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記憶の底から

 涼子はとりあえず、公園に戻ってきた。そこでふたたび知世の名前を呼んだ。しかし、公園にはもういないようだった。嫌な予感に足を絡め取られそうになったかのごとく、涼子の足元はふらついた。尻餅をつきそうになるのを必死にこらえて、知世の行方を予測した。

 そんな中、ふと思考の片隅に、しゃがんでいる知世の背中が浮かんできた。知世はそのまま、じっと前を見ていた。彼女の視線の先に目を向けると、その先で誰かが何かをしている風であった。どうしてなのか、知世は葦の草が多いしげる古い用水路の前にいる、ように思えてきた。

 どうしてそんな姿が目に浮かんだかはわからない。しかし、そこにはなんとなく覚えがあったので、すぐにそこに向かった。



 すぐに知世を発見した。頭に浮かんだその光景そのままに、彼女は存在していた。涼子の頭に浮かんできた知世の姿そのままで、草むらの中から、その向こうをのぞいているようだ。

 涼子はそっと近づいて、知世の見ている方を見た。

 そこには神社がある。小さい神社で、大して広くない敷地にはぐるりと大きめの樹々が並んでいた。南側に鳥居があり、西側は古い用水路が南北に横断している。北と東は田んぼと畑だ。知世は、この用水路の向こうから、神社の敷地を見ているのだ。

 知世の視線の先は、敷地の中心に立つ小さな社の裏手にいる、少年たちに向けられていた。その三人の少年は、何かをしていた。


 少年たちは、まだ高校生かそこら……十代だろうと思われる若者たちだった。その中に、見覚えのある少年を見つけた。

 ——あれは……増田智洋!

 かつて、表町で迷子になった時に、涼子の親を探してくれた、あの少年だ。

 一体、何をしているんだろう? 涼子は不思議に思った。この妙な感覚はなんだろうか。心臓の鼓動が一段と早くなっていくのを感じた。ひたいに汗がにじむ。

 目の前の知世は、相変わらずじっと見つめていた。少年たちが一体何をするのか興味津々で、その動向を一瞬も見逃したくないかのように見据えていた。

 この光景。見覚えはないはず。しかし、とてつもなく嫌な予感がしている。そんな中、涼子は思い出したくないことを、思い出してしまった。



 ——涼子は思い出した。知世が前の世界において……今日「死んでしまう」ことを。

「——知世! 知世っ!」知世の母は、娘の葬式で泣き叫ぶ。それを夫と、真知子が肩を抱いて支えている。参列する人々のすすり泣く声。

 ——まだ小さいのに、どうしてあんな子が……。

 そんな声が重く苦しい空気を作り出し、この悲しみの時を覆い尽くしている。小さな少年だった涼太は、これがどういうことか訳がわからない。ただ呆然と立ち尽くすだけだった。そんな思い空気の中で、何も知らず無邪気に笑う翔太。敏行がこっそりと外に連れ出していった。

 やがて時間と共に、もう永遠に戻ってこない従姉妹の変わり果てた姿を思い浮かべ、涼太は胸が締め付けられるような、強い衝撃が走った。それから逃げるように、涼太の心に蓋をして厳重に鍵がかけられたのだ。



 涼子はこの時、どうしたのだろう? 詳しくはやはり思い出せない。でも確かに公園へ行った。そして気がついたら知世はいなくなっていた。探しに行くが見つけられない。どこを探しても知世はいない。そして、家に帰って、大人たちに探してもらう。少しして——知世は見つかった。

 しかし……知世は、変わり果てた姿で発見されたのだ。

 涼子にとって、鍵をかけて永遠に閉じて封印しておきたかった、嫌な過去だった。気分が悪くなってくる。

 だがひとつ、疑問が浮かんできた。


 ——前の世界において、自分では知世を発見できなかった。そう、これは……前の世界とは違う状態になっている。

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