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年末の大掃除

 涼子は記憶が戻った。これを聞かされた悟たちは、心から喜んでくれた。

 しかし、朝倉はそれは内緒にしておけという。もちろんこんなこと未来とは関係ない人にはいうわけないが、朝倉は、世界再生会議の連中に知られると妨害されやすくなると言っていた。それはそうだろうし、涼子も親しい人のいない世界再生会議に伝えることはない。

 こうなった以上、自分も未来を知ってしまったわけだし、世界再生会議の野望は、どう考えてもロクなものではない。

 涼子はあらためて、朝倉たちに協力してもらい、本来の未来へと進めるように頑張るつもりだ。



 冬休みに入り、クリスマスも終わった年末の日。明日が大晦日であり、今年も残り二日ということもあって、涼子の家では大掃除をやっていた。

 もちろん子供たちも家の手伝いをしなくてはならない。

 まあ大掃除といっても、普段とそう違いはなかった。真知子は意外と細かいようで、そんな丹念に掃除をするわけではない。

 むしろ片付けなどの方が主で、いらないものを捨てたり、使わないものを片付けたり、年を越す前にやらなくはならないことはある。

 涼子は、今は不要なものを、上の物置に持っていくよう言いつけられた。上の物置は、夏休みにも出てきた、玄関の真上にある部屋だ。狭いしひと部屋しかないので、物置に使っている。

 真知子に言いつけられ、小さい箱やビニール袋に入れた細かいものを手に持って、上の物置に向かった。


 夏は暑いが、冬は寒い。冷房も暖房もないので当然だ。部屋に入って持ってきたものを適当なところに置いた。そして、また戻ろうかと思った時、ふと置いてある段ボール箱の中身が見えた。隙間から中がちょっと見えて気になった。

 ここは普段から、遊んだりする時に時々出入りするが、以前に積んであった箱の上に乗って遊んでいた際に別の箱を落としてしまい、そのままにしていたのが目に入ったのだ。

 そういえば、夏休みには懐かしいぬいぐるみを発掘したりもした。もしかして、また何かお宝的なものが出てくるかもしれない。

 涼子は箱を開けてみた。そこには本などがたくさん入っている。いきなり懐かしい絵が目に入った。

「無敵ロボ トライダーG7」の絵本だ。いわゆるアニメ作品を絵本にしたものだ。これは翔太が、数年前に買ってもらったものだろう。中を見ると、所々に落書きがある。翔太は落書きが好きだ。あちこちに落書きして困ったものである。

 その下から、「魔法少女ララベル」の絵本が出てきた。涼子が幼稚園のころにテレビで見ていたアニメだ。裏を見ると、自分の名前を書いていた。「ふじさきりようこ」……「よ」が大きいので「りようこ」になっている。我ながら下手くそな字だ。

 自分の持ち物には名前を書く、これは真知子がよく言っていて、様々なものに名前を書いていた。そういえばファミコンカセットにもよく名前を書くことがある。昭和の頃には、こういう習慣はどの家庭でもよくあった。

 それにしても懐かしいなあ、と興味津々で段ボール箱の中身を漁った。


「あ、これ……動物図鑑だ。懐かしいなあ……そういえば、いつの間にか見なくなってたけど。こんなところにあったのか」

 幼稚園児だったころに買ってもらった図鑑が出てきた。今でも図鑑は数冊あるが、小さいころに買ってもらったものは、新しく買ってもらうと次第に見なくなって、そのうち忘れていった。

 思い出したが、久しく見かけていない乗り物図鑑や恐竜図鑑も、多分出てくるんじゃないかと思った。

 別の箱を開けてみた。これには服などが入っていた。見覚えのない服やスカートなどが入っている。サイズは子供用のもので、もしかしたら、いとこの友里恵のお下がりかもしれない。真知子は時々こういうのをもらってくるのだ。

 涼子はお下がりを好かないので、すぐに箱を閉じた。そして別の箱を開けてみる。これには先ほどと同じく、本の類が入っている。

「これは……ドラえもんの塗り絵だ。こっちはウルトラマン、それにキャンディキャンディ……うぅん、これはなんだろう?」

 漁れば漁るほど、下からいろいろと出てくる。「花の子ルンルン」の塗り絵を見てみた。

 いくつかのページに色鉛筆で塗られている。あちこちはみ出して下手な塗り方だ。しかも表紙のルンルンは赤い服なのに、黄色に塗っている。髪は黄色でいいはずなのに、なぜかオレンジ色に塗っている。

 かなりでたらめに塗っているが、大人の感覚で塗ると変に思われそうで、あえて好きなようにグチャグチャに塗った憶えがあった。もちろんワザとだ。そう、ワザとなのだ。

 こういった塗り絵は、備前の祖母(真知子の母)からよく貰った。祖母は知人から時々もらってきて、孫に与えていたようだ。もちろん、孫の喜ぶ顔を見たくていろいろ考えて用意したのだろう。ちゃんと男の子向けと女の子向けを用意していた。他にもノートやスケッチブックなどももらったことがある。


 さらに漁ると、「Drスランプ アラレちゃん」の塗り絵も出てきた。今も放送しているが、これは幼稚園の頃に買ってもらったものだ。

 涼子は、アラレの顔にグチャグチャな落書きがあるのを見つけた。幼児がなりふり構わず好きなように落書きするあれだ。

「これは……翔太だな。おのれ」

 やりたい放題の翔太には困ったものだ。まあ、そんな翔太も春から小学一年生だ。今では大分落ち着いてきたようにも思う。

 ふと、翔太がもらったであろう「怪物くん」の塗り絵が出てきた。中を見ると、もうそれは無法地帯だった。クレヨンでグチャグチャに塗られている。所詮は幼稚園前の幼児だ。

 報復で自分も落書きしてやろうかと考えたが、くだらないと思ってやめた。


 そんな時、階段を上がってくる音が聞こえた。多分の真知子だろうと思ったら、やっぱりそうだった。

「涼子、何やってるの。まだ仕舞うものがあるんだから、さぼってないで降りてきなさい」

「はぁい。でもお母さん、これ懐かしいね。もう捨ててるかと思ってたよ」

 涼子は昔の図鑑を掲げて言った。

「ああ、それねえ。もういらないでしょうから、捨ててもよかったけど……」

「えぇ、もったいないよ」

「じゃあ、いるの?」

「……いらない」

 すでにもっといい図鑑を持っている涼子には、幼児向けの図鑑は不要だった。

「いいから、早く降りてきなさい。こんな調子じゃ夜になるわよ」

 そう言って、真知子は下に降りていった。

「はぁい」

 涼子は派手に広げた段ボール箱の中身を放置したまま、母に続いて階段を降りていった。そして、後ろ姿に声をかけた。

「お母さん、明日は蕎麦なの?」

「そうよ。年越し蕎麦ねえ」

「私、蕎麦好きなのよ。楽しみ!」

「だったら、早く片付けてしまいましょ。でないと食べられないわよ」

「えぇ、それは困る!」

 藤崎家の年末は、のんびりと過ぎていく。

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