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どうやら因果が

 翌日、涼子が教室に入ると、雰囲気は昨日から変わっていなかった。金子芳樹派と朝倉隆之派に分かれて、見えない火花が散っている。

「ね、ねえ……そんなにケンカしなくてもいいじゃない。なかよくしようよ」

 もはや東野は、自分がことの原因であるという自覚がない。朝倉は東野を睨んだ。刺さるような視線に、思わず仰け反った。そして、慌てて体裁を整える。

「どうして、なかがわるいんだろうね? こまったもんだ」

 東野がそう言った直後、東野の頭にゲンコツがお見舞いされた。

「あんたが原因でしょうが! あんたが!」

 ゲンコツは村上奈々子の仕業だった。あんまりの他人事に、つい手が出てしまったようだ。それに続いて、涼子たち数人の女子が同意し、一緒になって非難する。

「な、ななな何のことだろ? ぼぼぼぼくは、わからないよ!」

 すでに東野が嘘をついたのは誰の目にも明らかだったのだが、もはや手遅れにも関わらず、まだ否定している。東野の友達も、どこか白い目で見ている。

 そんな様子など、別世界のことかのように無視して対立している金子派と朝倉派。


 実をいうと、もうこの対立は、東野の嘘がどうとかいう話ではなくなっていた。いつの間にか、近々起こる「因果」を踏むための、熾烈な諜報合戦に変化していた。

 来週の月曜日の体育の授業にて、誰かが体調を崩して保健室に連れて行くことになる。これを誰がやるかで、未来が変わるという。しかし、これは詳細がはっきりしておらず、朝倉たちは一体誰なのか、密かに探っていた。再生会議の方が詳細を知っていた場合、著しく不利だからだ。

 しかし、再生会議も詳細を知ることができなかった。実は同じように公安の連中がこの因果を把握しているのではないかと疑っており、やはり密かに探っていた。



 昼休み、涼子は横山佳代に話を聞いた。佳代は、朝倉隆之率いる公安の過去遡行チームのメンバーだ。仲のいい友達のひとりで、公安の作戦に関する話は、佳代から聞くことが多い。

「えっ? 因果?」

「そう。だからもう、東野くんがどうとかいう話はいいのよ」

「……東野くんはともかく、また因果か」

「騒ぎがあって以降は、東野くんの話は出てないでしょ。もう特に話題にもならなくなるわよ。それよりも――因果のほうね。詳しい内容がわからないから、本当に困ってるのよ」

 大喧嘩の際に国富の介入によって、東野のことは皆、完全に関心を失っていた。代わりに注目されているのが、前述の金子軍団と朝倉軍団の対立だった。前のように大喧嘩をすることはないが、見えないところで火花を散らしていることは、誰もが想像できた。

 しかし、それも例の因果に関してのことらしい。

「私は何かするの?」

「ううん。これは、涼子自身は関係ないわ。涼子とは別の人がどう行動したかによって因果を踏めるかどうかって話だから」

 因果は、涼子を軸として起こるものだ。それは、この未来修正計画が涼子の人生に手を加えられてきたことによるからだ。その元の正しい未来へ歩いていくのに、途中「因果」と呼ぶ分かれ道が存在する。これは基本、涼子が何をするかによって進む道が別れるが、実際には涼子だけではない。涼子の将来も、その他の多くの人の影響によって変わることも多々あるのだ。今回のものは、そういう類の因果らしい。

「そうなんだ。でも内容がわからないって?」

「詳しい内容が、はっきりしてないのよ。誰なのか? って調べててね。金子芳樹が敵だって知ってるでしょ。あいつらも邪魔しようと、いろいろ動いているみたいね」

「大変そうだね。でも、準備してやってきたっていうのに、ちょっと情けないね」

 痛いところを突かれた佳代は、思わず苦笑いした。

「あはは……確かにね。でも、世の中、完璧はないのよ。涼子にはまだ難しいかもしれないけど、いくら頭のいい朝倉くんだって、因果を全部完全には把握できてないのよ」

「そうなんだ。大変だね」

「踏むのに失敗しているのもあるし、そういえば加納くんが、少しづつ変化してるって言ってたわね」

「変化?」

「本当の未来へ進むために、順を追って進めているけど、予定にないことが起きたりしてるのよ」

 それを聞いた涼子は、少し顔を曇らせた。

「――それって大丈夫?」

「どうだろ。朝倉くんや加納くんは問題ないって言ってるけど……。でも、及川くんなんかは、ちょっと心配してるみたいだし」

 公安チームの中心人物は、朝倉隆之、及川悟、加納慎也の三人だ。彼らが計画を考案し作成してきた。朝倉は急進的で強硬派だが、悟は慎重で穏健派だった。現状に対する考えも逆だった。

「正直、いまいちピンとこないんだけどなあ。何がどうなるって言われても」

「まあ、それはわかるけどね。私だって、未来の記憶があるから言えるんであって」

 涼子も未来を知っている。佳代たちは、涼子が自分たちと同じように未来の記憶を持ったまま過去に戻っていることを知らないようだった。涼子もそのことを誰にも話していない。佳代たちを信用していないわけではないが、それでも話せるほどには信用しきれていないからだ。

「よくわからないけど、まあ頑張ってよ」

「うん。――ああ、そうだ。涼子、間違っても再生会議の連中の言うことは聞かないでよ。奴ら、何を企んでいるかわかったもんじゃないから」

「わかった……あ、チャイムが鳴ったね。早く戻ろ」

 涼子と佳代は慌てて教室に戻った。


「朝倉くん、金子くん。あとでお話があるから職員室に来なさい」

 帰りの会が終わったあと、斎藤は朝倉と芳樹を呼んだ。それを聞いた涼子は、これは最近の冷戦状態についてのことだろう、と思った。掃除時間の時、真壁理恵子たち数人が斎藤の所に何か話に行っているのを見かけたからだ。

「涼子、帰ろ」

 奈々子たちが涼子のそばにやってきた。

「うん」

 涼子は返事して帰り支度をしながら、教室を出ていく朝倉隆之と金子芳樹を見送っていた。

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