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無事再会

 真壁理恵子は妹と翔太を連れて、同じフロアのフードコートの手前にある、ベンチの置いてあるスペースに向かう。

 ここには父と姉がいる。自分と妹がおもちゃ売り場を見たいからとふたりで行き、その帰りに翔太と遭遇した。ちなみに母親は、今日は用事で知人とともに外出しており、そのこともあって、父親が子供たちを連れてジャスコにやってきていた。


 理恵子は完璧主義で負けず嫌いなだけでなく、生真面目で決められた規則は必ず守る性格だった。この小さな男の子を無事に親元に届けるにはどうしたらいいか、一生懸命、真面目に考えた。その結果、信頼の置ける存在……自分の父親と姉に判断を任せるのが一番だと考えた。

「ミナ、行くよ……って、こらっ!」

 ちょっと目を離した隙に、美奈子と翔太は、理恵子とは別のところに歩いて行こうとする。

「おとうさんのところにいくんでしょ」

 と言いつつ、美奈子は実際に父と姉がいる方向の反対に歩いて行こうとする。

「そっちじゃないでしょ。まったく、ちょっと目をはなしたら、こうなんだから」

 理恵子は翔太の手を握ると、すぐに父と姉のいる方へ歩き出した。

「もう、おねえちゃんったら。まってぇ」

 美奈子は慌てて姉の後を追いかけた。


 少し歩いたところで、理恵子に声をかけた人がいた。

「あれ、真壁さん?」

 いきなり声をかけられて驚いた理恵子は、その声の主にふたたび驚いた。

「お、及川くん?」

 理恵子に声をかけたのは及川悟だった。悟はニコニコと嬉しそうに理恵子の側に近づいてきた。


「お父さん、お母さん。同じ教室の真壁さん。真壁理恵子さんだよ」

 悟は、自分の親に理恵子のことを紹介した。悟はもう買い物を済ませて、両親とともに帰宅しようとしていたところだった。そこに、同級生の理恵子を発見した。

「あ、ええと……あの、は、はじめまして。真壁理恵子です……」

 理恵子は少し緊張気味に挨拶をした。

「まあ、ちゃんとご挨拶できて偉いわねえ」

「うん、立派なことだ」

 悟の両親は理恵子のことを褒める。そんな中、悟は理恵子の連れている翔太を見つけた。

「おや? ……その子は翔くん? 翔くんじゃないか」

「悟おにいちゃん!」

 翔太の顔がパァっと明るくなる。それを見た理恵子は翔太と悟の顔を交互に見ながら、「及川くん、この子のこと知っているの?」と訊いた。

「うん。翔くんはね、涼子ちゃんの弟だよ」

「え? り、りょうこ?」

 理恵子は驚きの余り、目を丸くしている。

「うん。同じ教室の藤崎涼子ちゃんだよ」

「ふ、ふ、藤崎さんの弟ですってぇ!」

 驚きの声を上げる理恵子を不思議そうに眺める翔太。理恵子は翔太と悟の顔を交互に見ている。

「あら、じゃあ、翔太ちゃんのおかあさんがみつかるのね。まってね。ミナがつれていってあげますからね」

 美奈子はやたらとお姉さんぶって、また翔太を連れて行こうとする。

「ちょっと待ちなさい! ミナは藤崎さんを知らないでしょ!」

 隙を見せたらすぐに連れて行こうとする妹から、慌てて翔太を奪い取る。理恵子は悟の方を向いて、少し躊躇するような表情で言った。

「ま、まあ……なら、藤崎さんもジャスコに来ているってこと?」

「うん、そうだね。というか、ちょっと前に会ったよ」

「そ、そうなの? ど、どこにいるんだろ?」

「どこと言われると……会ったのは二階の服が売ってるところだったよ」

「じゃあ、そこに行ってみよ。いるかもしれない」

 理恵子は即断した。理恵子はこういう判断がとても早い。

「でも、もう時間が経っているから、多分いないと思うよ。別のところに……」

「それを言ったら、どこにいるのかわからないでしょ。まず行ってみて、いなかったらべつのところをさがしたらいいと思う」

「そうだね。そうしよう」

 悟は翔太を探しに行くと両親に行ったが、悟の両親は「子どもだけではだめ」と、案内所に届け出るのが一番いいと言われた。しかも、悟の両親が連れて行くことになり、子供たちの計画はあっさりと瓦解した。

 不満顔の美奈子。自分が翔太を親元に連れて行くという手柄が奪われたのが不満の原因だ。姉の理恵子は反対に、悟の両親がつれていってくれるので、もう安心だと考えているようだ。

 そんな姉妹の思惑など一切考えもせず、連れていってくれると聞いて笑顔である。



 それからまもなく、涼子と翔太は再会した。案内所へ向かう途中に、ちょうど近くにいた涼子と敏行に遭遇したのだ。姉を見つけた翔太はすぐに駆け出し抱きついた。

「おねえちゃぁん!」

「翔太! もう、バカなんだから! なんで勝手に行ったりするのよ!」

 そう言って泣き続ける翔太を抱きしめる涼子。

「よかったね」

 少し遅れてそばにやってきた悟が言った。ちょっと向こうでは、悟の両親と敏行が話をしている。敏行がお辞儀しているのが見える。

「悟くん、ありがとう!」

「いや、僕じゃないんだよ。翔くんを見つけてくれたのは……あれ?」

 悟は理恵子が探してくれていたんだと言おうとしたが、姿が見えない。

「真壁さぁん! さっきいたんだけど……」

「真壁……さん?」

「うん、真壁さんだよ。同じ教室の真壁さん」

「ええっ? 真壁さんが?」

 涼子が驚いていると、女の子が前に出てきた。真壁理恵子の妹、美奈子だ。得意満面の顔である。悟が理恵子の妹であることを紹介した。

「翔太ちゃんのおねえちゃん。ミナがね、翔太ちゃんをね、つれてきてあげたのよ」

 美奈子は仕事をやり終えた、とても満足そうな笑顔だった。

「そうなんだ。ありがとうね」

「翔太ちゃん、よかったわねえ。ミナもうれしいわ」

 そんなことを言っていると、理恵子がやってきた。ちょっと照れくさかったようで、少し顔を背けて涼子に言った。

「ふ、藤崎さん……目をはなしたらだめじゃない。小さい子はすぐ、どこかに行っちゃうし」

「うん。ありがとう、真壁さん」

 涼子は笑顔でお礼を言った。

「べ、べつに……おれい言われるほどじゃないもん」

 照れ臭そうに頬を染め視線をそらす理恵子。

 涼子は理恵子に対して、初めて好印象を持った。今まで、どっちが早いかとか、どっちが点数がいいかとか、やたらと対抗してきたが、今目の前に立っている真壁理恵子はとても責任感が強く、素敵な女の子に見えた。

「ううん、真壁さんにはお礼を言いたいんだ。とっても」

 涼子は笑顔で言った。

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