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今年も転校生

 三年生になって早々、転校生がやってきた。

 去年の春には、涼子と幼稚園が同じだった及川悟が転校してきた。なんと今年も転校生だ。そういえば、去年の秋頃にB組に転校生が来たという。去年は涼子はA組だったので教室も違うし、住んでいる地域も方角が反対方向なので、一緒に帰ることもなく、まだよく知らない。ちなみに女の子だと聞いた。意外と転校生って多いんだな、と思った。

「朝倉隆之です。よろしくお願いします」

 少し目つきの鋭いこの少年は、手短にそして子供とは思えない落ち着き払った態度で立っていた。その大人びた雰囲気に、教室の生徒たちは少し慄いているような感じだ。

 涼子は、すぐにピンときた。

 ――あの朝倉くんは……未来からの人、悟くんたちの仲間だ。

あの子供っぽくない態度は、周囲の同級生を見る限り、同年齢にはとても無理だ。涼子はそう感じた。

「朝倉くんは、なんと北海道からやってきました。みんな、北海道って行ったことある? 先生は実は行ったことがないんです。一回行ってみたいと思ってるんだけどねえ。今度、朝倉くんに北海道のこと教えてもらいましょう」

 斎藤はそう言って笑った。生徒たちもつられて笑った。しかし、朝倉は一切笑わなかった。無表情のまま、誰かを見ている。

 涼子がその視線を追うようにチラリと覗くと、悟がいる。やっぱりそういうことなのか、と改めて確信した。



 昼休み、校舎の裏で彼らは集まっている。

「隆之、久しぶりだね。何年振りかな?」

 及川悟は、親友との再会にとても嬉しそうであった。

「ふん、九年ぶりというところか。まあ、電話では何度も話しているが。みんな変わりないようで何よりだ」

 朝倉隆之は、鋭い目つきを変えず、目の前の仲間たちを眺めた。

「いや、随分変わったな。みんな幼い。ふふ――」

「それは君も同じだろう。僕たちは九歳だよ」

 悟がそう言うと、みんな一斉に笑った。


 朝倉隆之――彼がこの、今回の時間遡行計画のリーダーだ。未来では、世界有数の科学研究所と言われている「国立科学技術研究所」の所長であり、さまざまなテクノロジーの権威でもあった。数多くの科学技術の発展に関与貢献しており、世界的にも知られた天才博士だ。

 しかしこの世界が、世界再生会議によって偽りの未来に変えられたと知った時、同じく再生会議の犯罪を追っていた公安警察とタッグを組み、今回の遡行を計画した。

 冷静沈着で隙がなく、人の扱いに長けた人物だった。それも今回の計画を発案し、自ら指揮をとることになった理由のひとつだった。


「しかし、複雑な気分だな。あの麗しき女科学者が、こんな小さな少年だったとは」

「そうだね。僕もどこか不思議な気分だよ。ふふ、でもこれが本当の姿なんだ。本当の」

 悟は少し嬉しそうだった。

 涼子が前の世界の記憶で知っている及川聡美は、やはり悟だった。涼子同様、どうして性別が変わっていたのかは不明だが、とりあえず、本来の状態に戻れたらしい。

「ああ、しかしだ。まだ俺たちにはやらねばならぬことが山積みだ。まだまだ予断を許さない状況だからな」

「そうですね。現状はまだ厳しい状態です」

 加納慎也は難しい顔をして言った。続いて佐藤信正が口を開いた。

「もう少し時間がある。朝倉、今後の計画を少し話してくれ」

「ああ、次のことだが……」


「あれ、ミーユは?」

 奈々子は、矢野美由紀が教室にいないことに気がついた。

「お便所じゃないかなあ。そういえば朝倉くんもいないし、及川くんもいないよ」

「そういえば……どこに行ったんだろ?」

 涼子も首を傾げた。

「もうすぐ授業が始まるのにねぇ」

 典子がつぶやいたのとほぼ同時に教室の戸が開いた。そして、悟や朝倉たちが慌てて入ってくる。美由紀たちもいた。

「ミーユ、早くしないと先生来るよ」

「う、うん」

 すぐにチャイムが鳴り、みんな先程までの賑やかさが嘘のように静まりかえって、自分の席に座っている。少しして、廊下を歩く音が聞こえてくると、斎藤先生がやってきたとみんな予想した。そしてふたたび教室の戸が開くと、やっぱり斎藤だった。

 斎藤が教卓のところまでやってくると、学級委員長の持田が「きりつ。気をつけ……れい!」と言って、授業始めの挨拶をした。教室の生徒たちは、それに続いて同じことをする。

「よろしくおねがいします」

「これから五時間目の授業を始めます」

 斎藤はそう言って、教科書の前回までの部分を開いて授業を開始した。


 帰りの会が終わり、あとは帰るだけだ。涼子も、奈々子たちと一緒に帰るためにランドセルを背負って、手提げ袋を持って……ふと、誰かが後ろにいた。振り返ると、朝倉隆之が立っていた。

「えっ……朝倉くん?」

 涼子はキョトンとした表情で朝倉を見た。

「君が藤崎涼子か」

 こちらを睨むかのような、少し怖い顔で言った。一瞬、何か気に触るようなことでもしただろうか、と考えた。

「え? そうだけど」

「話がある。来て欲しい」

「え、でも……」

 突然のことに、涼子が戸惑っていると、朝倉はすぐに背を向けて歩いていく。涼子はその背中を呆然と見つめていた。

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