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制作開始

 その後、涼子は早速貯金箱の制作に取り掛かるが――こういう時どうしても、友達にいいところを見せたいと思うもので、「四次元ポケットから硬貨を入れるだけでは芸がない」と思い始めた。

 ――四次元ポケットはやっぱり、「ひみつ道具」を出すところだし、入れるのは変だ。

 と考え始めた。やはり別のところからお金を入れることにして、お金を入れると、四次元ポケットから道具が出てくるというアイデアを思いついた。これがかなり画期的なアイデアだと思った。そして、

 ――そうだ、お金は口から入れることにしよう! ドラえもんはどら焼きが好きだ。十円玉をどら焼きに見立てて、口から入れる。すると、四次元ポケットの部分から「どこでもドア」や「タケコプター」の絵が出てくるというのは。

 とスラスラとアイデアが湧いてくる。もしかして自分は本当に天才なのかも、などととつい調子にのって嬉しくなってしまう。

 もちろんこういう時、それが実行可能かどうかなんて微塵も考えていない。

 とりあえず、硬貨を入れると道具が出てくる仕掛けを考えた。

 硬貨が入る。下に落ちる。下に仕込まれたレバーに当たった反動で、紙に書いた「ひみつ道具」が四次元ポケットの部分から外に出てくる。

 涼子としては、なかなかいいアイデアだと思った。

 ――数種類の中から、ランダムにどれかひとつが出てくるようにできないだろうか。なんかこう……十円玉が落ちていく場所で四、五種類のどれかが出てくる。

 これもありがちなことだが、ちょっとアイデアが浮かぶと、それをきっかけに、どんどん難しく複雑なものを考え始める。最終的に実現不能なほど複雑怪奇なものになってしまい、完成させることができずに投げてしまうのがオチだ。

 そして涼子は、その泥沼に足を突っ込もうとしていた。涼子はご機嫌だが、作者的には嫌な予感しかしない。


 それからしばらくして……予想通り、困難に直面していた。

 内部に組み付ける機構が、涼子には難しかった。いや、とてもではないが、涼子には無理だった。

 硬貨が落ちると、下にある板に乗っかる。その反動で、板につけていた「ひみつ道具」の絵が上に跳ね上がり、「四次元ポケット」から飛び出してくる。内部にその板やシャフトを設置し、そのシャフトを受けるフレームが必要だ。段ボールだけでは難しいだろう。木工が必要である。

 試行錯誤している間に、なんとなく「これは無理だ。絶対無理だ。できるわけがない」と、嫌な予感が頭の片隅に、念仏のように流れていた。それを聞かないふりをして、なんとか作り上げようと必死になって試みる。

 一時間ほど段ボールと格闘した後、これは後回しにしようと決めた。絶対できやしないだろうに、まだ自分に正直にはなれないらしい。

 困ったことに、一度素晴らしいと思ったアイデアは簡単には捨てられないのだ。涼子に限った話ではないが、ありがちな話だ。


 一度ギミックの製作は中断し、ドラえもんの絵を描くことにした。ドラえもんはシンプルなので簡単だ。以前、友達の奥田美香に自分が描いたドラえもんを褒めてもらったことがある。美香は絵が得意なのだ。

 それもあって、ドラえもんの絵には自信があった。しかし……涼子には内緒だが、それは美香が友達に気を使って言ったお世辞だった。

 早速段ボールに油性マジックで書こうとしたが、間違えると大変だと思い直して、まず新聞チラシの裏に描いてみることにした。

 真知子に言って、裏が真っ白なチラシをもらってくると、早速鉛筆で描いてみた。ちなみに真っ白なチラシは大抵の場合、ツルツルした表面になっている。これがまた、鉛筆の線がうつりにくいのだ。しかも消しゴムで線を消そうとしても、うまく消えなかったり、跡が残ってきれいにならないこともある。

 しかし精神を集中して、線の一本一本を魂を込めて丹念に描いていく。


 だが……涼子の描いたドラえもんは、あまり似ていなかった。もうちょっとうまく描けるだろうと考えていたが、それは甘かったようだ。正直、薄々気がついていたとはいえ、ちょっとショックだった。

 ドラえもんのイラストを真横に置いて、それを慎重に模写してみた。今度はまあまあの出来になるはず……。

 ……なるはずだった。なんかおかしい。丹念に公式イラストと比較してみると、目の大きさが違う気がした。はなが大きすぎる気がした。頭と目鼻のサイズ感がおかしい気がした。頭と胴体のサイズや形状に違和感を感じた。

 ……結局、どこもかしこも変だと結論した。入念に模写してこれだから、まともに描けるのはいつになることやら。

 涼子が途方に暮れていると、翔太が部屋に入ってきた。

「あ、おねえちゃん、それなに?」

「な、なにって――見たらわかるでしょうが」

「うぅん……なにかなぁ……」

 翔太は絵をまじまじと眺めるが、これが「ドラえもん」なのがわからないようだった。涼子はちょっと不機嫌になった。そして、

「ま、まあ……翔太にはわかるわけないか。幼稚園児には無理よねえ」

 と、強がった。

 ふいに翔太が、何か閃いたような顔をした。

「あっ、見せて。もしかして……」

 もう一度涼子の描いたドラえもんを見ようとすると、涼子は素早く自分の後ろに隠した。

「もうだめ。はい、時間切れぇ!」

「えぇ、なんかドラえもんみたいだったんだけど……あんなのだったかなあ」

 翔太の言葉を聞いて、涼子は恥ずかしくなった。なんか馬鹿にされているような気になったのである。そのままグシャグシャに丸めると、ゴミ箱に放り投げた。涼子は割とこういうのは得意で、よく入るのだが、こういう時に限って入らない。

 すかさず翔太が、ゴミ箱の向こうに転がった、丸めた新聞チラシを取りに行く。涼子はすぐに飛びかかって先に拾った。そして、そのまま子供部屋を出ていく。

「おねえちゃん! まって! みせてぇ!」

 翔太が追いかけてくる。

「駄目って言ってるでしょ! 駄目ったら駄目!」

 しつこいので、台所に飛び込んだ。台所にいた真知子が、騒がしい娘を咎めた。

「こら、涼子。ドタバタしないの」

「お母さん、翔太が意地悪する!」

「どうしたの?」

「翔太が、私の描いた絵を見ようとするのよ。見せたくないっていうのに、しつこいんだから」

 それだけ言ったとき、翔太が台所に入ってきた。

「こら、翔太! お姉ちゃんが嫌がることを、どうしてするの!」

「えぇ、でもぉ……」

 翔太は困惑気味だ。姉の下手な絵を笑ってやろうとかではなくて、純粋になんの絵だったのかを知りたかっただけかもしれない。そもそも幼稚園児が、絵のことなんてわかるわけないか。

「とにかく、私は宿題をやってるんだからね。邪魔しないように!」

 ともかくとして、強引にこの話を打ち切った。

「涼子、どう? 工作はできたの?」

「ううん、まだ製作中。すごいのができる予定だから」

「そう、それは楽しみね」

 と言いつつ、全然興味がなさそうな真知子。

「まあ、もう三時がくるし、とりあえずおやつがあるから、ちょっと休憩しなさい」

「はぁい!」

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