第9話「怒れたメイド」
良い仕事が近所で見付からないので創作に時間を割けました!
俺みたいなコミュ障無能キモオタに出来る仕事なんて見つかるのでしょうか。
A.
意識は確かに途切れて、死んだ筈なのに愛する幼馴染の今にも泣きそうな顔が覗き込んでるのが見えるのは何故。まさかアンタも金城に殺されちゃったんじゃ無いでしょうね!?
「ひよりが眼を覚ましたよ! 有難う金城さん」
「まあ此のくらいは私の手に掛かれば赤子の手を捻る様な物ですわ」
「え....あれ、傷が治ってる。どう言う事よ此れは」
体を裂かれて大量の血も臓器も出ちゃったのに、そんな事無かったかの様に元通りだなんて。緋美華なら此処に来る前に津神とキスしているから傷が治癒しても不思議じゃないんだけど。
「困惑している様なので教えて差し上げますわ。ぶちまけた血や臓物....皮膚....全て元の場所に転移させた事で回復させましたのよ」
「なんだか良く分かんないけど凄い!」
「理屈が滅茶苦茶だわ、でもこうして私が生きてるのは事実だし」
いんだよ細けぇことは、と....某作品の刑事の言葉が脳内で再生されたので深く考えないことにした。どんな理屈であり助かったし、でも元凶に助けられた場合は礼を言うべきか否か。
「さぁ戦いを再開しましょう、今度は本気を出しなさいな」
「分かったよ、ひよりがまたあんな目に遭うのは嫌だからね」
「そう来なくては、其でこそ叩きのめし甲斐が有ると言うものですわ!」
人を傷付ける事を嫌う緋美華が私の為に本気を出して戦うと言ってくれたのは正直なところ嬉しい。でも私のせいで人を傷付ける羽目になったとも言えるから複雑ね。
それと気になるのが、さっきまで居たスタッフも消えていること。ソフトクリーム屋さんも清掃のおじさんもジェットコースターや観覧車の側に居たスタッフさんもいつの間にか居なくなっている。
緋美華と金城の戦いを見て逃げたのかな....てか、こんな場所で堂々と能力を使って大丈夫なのかしら。
「大丈夫ですわ。何故ならこの遊園地はわたくしの所有地ですもの! ですから勿論スタッフは能力の事も存じていますし」
「勝手に思考を読まないでくれる? 怖いんだけど」
「オホホホ、風見さんの考えている事など手を取る様に分かりますわ!」
「気持ち悪い事を言うんじゃないわよ」
「えーと....うぐっ!?」
「あら、戦いの最中に油断は禁物ですわよ?」
不意討ちだなんて、性根が腐り切ってる....頑張れ緋美華、こんなカスに絶対負けるんじゃ無いわよ!
第9話「怒れるメイド」
B.
緋美華が放つ素早い蹴りを金城は巨大かつ金ぴかの斧で防ぐ、あんなに重そうな物を片手で良く持てるわね。
「まーさか、本気を出して此の程度ですの?」
「うわっ!」
金城は巨大な斧を軽々と振り回し、緋美華は其れを避けるので精一杯の様子。一発だけでも真面に食らえばさっきの私みたいにグロ注意ッ!な状態になって了うものね。
「避けるだけとは無様ですわ、臆病者」
「肉弾戦だけなら金城さんの方が私より強いかも」
「では良い加減に能力を使用なされたら如何ですの? でないと本気を出しているとは認めませんわよ」
緋美華は斧を素手で受け止める、バカじゃないの、見てるだけでもかなり痛いわよ!?
皮膚は裂かれてだらだらと血が滴っている、幾ら再生するとは言えそんな事して....いや、その手が有るわね。
「言われなくたって!」
「っ....!」
焔だ、緋美華は焔を自分の手に纏う、すると斧はドロドロと溶けてしまった。此じゃとても武器としては使うことが出来ないわね、やるじゃないの!
「武器なんざ」
「今度は何処へ転移したの!」
「幾らでも用意が可能ですわ!」
な、今溶かされたばかりの斧と同じ物を手に現れるなんて。若しかしたら一旦、派手で馬鹿デカイ自宅に転移してそこから同じ武器を持って来たのかも。
「オホホホ、ご名答。私の豪邸には百を超える武器が置いて有るので、破壊されても此の様に取りに行けば問題ないのですわ!」
また思考を読んだな此の変態は、まさか其れも能力の一種? でも津神は一人に能力は一つと言ってたわね。
じゃあ何で私の思考を読めるのよ、私が表情に出ちゃうタイプって訳じゃ無いわよね? そうだったらとっくに緋美華に惚れてる事も気付かれてるんじゃ!?
「ううーっ、厄介だよぉ」
「教えて差し上げますわ、あなたでは風見さんを護れないと言う事を」
「っ!」
金城は何処かへ転移してしまう、それと同時に緋美華は背をトイレの壁にぴったりとくっ付けた。
「そっか、これなら後ろから攻撃される心配は無いわ」
「あらら熾天級も私の前では此の程度ですわ....」
「何ですって!?」
私達の考えは常識に囚われていた、まさかトイレの壁ごと破壊して背後から襲って来るなんて。コイツなら自分の敷地内だしトイレの一つくらい破壊したところで後で直させれば良いって考えが出来るわね!
「勘が当たって良かったよ。金城さんの性格なら此れくらいするんじゃないかって思ったんだ」
後頭部に振り翳された斧の刃を緋美華は振り向く事もせずに受け止め、さっきは先端だけ溶かした焔を全体に纏わせる。すると金城のドレスに燃え移り忽ち全身が焔で焼かれた。
「あああああ熱い熱いっ!」
「降参して、これでも火傷は残らない程度には調整してるんだから!」
ほ、本当かしら....火達磨になって獣の様な悲鳴を上げながら転げ回ってる様子は生き地獄を味わいながら死に逝く者の其で大嫌いな金城とは言え可哀想になって来るんだけど。
まあ物理的にはダメージを与えず熱さだけを感じさせてるって器用な技なのかもしれない、焼死は凄く苦しいらしいからそれでもあんな技食らいたくないわ。
「なぜ殺しませんの。私はあなたを本気で殺すつもりでしたのに」
「死なれちゃったらお話聞けないもん、勝ったら事情を話すって約束したじゃん」
「くっ、やはり気に要りませんわ」
「往生際が悪いよ....ごめんね、ちょっと眠ってて!」
火達磨の侭、イカれた執念で金城は緋美華に飛び掛かるも顔面パンチを食らい終に倒れた!
「目を覚ましたら約束通り色々と教えてね」
「お、お嬢様ああああああ....よくもお嬢様をこのガキがああああああ!」
「ふええええん、怖いよおおお!!」
金城が地面に血を吐きながら倒れるのを見た椋椅さんは普段の穏やかさからは想像出来ない程の豹変ぶりを見せ、鬼の様な形相で緋美華を睨み付ける。そっちから喧嘩売って来た癖に!
「邪魔をするんじゃねぇ」
「行かせない、あなたの相手はわたしの筈」
五メートル離れてる私でも思わず後退る程に、凄まじい殺気を放ちながら自らの結界を解除し、緋美華の元へ向かおうとする椋椅さんの脇腹に、津神は錫杖を叩き付けて足止めした。
「女の子に向かって野郎は不適切な表現。緋美華は休んでて、こいつは私一人で十分」
「わかった、無理しないでね!」
こっからは緋美華と一緒に津神と椋椅さんの対決を見物か、絶対に勝ちなさいよ。そうしないとまた緋美華が戦う羽目になるんだから。
「死にやがれっ!!」
「速い....」
さっき見た時よりもナイフの速度が向上している、だから津神も五本は叩き落とせたけど、残りの一本には対応する事が出来ず、僅かとは言え頬の肉を掠め取られてしまった!
「水無ちゃんっ!」
「大丈夫、此れくらい直ぐに治るから」
「お嬢様を傷付けた花畑女を絶対にぶち殺してやる為にも、さっさと死んで貰うぜ」
そう言って椋椅さんはロングスカートを捲し上げ、太腿のホルダーから五本のナイフを取り出して津神に投げつける!
「ふぇっ、ひどい!」
「あなた....彼女の悪口は赦さない」
緋美華に対する悪口に津神もキレたみたい、まあ強ち間違いじゃないけどね。
「随分と心酔してんじゃねえか、ああ!?」
「あなたこそ。醜い本性を現すほど激怒するなんて、よっぽど惚れ込んでるようで」
「黙りやがれっ!」
椋椅さんは水の弾丸をナイフで全て切り裂くと、津神の腹部に掌底を食らわせ、更に華奢な体を持ち上げて顔面を地面に叩き付けると言う情け容赦ない技を繰り出した!
「ガキが大人に勝てるかよ、ましてや喧嘩慣れしてねえ素人がよ」
喧嘩慣れって....椋椅さん、貴方は一体どんな人生送って来たのよ。まさか堅気じゃ無かった時期が有ったとか、どのみち怒らせたら怖い人だって事が判明したわね。
「あんな仕打ち酷いよ! 水無ちゃんを助けに....」
「此れぐらいは平気! 必ず勝つから休んでて」
「ガキの分際でしぶといじゃねえか」
フラフラと立ち上がった津神に、椋椅さんは又々ナイフを投げ付けた!
投擲速度も数も上がっている、さっきの速さで五本のうち一本だけとは言え食らってしまったのに避け切れる筈が無い!
「貴方は私のことを喧嘩慣れしてないガキと言った」
「あ?」
「罪断蒼嘘....」
水の障壁が現れてナイフから津神を守る、避け切れ無くてもバリアみたいなのが使えるとか便利な能力ね。
「確かに喧嘩慣れはしてない、けど」
「むっ!?」
「殺し慣れはしてる!」
そう言って津神は錫杖を椋椅さんの腹部目掛けて突く、しかし椋椅さんは長いスカートを翻し軽々と背後に下がって回避した....いや!
「なにっ!?」
椋椅さんはいつの間にか出来ていた水溜まりに嵌まった隙に、津神は彼女の腹部を錫杖で貫いてしまった!
「いつの間にこんな物、作ってやがった」
「これくらいなら簡単に一瞬で作れるよ」
「チッ....こんな様じゃ、お嬢様を守れやしねえな。百パー本気を出してないガキに負けるんじゃあよ」
「大丈夫、私が強すぎただけだから。あなたは十分に強いよ」
「ガキの癖に粋な事を言いやがるぜ....がはっ」
津神が錫杖を引き抜くと椋椅さんは微笑みながら俯せに倒れた....まさか死んじゃったんじゃ無いでしょうね。幾ら向こうから喧嘩売って来たからってやり過ぎじゃないの!?
「水無ちゃん、幾らなんでもこれは....とにかく救急車を呼ばないと!」
「呼ばなくて良いよ....起きろ」
津神は無表情のままロリータパンプスで気絶している金城の顔面を何度も踏みつける。
「わわわ....駄目だよそんな事しちゃ」
「貴女を傷付けた罰だから問題無い」
「痛い、痛いですわ、何ですの!」
なんてクソガキよこいつ、流石にこんな野蛮な起こされ方をして金城とは言え可哀想には....ならない! 理由は津神と同じく緋美華を傷付けたから。
「今すぐ病院に一緒に転移して、貴方だけ戻って来て事情を教えて」
「椋椅っ....! 分かりました、悔しいけど約束は守りますわ」
「ありがとう!」
「忠告しておきますけど、どのアトラクションも使用しない事ですわよ!」
そう言って金城は椋椅さんをお姫様抱っこしたまま病院へと転移した、金持ちだから医療費あんま苦になんないの羨ましいわ。と考えてると緋美華が津神に水無ちゃん! と怒鳴った。
「あれはやり過ぎだよ!」
「死なない程度に調整したから、一週間くらいの入院で済む。それに喧嘩を売って来たのはあっちだよ」
「それはそうだけど....」
「にしても事情が気になるわね、アイツらが戻って来るまで遊んで待ってましょ」
ジェットコースターは消えちゃったから乗れないけど、てか自分の敷地内にあるアトラクションを何処かへ飛ばすなんて考えれば考える程に変ね。
「でも金城さんはどのアトラクションも使用しないでって言ってたよ?」
「どうせ負け惜しみに決まってるわよ」
緋美華に負けて悔しいからって折角やって来たけど楽しませんわ!って考えでしょ。
「ううん....彼女の言ってた事は正しい」
「どう言うこと?」
「極めて微かにだから今まで気付けなかったけど、気配を感じる」
「どこから?そんなの全然....」
全く気配なんて感じないんだけど....緋美華と目を合わせてみるも彼女は首を横に振った、この娘も気配なんて感じてない見たいだけど。
「コーヒーカップ、お化け屋敷、回転木馬、観覧車、全部のアトラクションの中、または付近から視線を感じる!」
....な、何ですって!?
つづく
最近見た某特撮作品でマスコットキャラが亡くなり、不覚にも号泣してしまいました。
あまりに良かったので何時かオマージュしたいです....!