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宮田の不満

 世界再生会議議長、宮田英則は苛立っていた。その理由は簡単な話だった。

 先日、ある大きな因果を起こすことに失敗したからだ。

 その因果とは、涼子の父、藤崎敏行を交通事故に見せかけて死んでもらうことだった。これはとてつもなく大きな因果で、この先の状況が再生会議にとってとても有利になっていくはずだった。それは「巫女」の「預言」に出ていたのだ。

 しかし、この過去遡行を実行した公安はあらゆる手を尽くして、再生会議の行動を妨害し、とうとう敏行は、何事もなく無事に自宅に戻った。

 翌日である今日は、普通に藤崎工業は仕事をやっている。まだ忙しいらしくて、今日も残業だという。


「どうしてだっ! どうして失敗した!」

 宮田は声を張り上げ、実行部隊のメンバーを叱責した。ワナワナと口を震わせ、細い目を釣り上げて顔を真っ赤にしている。いつも気取った風で偉そうにしている宮田からは、想像できないほど感情を露わにしている。

 そんな様子に、側で見ていた金子芳樹は、宮田を鬱陶しそうに眺めて言った。

「おい、しょうがねえだろ。奴らも手強かった。それだけだ」

 その言い方も癪に障ったのか、宮田はすぐに吠えた。

「ハァ? お前はバカか! しょうがねえで済む問題じゃないだろう! そんなこともわからんのか!」

 いつもの様子は微塵もない。

「んだとっ! てめえ!」

 芳樹は今にも殴りかかりそうな表情で宮田を睨んだ。

「お、おい! 待った、待った! 何やってんだ」

「宮田さん、落ち着いてください!」

 側にいた仲間たちが数人でふたりを止めた。


「……とにかく。これは問題だ。前に藤崎知世の殺害に失敗した時もそうだが、どうも重要なものほど失敗が多い。嘆かわしい話だ」

 宮田は周囲の仲間を睨みつけるように眺めた。うまくいかなかったことに対して、仲間の能力不足を疑っているようだった。

 気まずい雰囲気が漂う中、門脇が発言した。ニット帽を目深に被り、顔が見えにくい。門脇はいつもそうだった。

「宮田さん。あなたがそんな様子では、今後のことがとても心配でなりません」

「な、何を言う! どうして心配なんだ!」

「あなたは我々、世界再生会議の議長――リーダーなんですよ。そのような了見では我々の未来は暗いでしょう」

「そ、それはそうだがっ! こいつらの無能っぷりは目に余る! 足を引っ張られているんだ!」

 宮田の遠慮のない言葉に、再生会議のメンバーたちは一層静まりかえる。しかし中には、宮田の自分たちに対する容赦のない批判に、不満の色が見えている者もいた。

「そもそも、今回我々は受け身の体制で因果の妨害に挑んでいるのです。元々準備不足は否めません。失敗は元から承知の上でしょう」

「しかしだ! 失敗してもいいものと、不味いものがあるだろう! それをこの役立たずどもは、よりにもよって失敗した!」

「ちょっと待てや、コラッ! 役立たずだぁ? ナメたこと言ってんじゃねえぞ!」

 芳樹はふたたび怒鳴り、宮田の腹を思い切り殴った。うぐっ、と顔を歪め、苦悶の表情で殴られたところを抑えてうずくまった。

「オメェがリーダーやってんのはよっ! オメェの実力じゃねえ! オメェが唯一の委員だったからだ!」

 遡行前の未来における世界再生会議は、議長の下に全体を束ねる委員会がある。委員会は五~七人程度おり、それぞれの議題についての議会を開催する。ここまでが組織の幹部である。その下に議員という名の構成員が多数おり、彼らは議会に参加して様々に話し合う。

 宮田は、公安が時間遡行を決行した当時、それを事前に知っていて、装置を使って自分の意識を保持したまま過去に戻れた唯一の委員だった。

 それが可能だったのは、彼の側近でありブレーンでもある門脇の予測だった。

 仲間にすら滅多に姿を見せない彼は、公安も正体を掴めていない謎の多い人物だ。どういった情報網を持っていたのかは不明だが、彼は公安が遡行する日時を正確に把握しており、それに合わせて宮田や複数の同志たちと共に待ち構えていた。

 こんなこともあって、宮田は委員の中で唯一遡行できたのだ。

「当然だろう! これは私の組織なんだぞっ! 私が議長の世界再生会議だ!」

 本来、仲間と共に結成され議長になるはずの増田を殺害し、この過去において宮田を議長とした世界再生会議が結成された。これも門脇の提案によるものだ。

「金子芳樹——それ以上侮辱すると、貴様の弟の件はどうなるのか……わかっているんだろうな!」

「……わかってるさ。ケッ、やりゃいいんだろ。やりゃあよ」

 芳樹は急に冷めた口調になると、すぐに背を向けて部屋を出て行った。再生会議の構成員たちは騒然とし、不穏な空気が漂う。

「……使えるというから使っているが……くそっ!」

 宮田は机を思いきり叩いた。

「僕も、来年に向けてやらなくてはならないことがありますから。それではこれで」

 門脇もそれだけ言って去っていった。



「……本当にこれでよかったのですか? これでは元どおり……藤崎涼子が開発する方向に進んでいきそうですが」

 加藤早苗は、門脇の背中に向かって声をかけた。

「ええ、これでいいんです。僕の望む未来へ進むためには、藤崎さんのお父さんには生きていてもらわないといけません」

 門脇は振り向かず、早苗の声に答えた。

「今はよくても……いずれ宮田は、あなたに不信感を抱きますよ」

「構いません。どちらにせよ、いずれはそうなるでしょう。しかし、僕には僕のやるべきことがあるのです。それはあなたもよくわかっているでしょう」

「ええ、わかっています。……私はそのために、ここにいるのですから」

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