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内村家にて

 食後の団欒の後、伯母の千恵子が「お風呂が沸いているから入りなさい」と、子供たちに言った。友里恵が返事して、涼子に「一緒に入ろ」と言った。

 友里恵曰く風呂は広いそうで、涼子にあれこれ説明していた。シャワーがあることを嬉しそうに自慢した。

 内村家では、友里恵と秀彦はひとりで入ることが多い。まだ小さい秀彦は母親の千恵子か父親の政志が一緒に入るようだ。

 涼子は時々、翔太と一緒に入る時がある。翔太は風呂で遊ぶので、あまり一緒に入りたくないのだが。

 面倒見がいい友里恵は、涼子と翔太を一緒に入れてやろうと提案するが、翔太はゾイドで遊んで、すっかり仲良くなった秀彦と信彦と一緒に入りたいと主張した。秀彦も「男だけで入ろう!」と翔太を誘ったこともあって、三人で入ることになった。

 涼子はひとりで入りたいところだが、勝手がわからないので友里恵と一緒に入ることにした。


「わぁ、広い——」

 涼子は風呂の広さに驚いた。湯船は大人が足を伸ばして入れる大きさがある。室内も自宅の倍以上あるように感じる。そしてシャワーがある。

「シャワーだ!」

 涼子は壁に備え付けられたシャワーをまじまじと眺めた。記憶にある限り、この九年ほどの人生において、シャワーを実際に見たのは初めてかもしれない。もちろんプールのシャワーなどは別だ。

「涼子ちゃん、シャワーで体を洗おうよ」

 友里恵はそう言って、壁に備わっている蛇口のハンドルを手に取ろうとした。

「ゆ、友里恵お姉ちゃん――わ、私が出してみてもいいかな?」

 少々興奮気味に言う涼子に、友里恵は笑顔で答えた。

「どうぞ、使っていいよ」

「う、うん――」

 涼子は少し緊張した面持ちで息を飲むと、友里恵に教えてもらったレバーを動かした。すると頭の上のシャワーから、パラパラと湯が降ってきた。おおっ、と少し感動していると、友里恵が横から蛇口を捻った。すぐにシャワーが勢いを増した。

 涼子は顔にかかる湯を手でワシワシ擦って「やっぱり最高だねぇ!」と嬉しそうに言った。

 友里恵はシャワーヘッドを外して、涼子に向けた。

「わぁあ!」

 涼子はそれから逃れるために動き回る。それを追いかけるように涼子に向ける友里恵。

 散々にシャワーで遊ぶと、体を洗って湯船に浸かった。

「広いねぇ! プールみたい。ウチだと翔太と一緒でも狭いのに」

 涼子は友里恵と一緒に入っているにも関わらず、余裕で足を伸ばせるほどの広さに驚いた。自宅では、もう足をまっすぐ伸ばせなかった。少し膝が曲がってしまう。

「プールは大げさねえ。うちも前の家ではせまかったのよ。引っ越してようやくなんだから」

 友里恵はそう言って、「ここからこのくらいで――」などと指で前の風呂の大きさを説明した。

「えぇ、でもうちの方が狭いよ」

「そうなの? あ、でも前の家はこのくらいだったかも」

 友里恵はさっきより明らかに小さく手振りした。

「うちはこのくらいで――」

 涼子も同じように、友里恵の手振りより小さくいう。正直、もう人が入れるサイズではなくなってる。まるでどちらが狭いかを競い合っているかのようだった。

 それからふたりは、バシャバシャと湯を掛け合ったりして遊んだ。なかなか出てこないので、伯母の千恵子が「のぼせるから、もう出なさい」と言ってきた。

 やむなく風呂から上がることになった。出ると、翔太や秀彦たちが入れ替わりで入っていった。それから少しして、風呂場からは「宇宙刑事、ギャバン!」「宇宙刑事、シャリバン!」「宇宙刑事、シャイダー!」などとそれぞれ叫ぶ声が聞こえた。


 寝巻きに着替えると、あとは寝るだけだが、子供はそれでは終わらない。特に個室を持っている友里恵は、すぐに寝るわけがない。

「涼子ちゃん、これ読む?」

 友里恵は、「週刊マーガレット」を本棚から出してきた。

 「週刊マーガレット」は、集英社が発行する少女漫画雑誌だ。本誌の別冊で「別冊マーガレット」という雑誌もある。集英社では他に「りぼん」があり、この「りぼん」も非常に人気が高い。

 マーガレットには、古くは「アタックNO・1」や「エースをねらえ!」「ベルサイユのばら」など、誰もが知っている人気漫画が連載されていた。

「マーガレット?」

 涼子は知らなかった。ジャンプやマガジンなど、少年漫画誌はわかるが、少女漫画誌は疎い。

「そう。涼子ちゃんにはちょっと早かったかなぁ。おもしろいマンガ多いのよ」

「……ふぅん」

 涼子はパラパラとページをめくっては、どんな漫画があるのか流し見した。知らない漫画ばかりであまり興味が湧かなかった。この当時、青沼貴子の「ペルシャがすき!」が連載されていたが、これは先月に最終回を迎えた「クリィミーマミ」の後番組として放送開始した「魔法の妖精ペルシャ」を原作としている。

 この「魔法の妖精ペルシャ」は友達たちが視聴しているので、涼子も見ているが、実はこの「ペルシャがすき!」が原作だとは知らなかった。涼子はそれに気が付かず、あまり関心も持てずに読み飛ばした。

 友里恵はさらにいくつかの漫画単行本を本棚から持ってきた。どれも少女漫画だ。以前に読んだことのある漫画もある。最近、涼子の周囲で漫画を読む子が増えている。男子でも、キン肉マンなどアニメから入って漫画にも興味を持つ子もいる。

 友里恵は、それぞれの漫画について詳細に説明し始める。これがまた長く退屈な話だ。知ってることも、ウキウキした顔で延々と喋りだす。喋りたいのはわかるが、聞いている方は退屈だ。困ったもんだ。

 これがなかったら、とてもいいお姉ちゃんなんだけどなあ……。

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