チョコかと思ったらカレーでした
やっぱりお豆はポソポソしてて苦手です。なんで年の数だけお豆食べなきゃいけないんですか! 今年なんて17粒ですよ、17粒。そんなに豆ばっか食べて何が楽しいんですか。家の中にお豆を撒くのは楽しいんですけども、この年の数だけのお豆というのは即刻廃止すべき悪しき風習ですよ。全く昔の人は何を考えていたんですか。
そういえばウチでは家の中にお豆を撒くとか大豆じゃなくて落花生をまくんですけど、こないだその話をしたらみんな揃いも揃って「それはおかしい!」っていうんですよー、ひどくないですか。
って、そんな話はどうでもいいんです!
今日が節分ってことはあれが目の前に迫ってるんですよ! 決戦の日が、天下分け目の戦いの日が迫ってるんですよ。
2/14
それは乙女にとって深い意味のある数字。
女の子にメールで
「2/14ってどう?」
とか聞かれても男性の皆さん。決して
「1/7の方が良くない?」
とか返しちゃいけませんよ。絶対ですよ。 絶対駄目ですからね! これ私とのお約束ですよ!
昔その一言ですごい傷付いた人もいたんですからね!
…………あの時のことは絶対忘れません……。
ごほん、そんな話はいいとして、2/14です。皆さん私が何を言いたいのか、とーぜんもうわかってますよね。
皆さんわかってると思うので、せーのの後に続いてみんなで言いましょうねー。あっ、いまフライングで言いかけた人いましたねー、ぷぷぷ。……あっ、ごめんなさい、私が悪かったです。私が悪かったから物投げないで、いたい、いたいですから。
……すいません、私が悪かったです。
ぐすん、いたいよ。
(5分後)
よし、じゃ気を取り直していきますよー。今度こそ私の合図に続いてお願いします!
せーの、………「バレンタイン!」……。
はい、今1/7って言った人どこですか。怒りませんから絶対怒りませんから、早く出てきてくださいね。はい、はーやーくー、3・2・1。
全く約束を破っちゃう人にはおしおきが必要ですね。おでこを出してください。そうです、そうです。あっ、でも、ちょっと背高いから。届かないからしゃがんでください。
ふっふっふ、しゃがんだことを後悔させてあげます。
あっ、ごめん立たないで、届かないから。ごめんなさい、しゃがんでください。
では、覚悟してください。
とっておきの一撃をあげちゃいますから。
くらえー!
…………ぺちん…………。
どうですか痛かったでしょう。痛かったでしょう。泣いてもいいんですよ。大人な私は見ないふりをしてあげますから。
……えっ、痛くない蚊が止まったよう? そんな見え透いた強がり意味ないですよ。本当は痛いんでしょう。今にも泣き出しそうなんでしょう? ほんとに……?
……えっ、やっぱりすごい痛かった? おでこ凹むかと思った? そうでしょ、そうでしょ。すんごい痛かったでしょ。
これに懲りたらもう約束破っちゃいけませんよ。
さてとなんのお話をしていましたっけ?
…………そうです、そうです。バレンタインです。
別に忘れてたわけじゃないですよ。皆さんが覚えてるかどうか確認するためですからね。私そんなおバカさんじゃないですよ。
……なんですか、そのじとっとした疑うような目は。ホントですよ。ホントに忘れてなんかいないですから!
……忘れてなんかないもん。
えっと、とにかくバレンタインです。バレンタイン! 何回言わせるんですか。話が全然進まないじゃないですか。
全くここまでくるのにどうしてこんなに時間がかかるんですか。
……誰ですか今「お前のせいじゃん」ってボソッと呟いた人! ちゃんと聞こえてるんですからね。小さくても聞こえてるんですよ。
……って、誰ですか! 今ちっちゃいって言ったの! 私はちっちゃいんじゃないの。まだ成長期が来てないだけなの!
またお話が進まなくなりそうなんでみなさんの言葉を聞かないようにします。耳にふたです。突っ込んでいたら話が進みません。あーあー、なにもきこえないー。
そんなわけでバレンタインです。
乙女の戦いです。この日は乙女が自身の秘めたる想いをチョコという触媒に託して意中の男性に伝える日。
普段はそっとしまっておかないといけないこの想いもこの日だけは外に放出してもいい日です。むしろ今日放出しないでいつ放出するのだ!
そんなわけでチョコレートです。想いを託すためのチョコレートを作らなきゃです。やっぱり手作りがいいですよねー。でも今までにチョコなんて使ったことがないですし、それ以前に普通の夕飯とかですら作ったことがないです……。
……まっ、なんとかなるでしょう!
明日にでも材料買って練習してみましょう。今の世の中ネットを探せば、ク○クパッドなりにレシピはあるでしょう。いくら私でもレシピを見れば作れるでしょう。レシピ見ながらでも作れない人なんていませんよねー。
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むにゃー、おはよーごじゃーます。
きょうはなにするんでしたっけー。おふとんあたたかーい。でたくないよー。
…………みゅっ!
お見苦しいところをおめせしまちたーー!!
(20分後)
みなさんおはよーです。先ほどはお見苦しいところをお見せしました。
……可愛かったから大丈夫? ですか、恥ずかしいのでもう思い出させないでください……。忘れてください、わーすーれーてー!!
ゴホン、では昨日決めた通り今日はチョコを作る練習に当てますね。では材料を買いに行きましょー!
美味しいチョコを作れるといいな。
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「えーっと、必要なのは、これとこれと。あっ、これもおいしそうだから買っちゃおう」
必要なのは全部揃ったかな? あとはこれをレジに持ってけばオッケーですね。買い忘れもなさそうですし、あとはお家に帰って猛特訓です。
「あれ、ユイ? スーパーであうなんてめずらしいわね」
「ん、あっ、ネコちゃんだー、おはよー」
声をかけられて、後ろを向くと同じクラスのネコちゃんでした。今日も相変わらず可愛いです。
あっ、今更ですけど私ユイっていいます。よろしくですよ。
「おはよう、ユイ。何度もいうけど私の名前ネコじゃなくて音子ね」
「ネコちゃんはネコちゃんだよー、オトコだと男みたいで可愛くないじゃーん」
「かわいいって、私そんな感じじゃないでしょ」
「ネコちゃんはかわいいよー」
一部の場所もかわいくて、親近感を覚えます。
ムニッ。
「にぇこふぁん。にゃにをしゅるのー、ふぁにゃすぃて」
「ごめんなさいね、ユイ。なんかこうしなきゃいけない気がして、ハイ」
ネコちゃんは時々鋭いです。
「ごほん、ところでネコちゃんはなにをしてるの?」
「んっ、私は自分と兄さんの分の夕飯を買いに来たんだけど。そういうユイはもしかして……」
「えっ、カカオ!? カカオよね!? それ! 一体なにを作る気なの!?」
「いやー、恥ずかしながら。今年はチョコレートを作ってみようと思ってね、その材料を買いにきたんだよー」
「カカオから作るなんて、ユイすごいね。今までにも作ったことあるの?」
「うんうん、ないよ。今年が初めて」
「そうなんだ。今までにどんなチョコ作ったことあるの?」
「だから作ったことないよ」
「うん? 豆からじゃなくて普通に市販のチョコから作るやり方よ、ないの?」
「だから、ないよ」
「ユイ、チョコの作り方知ってる?」
「知ってるよ、このお豆から作るんでしょ!」
「そうね、チョコはカカオ豆から作るんだけど、普通手作りチョコって言うのは市販のチョコから作るのよ」
……えっ?
「ホントに?」
「ええ、市販のチョコを湯煎して、溶かしてから色々とやるのが普通かしらね」
「じゃあ、これは?」
「うーん、私はちょっと使い方が分からないわね。それにしてもよく売ってたわね。私もここのスーパーはよく買い物に来るけど初めて見たわ」
「このおっきいお豆返して、チョコレートを買ってきます……」
ガクシ。
「その方がいいわね。ところでユイ? 夕飯の買い物も一緒にしていたのかしら? ユイが料理するなんて言っちゃ悪いけど少し意外だったわ」
「うんうん、全部チョコレートの材料だよ?」
「おかしいわね。私にはりんごとじゃがいもとにんじんと豚肉とタマネギとたまご、が入っているように見えるのだけども」
「ネコちゃん何にも間違ってないよ。私は、りんごとじゃがいもとにんじんと豚肉とタマネギとたまごを買おうとしてたよ?」
ネコちゃんはなにを不思議そうにしてるのだ?
「ユイ、もう一度聞くけど、あなたはカレーを作ろうとしてるのよね?」
「だからチョコレートだよ! どっからどう見てもチョコレートの材料じゃん」
「ちがうわよ! それはチョコレートじゃなくてカレールー買ってきて、カレーを作る材料よ! あなたチョコレートとカレールーが似てるからって材料まで間違えてるわよ!」
「なに言ってるの、ネコちゃん! チョコレートとカレールーは全然似てないよ! ……はっ、ネコちゃんもしかして」
「間違えてないわよ! 今は……たまにしか。
そんなこといいのよ! それよりも、そのレシピでどうやってチョコレートになるのよ!」
「まず、豚肉と玉ねぎを炒めます。次ににんじんとじゃがいもを加えます。このとき平行しておんたまを作っておきます。最後にチョコレートと隠し味にリンゴを入れて完成です!」
「それ、ほとんどカレーじゃない! 味覚の爆弾よ、それ!殺人兵器よ!」
「私が見たレシピにはそう書いてあったよ! このレシピが間違ってるとでもいうの……」
「間違ってるわよ、完全に! それはどっからどう見てもカレーよ! チョコとカレールーを入れ替えてカレーを作るレシピよ! 誰よ、そんなレシピ書いた人……」
「この人かな、えっと……兄猫さん! 検索したら一番目の付くところにあったから、やってみようと思ったんだけども……違うんだね」
「あー、なんか納得した。ごめんなさいね。バカが。やっぱりユイって全然料理しないの? 少し料理してればさすがに違うとわかると思うのだけれども……」
そういうとネコちゃんは頭を抱え出したんですけど、なにがあったのでしょう。
「全然しないね、去年も調理実習最初の1回しかやらせてもらえなかったし……」
「やらせてもらえなかった? ユイって去年どこのクラスだったっけ?」
「? 私は2組だったよ」
「あー、2組ってもしかして、集団食中毒の?」
「そうそう、よく知ってるね、あれ私の班だったんだよ、私以外みんな病院に搬送されちゃって大変だったんだよ」
「そ、そう。あなた以外、みんなね……、ここに当代のポイズンメイカーが……」
「? ポイズンメイカー? なにそれ?」
「ユイは知らなくていいことよ、うん、本当に知らなくていいの。それよりさ、ユイ一緒に作る? チョコ?」
「いいの! ネコちゃんおねがい! たすけて!」
なんと、天から救いの手が! ネコちゃんは天使ですか!
「ええ、だけど今からだと遅くなっちゃいそうだし、明日やらない?」
「うんうん! それで大丈夫! じゃまた明日やろっか」
「じゃあ、明日の10時にここのスーパーの前でどう? そのまんま材料買ってウチでやろっか」
「分かった。ネコちゃんまた明日ね。ありがとーー!」
「ちょっとユイ、商品買うか戻すかしてから行きなさーい」
ネコちゃんの一言に駆け出した足を止めて、レジに向かいます。お母さんが美味しくどうにかしてくれるでしょう。
「ネコちゃん、また明日ねー!」
その夜カカオ豆なんてどうするのよ! とお母さんに怒られたのは内緒です……。カカオ豆だけでも返してくればよかった。
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「兄さん、ちょっといい?」
「ん、なんだよ。オトコ」
「兄さん明日、なんか予定ある?」
「家で寝てようかと思ってたけど、なんで?」
夕食後、私は明日の予定を聞こうと兄さんの部屋を訪ねた。やっぱり友達呼ぶのに兄が家にいると邪……気を使うしね。因みに夕飯はユイに触発されてカレーだった。今日はカレールーとチョコを間違えなかったわよ。
「明日、友達呼ぶから兄さん家にいるとちょっとね……」
「男か! 男なのか!」
「違うわよ、クラスの女子よ」
「なんだ、ならオッケーか。分かった分かった。おきたら出かけるよ、夕飯時まで外いればいいか?」
「ええ、それでおねがい。じゃあ、遅くにごめんなさいね。お休みなさい」
「おう、おやすみ」
「そうだ、兄さん。料理サイトの更新なんてしてないわよね?」
これで明日は平穏な調理ができるでしょう。きっと、たぶん、おそらく……。大丈夫よね、ユイ変なもの作らないわよね……。ポイズンメイカーの2つ名はいったいどれほどの力を持つのか。
ポイズンメイカー
調理実習において、班員を悉く病院送りにする謎の料理人。彼の者の伝説は数知れず、また調理シーンを見たことある人もいない。
いわく、目玉焼きのはずが玉子焼きになる。
いわく、材料からありえない料理が出来上がる。
いわく、なのに見た目だけはいい。
いわく、肉じゃがのはずが王水を作り出す。
あれ、これは別の学校の人だったかな?
その振る舞いから別の異名として料理の錬金術師とも呼ばれる。
ウチの高校ではなんの因果か毎年1人必ずこのポイズンメイカーがいるそうで学校の七不思議になっている。
私がなぜこんなに詳しいのかというと身内にポイズンメイカーがいるのよね……。ええ、あの兄よ。あれがユイの1つ上のポイズンメイカー。だからウチでも私が料理の当番となっている。いや、兄がやらないわけではないのよ。ただ兄にやらせると私が大変なことになるのよ。だから私からお願いしてやらせてもらってるというわけ。
私もそろそろ寝るとしましょう。
明日のために体力付けておかないと大変そうだしね。
さて、ユイの実力はどれほどなのでしょう。一度ポイズンメイカーと噂される人の料理を見て見たかったのよね。前に一度兄さんが料理したはずなんだけどその時の記憶もなぜだか残っていないし、それからというもの、兄さんが台所に立とうとした瞬間体が拒否反応を示すし。
ユイの料理は明日の楽しみにしておきましょう。
私死なないわよね……?
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「ネコちゃーん! おはよう!」
「おはよう、ユイ。じゃ、早速だけど材料を買いに行こうか」
「うん、わかった。ところでどういうチョコ作るの?」
「んー、今回はチョコクッキー作ってみようかなって思ってるけど、それでいい? 作ったことあるのそれしかなくてさ」
「わーい、おいしそうだね!」
「あげるように作るんじゃなかったの! まー、でも14日まで時間あるし今日は2人で食べちゃおっか」
「やったー、ネコちゃんだいすき!」
ギューとネコちゃんに抱きつきます。ネコちゃんの抱き心地はやっぱりいいね。一部の装甲が薄いのも評価どころです。
むにっ。
「にぇこちゃーん、ふぉうしてひっふぁるのー」
「あっ、ごめんなさい。つい体が勝手に動いてしまったわ」
ネコちゃん鋭すぎないですか。
「この辺で許してあげましょう。じゃ、材料を買ってウチに行きましょうか」
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「じゃ、上がって。ちょっと散らかってるけども」
「お邪魔しまーす。ネコちゃんこれで散らかってるって何!? ウチ見たらネコちゃん卒倒するよ!」
早速材料を買ってネコちゃんのお家に行ったわけですが、ネコちゃんのお家綺麗に片付いているね。ウチとは大違い。
「ネコちゃん、材料は台所に置いといていい?」
「わるい、オトコ。寝坊した。今から家出るわ」
「兄さん、やっぱり寝坊したのね。家出る前に一回起こしたじゃない。早く出て、もう来ちゃってるから」
ネコちゃんに材料の置き場所を聞こうとしたら、階段の上から、よく知ってるような声が聞こえるのですが、えっ、なんで。そんなまさか。
「わるいわるい、今家出るから許してくれ。お友達もゆっくりしていってくれ……ってユイじゃん。オトコの友達ってお前だったのか」
「先輩なんでいるんですか!」
「なんでって、そりゃここ俺の家だし?」
「……え、えっとネコちゃんのお兄さんが先輩で、先輩の妹がネコちゃん?」
「そうそう、オトコが俺の妹。でも久々にオトコが家に呼んだ友達ってのがユイとは面白いこともあるもんだな」
そう言って面白そうに先輩笑ってますけど、私の脳内はパニックですよ!
「えと、兄さんとユイは知り合いなのかしら?」
「んっ、知り合いってか、部活の後輩だよ」
「ユイって美術部だったわよね?」
「うん、そうだよ。美術部」
「……兄さんは?」
「だから美術部だよ」
「なんで兄さん美術部に入ってるの! 兄さんの絵ってあれよね、もうなんと表現していいか分からない……強いてあげるなら『混沌』?」
「お前いくらなんでも失礼すぎないか!? 実の兄に向かって」
「でも兄さんの絵ってそんな感じだったじゃない! ユイもそう思うでしょ?」
「えっ、先輩の絵すごい綺麗だよ。風景とかも綺麗で上手だよ」
「(……兄さん、ユイの絵ってもしかして……)」
「(普段だったらあいつ綺麗なんだけど、本気出すと……やばいぞ、これ以上聞くな)」
「ん? 先輩とネコちゃんどうしたんですか?」
「いや、なんでもないわよ、ねえ兄さん」
「おうなんでもないぞなんでもないから安心しろ」
「そう……ですか」
先輩とネコちゃんは一体どうしたのでしょう。心なしか2人の私を見る目が優しいのが気になるんですが。
「じゃ、オトコ。俺そろそろ行くなー。ユイもゆっくりしてってくれよ」
「行ってらっしゃい、兄さん」
「えーと、行ってらっしゃいです。先輩」
「あっ、ユイ。ちょっといいか?」
「はい? なんですか?」
手招きされたので近づいて行くと、いきなり肩を抱かれました。はわわ。
「(これからもオトコのことよろしくな)」
「は、……はい」
「じゃー、俺行くわ、おふたりさんごゆるりと」
そう言って先輩は家を駆け出して行きましたが、私の心臓はバックンバックン言っています。顔も真っ赤になっちゃってます。すごい恥ずかしいです。ネコちゃんの顔が見れません。
「ユイー。大丈夫? そろそろ始めようか」
「は、はひっ! ごめんなさいネコちゃん。ちょっと先行っててください!」
「? そう? じゃあ準備できたら台所きて、そこの奥だから」
ダメです、やっぱまだダメです。顔が真っ赤すぎてネコちゃん見れません。しばらくしてから行きましょう。
チョコ渡すどころかまだ作れてない!?
次話は近日投稿予定です!
番外編込みで3・4話の予定でいます。