲覧できる機器だった。

 組織が所有するスーパーコンピュータを使い、プロテクトの解除法の予測を行なっていたが、及川涼子の記憶の中にパスワードが隠されているという予測が出ていた。

 この結果を見た宮田は、加納の作った機器を使って及川涼子の記憶を取り出し、パスワードを得ようとしたのだ。

 同時に宮田は、具体的にどうやって世界再生会議を世界の支配者にできるかを予測させていた。


「その予測は――『及川涼子を変えてしまう』というものでした」

 朝倉は驚き声をあげた。

「変える? どういうことだ?」

「文字通り変えるのです。まあ、順を追って説明します」

 加納は少し間を置いた。どう話すか考えたのかもしれない。

「このまま過去に戻って、自分たちの都合のいいように操作しようとも、様々な要因が邪魔をしてうまくいかないことが予測されました。——まあ、そう簡単にいくものではないようですね。

 そのため、これを回避するにはどうしたらいいのか、その予測が出ました。本来は男性であった杉本聡美が、女性として生まれる必要があったのです」

「何故だ?」

「詳しい内容は不明ですが、女性として誕生した杉本聡美は、その後、杉本健太郎と出会い、交際を経て結婚します」

「ああ、それが現状だな」

「杉本健太郎の所属する企業を知っていますか? 世界再生会議の作った企業です。彼、杉本健太郎も再生会議のメンバーです」

「なんだと? まさか……」

「この企業がタイムマシンを開発するのです。これはどういうことかと言いますと——この状態であると、杉本聡美が及川涼子に代わって技術を発見することになるのです。それを利用し、企業は杉本聡美を騙して開発させたのです。彼女は自分がタイムマシンを開発したとは思っていないでしょうが、それに関係する技術をいつの間にか発見して、気付かぬうちに企業に持っていかれてました。

 これによって、先にあったうまくいかない未来が、都合のいい未来へと進めることができたようです」

「そんなことが……しかし、どういうことだ。及川涼子がタイムマシンに関する技術を見つけるんじゃなかったのか?」

「この世界には、何かを変えることで、それに『相対』して別の何かが変わることがあります。それが何と何かは様々ですが、杉本聡美の場合、及川涼子がそれにあたるのだそうです」

「片方に何か変化があると、もう片方もそれに相対して変化する――本来、男であった杉本聡美が女として生まれると、反対に及川涼子が男として生まれるというわけか。……そんな理論は聞いたことはないが?」

「そうですね、公のことではないようです。しかし、及川涼子が男性として誕生した場合、杉本聡美が女性として誕生する……すると世界再生会議が、杉本聡美を通してタイムマシンを開発することになるのだそうです。それであれば、ようやく世界再生会議の野望を叶えることになる。

 だからそれをするために過去に戻って、及川涼子を変えなくてはならない。それを行うにはタイムマシンが必要となります。そのタイムマシンを完成させるにはまず——」

「及川涼子の技術が必要……なんとも言えん話だ」

 加納の話を引き継いで、朝倉は深刻な表情をしてつぶやいた。

「それによって、今の状態が作られました。現在に至るわけです」

 加納が話を終えると、沈黙が続いた。その間、朝倉の顔は蒼白だった。


「……加納、お前は事情をずいぶん詳しく知っているようだが、途中で組織から縁を切られたのにどうして知っている!」

 朝倉は机を叩いた。あまりにも詳しすぎる加納に何か疑念を感じたようだ。

「僕も最近まで……世界がこのようになっていることは知りませんでした。しかし、世界再生会議も一枚岩ではないのです。この計画に密かに反対している者……計画を実行したが、自分の都合のいいことにならない者もいました。その中のひとりが、門脇という人物です」

「門脇?」

「門脇は――素性はよくわかりませんが、宮田の側近であるようです。しかし、どうもこの状態は面白くないようで、ふたたび変えたいようでした。それで僕にことの次第を伝え、協力を要請してきたのです」

「お前はその門脇とかいう人間を信用したのか?」

「彼は自分で開発した装置で本来の記憶を蘇らせることができました。それで僕は彼を信用し、事実を知ったわけです」

「……その装置はどんなものだ?」

「大したものではないです。脳に特定の微弱な電波を与えて、記憶を戻すのです。こんなヘルメットのような、頭に被って使うものでした」

 加納はそう言って、手振りで装置の形を説明した。



 涼子が口を挟んだ。

「もしかして、朝倉くんはその装置を使ったの? それで記憶が戻って――」

「そうだ。あとは世界を元に戻す計画を練り、仲間を集めた。俺と悟を中心にして計画を作って実行した。加納は門脇と協力して別行動をとっていたが、こうして今は我々と共にいる」

 涼子は朝倉の話を聞いて、改めて記憶を開いてみた。朝倉の話に思い当たる部分があるのだ。

「私は……確かに、時間遡行の技術を見つけ出した。偶然だったけど、それから研究を進めて、それをまとめたデータを作った――それに宮田と会ったことがある。協力を断ったら、数人で体を掴まれて、それに気を失って……その後に、そんなことになっていたなんて……」

「再生会議は恐ろしい連中よ。だからこそ、やらなくちゃいけない。どうしてもね」

 そう言って、横山佳代は真剣な眼差しで涼子を見た。


「あ、あの……ねえ朝倉くん」

 涼子はちょっと躊躇した様子で朝倉に声をかけた。

「なんだ?」

「さっきから出てくる『及川涼子』って……」

「もちろんお前のことだ。記憶が戻っているならわかるだろう」

 朝倉は、何を今更とでも言いたげだ。

「やっぱり……だよねえ。さらにね……及川って、あの——その」

「何恥ずかしがってんの。これも言うまでもないけど——」

「ああっ、佳代! その先はもう言わないで! でもやっぱり私……悟くんと……」

 涼子は慌てて横山佳代の言葉を遮った。それがどういうことか涼子はわかっている。でもこうして他人に認識されていると、どうも恥ずかしい。

「そうだ——だろう、悟?」

「ま、まあ……隆之、もういいだろう。本題に入ろうよ」

 悟は顔を真っ赤にしている。それは涼子も同じだった。

「あ、はは……やっぱり……」

 ふたりは少しの間、お互いの顔を見られなかった。

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