表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/268

とんでもない噂

 涼子たちは、奈々子の家に集まって遊んだ。奈々子の家は兼業農家で、周辺の土地に田畑を所有しており、広い空き地も持っていた。最近、近所からバレーボールを貰ったので、それで遊んだ。

 外は晴天、なかなかの暑さで、しばらくはしゃいでいるとみんな汗だくになった。

「のどかわいたぁ。ねえ、うちで麦茶飲まない?」

 奈々子が言った。

「うん、わたしものどかわいた」

 みんな同じように考えているようで、奈々子に連れられて家に向かった。


「お邪魔しまぁす!」

 涼子たちは家に上がらせてもらうと、すぐに奈々子の部屋に入った。みんなこれまでに何度も来ているので、奈々子の部屋がどこにあるかは把握していた。奈々子の母親が娘が友達を引き連れてやってきたのに気がついて、声をかけてきた。

「もう暑いでしょう。ナナちゃん、居間はクーラー効かせてるから、そっちでお友達と遊びなさい。麦茶持ってくるわね」

 笑顔の母からそう言われて、奈々子は涼子たちを家にあげると、居間に案内した。みんな案内されるまでもなく知っているが、おとなしく案内された。みんなが居間に入ると、自分は一旦居間を出ていった。

「わぁ、涼しい」

 典子が嬉しそうに言った。涼子や裕美も同意した。一気に汗が引いていくのが感じられ、とても心地いい。みんなクーラーの前に集結する。

 ちょっとして、奈々子が戻ってきた。何か取りに行っていたようだ。

「ねえ、これかわくない?」

 奈々子は得意げに持っていたノートをみんなに見せた。それにはシールやらがそこら中に貼ったりしてデコレーションしてあった。また、カラーマジックなどでハートやら星やらを描いて、ゴチャゴチャと飾りたてている。どうも自分でデザインしたオリジナルノートということらしい。

「わぁ、かわいい! ナナっておしゃれだね」

「そお? あのね、これがぁ――」

 裕美には好評だったようで、べた褒めしていた。奈々子も裕美にあれこれ解説している。


 そんなことをしているうち、玄関から声が聞こえた。

「ナナちゃぁん、あそぼぉ!」

 誰か友達が遊びに来たらしい。声からすると、加藤早苗のようだ。

「ちょっとまってぇ!」

 奈々子がドタドタと慌ただしく玄関に急いだ。それからすぐに奈々子が友達を連れてきた。予想通り加藤早苗が姿を見せる。それにもうひとり、奥田美香もいた。

「あっ、さな。それに、みっちゃん」

「涼子たちがいる、やっぱりナナんちに来てたんだ」

 早苗はどうやら、美香と一緒に遊んでいて、途中で涼子とも遊ぼうということになって家に訪ねて行ったらしい。すると、真知子から、奈々子の家に遊びに行っているはず、だと言われたので来たらしい。

 そこへ奈々子の母親が、盆に麦茶を乗せて居間にやってきた。

「あら、お友達が増えちゃってるわねえ、ちょっと待っててね。持ってくるから」

 ふたり増えていることに気がついて、また台所に逆戻りして行った。



 母親が台所に向かうのを見送って、奈々子が真剣な顔をして涼子たちに言った。他に聞かれないようにヒソヒソと、普段より声を落としている。こういう秘密めいたことが大好きな子供たちであるから、みんな興味津々で聞こうとする。

「ねえ、知ってる?」

「なにが?」

「東野くん、優子と付き合ってるって話」

「ええ? そうなの? それほんと?」

 皆、驚きを隠せない。この頃の女の子もだんだんと恋愛だとか、そういういうものへの興味は出てくる。テレビでもアイドルが歌うのはラブソングが多いし、子供の見るアニメでも恋愛模様は描かれる。

「うん。貴子が言ってた。それにスーミンも言ってたよ」

「でもそんな風に見えないけど……もしかしてかくれて付き合ってるのかな?」

 裕美が言った。最近、この種の話題にとても敏感だった。近所からもらったりした少女漫画雑誌を読むことが多く、気になってしょうないようだ。

「でもすごいよね。禁断の愛がふたりを引きつける……なんちゃって」

「あはは! やだぁ」

「ナナってくわしい!」

 みんな楽しそうに雑談に花を咲かせる。ハンサムだとよく噂される関口先生の話も出てきた。甘いマスクではなく、渋いダンディ系のソース顔だが、由高小学校の教師では一番のハンサムだった。

「でもさぁ。東野くん、どうも好きになれないんだよね」

 涼子が言った。最近、なんだか馴れ馴れしい感じが、どうも好きになれない。それに典子が同意する。

「そうそう、わたしも。べつに悪いことしてるわけじゃないんだけど……」

「けっこうおもしろいこと言うし、悪いことはないんだけどねえ」

 早苗が典子に続いて言った。どうも東野は、女子の人気がイマイチならしい。すべての女子がそう思っているわけではないようだが、女の子と仲よくしたい東野からしたら、これは残念な実態だろう。

 東野は次男で、兄がいる。この兄は中学一年生で、涼子のご近所のお兄さんである、曽我隼人の同級生だ。隼人はガサツな性格だがルックスがよく、女の子の受けはよかった。この東野兄はナンパな性格と甘いルックスで、同じく女の子の受けはよかった。この兄は、隼人にも親しく、隼人の家に遊びに来ることもあったので、涼子も何度か見たことがある。この兄を見て育った東野は、やはり兄と同じようなタイプになっていった。

「でも優子って、あんまり東野くんと仲よさそうな感じしないけどなあ」

 涼子は不思議に思った。どちらも知っているが、これまでに親しい印象は微塵もなかったからだ。もっとも涼子は忘れているが、東野は柴田優子にも何度となくアプローチしている。柴田優子は同級生の中では美少女の部類に入る容姿だ。東野が狙わないわけがない。

「そうだよね。ま、どうでもいいけど。――あのね、あれ知ってる?」

 裕美が話題を変えてしまったので、以降は別の話題で盛り上がった。


 数日後、涼子が登校すると、とんでもない噂が流れていた。

「ねえ、涼子知ってる? 及川くんとエミがキスしたって」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ