第8話「金の髪を持つ女、金の心を持つ女」
いやはや皆さん、聞きましたか赤といえば青だそうですよ。つまり緋美華ちゃんと水無ちゃんは....結ばれ!
るのかなあ。
どんな結末でも百合エンドには間違いと断言しますよ!さあ百合詐欺の心配は不要の此の作品を堪能あれ
A.
それは緋美華達が無苦を倒した夜、岡見と言う名のOLが残業を終え帰宅中の出来事である....!
彼女は背後からずっと付いてきている気配に怯えながら早足で自宅へ向かっていた。
一時はストーカーの類いかと思ったが、異様に獣臭く人間とは思えない唸り声を上げていることから恐らく違う。岡見は正体が気になったが、怖くてとても振り向く事は出来ない。
「なんなのもう....きゃっ!?」
気配に気を取られ小石に躓いて転倒しうつ伏せになった岡見の背中へ、待ってましたと言わんばかりに気配の正体....黒い狼が飛びかかり背中の肉を食い千切る!
「ぎゃああああああ!」
その悲鳴と血の匂いに誘われて、優に五十匹を超える黒い狼の仲間達が何処からか現れ、岡見の四肢に食らい付き絶叫と肉、骨の味を堪能し始めた。
「誰か....」
助けて!と岡見が口を開いた瞬間、一匹の狼が舌を食い千切る、すると彼女は苦痛の余り絶命してしまう。
狼達は一人の女性を数分でこの世から骨一つ残らず食い尽くすも空腹は満たされず、何事かと目を覚まし、抜け抜けと外に出てきた住民達まで貪り食い始めた。
そんな狼達による晩餐を、電柱の上で冷酷な気配を放ちながら見物している影が二つ。
「くくく、我が下僕どもよ存分に食え」
「相変わらずえげつないねェ、百狼牙盟」
――――ティンダロス。鷲と髑髏が刺繍された黒い帽子を被り金色の眼帯を着け、黒いネクタイに黒いスーツを着用し黒いスカートに黒と長靴を履いた金髪の十五歳程の女子を白衣の幼女はそう呼んだ。
「私はただ可愛い下僕に餌をやったまでだ、それに悪趣味な貴様に言われたくは無いな」
「悪趣味なんて酷いねェ、私のは研究の一環じゃないか」
彼女達は何者なのか、黄衣と何か関係が有るのだろうか....?確実なのは暗雲が緋美華達の頭上に立ち込めていることだけだ。
第8話「金の髪を持つ女、金の心を持つ女」
B.
ジェットコースターが一瞬で消えるなんて有り得ない、信じられない。だけど私は見てる知ってる、能力者という存在を!
「水無ちゃんに知らせないと」
「ねぇ、もし能力者の仕業だったらどうするのよ」
と、一応訊いてみる。あんな巨大な物が自然に一瞬で消えるなんて有り得ないし能力者の仕業以外には有り得ないでしょうけど。
「何でこんな事したか訊くかな」
「それで極悪な奴だったら?無苦みたいに」
「残念だけど戦うしかないかも、放って置いたら罪の無い人がまた殺されちゃうかもしれないし....」
そう言って緋美華は溢れそうになる涙を拭い微笑む。そっか....どんな理由が有っても、どんな奴でも、誰かを傷付けるのはやっぱり辛いんでしょうね。
「あ、いた。おーい水無ちゃーん!」
緋美華はベンチに座ってソフトクリームを舐めている津神を見つけると、子犬みたく駆け寄って行く。
「ジェットコースターが無くなった件なら、能力者の仕業」
「やっぱり!でもどうしてそんな事する必要があるんだろ?」
「無苦の趣味が殺人だったように、犯人の趣味が何かを消すことかも知れない」
能力者って良い意味でも悪い意味でも変人が多そうだしね、実際、私の目の前に居る二人とも変わってるし。
「じゃあ此処にみんな来てたけど、消されちゃったの!?」
「でしょうね。流石に人が少な過ぎるわ....ってか全く来ないなんて有り得ないわよ、私たちの学校は結構な数の生徒が居るのに」
「っ....誰!」
いきなり津神が止まったままの不気味なメリーゴーランドの馬に石を投げつけた。さっきも同じような光景も見た気がするんだけど、これ。
「下民の分際でわたくしに石を投げるなんて」
「でも今のはお嬢様にも非が有りますよ、コソコソしてたですし」
うげぇ....金城が椋椅さんと一緒に白馬の影から飛び出して来た。何で学校が無い日まで、こいつと遭遇しなくちゃいけないワケ?
「何でアンタらが此処に居んのよ」
「春野さんと津神さんが私達と戦って勝てたならば、教えて差し上げても宜しくてよ?」
「え....戦うなんてやだよ」
「殺さない程度にやれば良いから」
津神は何も分かって無いわね、この娘は少しでも誰かを傷つける事はしたくない性格なのに!
「うん....ねぇ金城さん、どうしても戦わないと話してくれないの?」
「当然ですわ、タダで長話なんて嫌ですし。あなたの事気に入りませんし、この際ボコボコにしてやりますわ」
何ですって....私がお前をボコボコにしてやりたい気分になったわ。でもこいつもきっと能力者、じゃないと緋美華に能力者だと知ってる緋美華に喧嘩売らないだろうし。
となると一般人の私では勝てないと言う事実に悔しさが心の奥底から込み上げてくる。
「緋美華、こんな奴に構ってやる必要無いわよ!」
「でも話を聞きたいから、これ以上、誰かに迷惑を掛けられても困るし」
幻滅されたら嫌だから言えないけど、正直なとこ無関係な人間がどうなろうと知った事じゃ無い。何でアンタは赤の他人の為に自分が傷付く選択肢を選べるの?
「勝つ前提なのが腹立たしいですわね、ぎゃふんと言わせますわよ椋椅」
「はい、お嬢様の御命令ですから悪く思わないで下さいね」
「絶対負けないんだから!」
そうは言っても金城は目をキラキラさせててやる気満々な一方、アンタは気が乗らない様子じゃない。
これじゃ勝てる戦いにも勝てないんじゃ....そんな不安を抱えたまま闘いは始まってしまった。
C.
「消えたっ!?」
緋美華の蹴りが顔面に直撃する手前、金城は消えてしまったかと思うと蹴りを放った本人の背後に現れた。
咄嗟に「後ろよ!」と伝えると、緋美華は金城の振り下ろした手刀を回避し逆に彼女の肩を掴む。
「なんてパワーですの!」
「ええいっ!」
背負い投げられて体が叩きつけられる瞬間、またもや金城は消えたかと思うといつの間にかコーヒーカップに座っていた....これは瞬間移動ってヤツ!?
「分かった、こいつの能力は対象を転移させる能力....この能力で結界の中に自分を転移させて侵入してきたのか」
表情一つ変えずに椋椅さんの投げるナイフを錫杖で捌きながら、津神はそう言った。という事はさっきの不審者の正体は金城だったのね。
でも何だって緋美華ん家に侵入してきたんだろうか、派手好きで庶民的なものを嫌うのに庶民的を下回る不審な服装をしてまで。
「ご名答、褒美に一つ教えて差し上げますけど、皆さん無事ですわよ。ただ御自宅へ転移させて頂いただけですし」
「何の為にそんな事したのよ!」
「戦いに巻き込まない為ですわ、あらら私とした事が、一つと言ったのに二つ教えてしまいましたわ。此処から先は春野さんが私に勝ったら教えましょう!」
またも金城は姿を消す、いや自分自身を何処かへ転移させた。今度は何処に現れて緋美華を攻撃するつもりなの!?
「緋美華、焔を纏って」
全身に焔を纏えば何処から攻撃してきても逆にダメージを与える事が出来るから津神の指示は理に適ってる、けれど....!
「駄目だよ、火傷させちゃう」
やっぱり緋美華は、相手が完全に外道じゃないと本気で戦うどころか能力すら使おうとしない。その優しさは絶対に命取りになってしまう!
「こんなに甘くては、幾ら強くても無意味ですわね」
「きゃあああああああああ」
「緋美華っ!」
金城の指が触れた緋美華の脚が一瞬で無くなってしまった、何処かに腕だけを転移させたのね....こんな痛々しい姿、見てらんない!
「安心なさい、津神さんが居れば再生するのでしょう?それを承知の上の攻撃ですわ」
「だからって!」
「津神さん、あなたの相手は私ですよ?」
「くっ....!」
椋椅さんは自分自身と津神の周囲に結界を張ってしまう。どんなに強力な技でも破壊できない結界に閉じ込められたんじゃ津神は緋美華を助ける事は出来ない!
「やる気有りますの?」
「やる気は有るよ、ただ悪い人だって決まってない人に本気は出せないだけ」
「舐められたものですわね、やはりあなたは気に入りませんわ!」
片脚を失って身動きが取れない緋美華に、金城は躊躇い無く巨大な金色の斧を振り翳した!
「駄目ええええええ!!」
私の体は咄嗟に緋美華の前に躍り出て、そして上半身を大きく切り裂かれ腸をぶちまけた。
「あ、ああ....痛いよぉ.....」
「ひより!!」
情けない声を出して倒れてしまった私に緋美華が金城を突飛ばし、やっと再生した脚で駆け寄って来る。
「まさか此処まで深い愛だなんて思いませんでしたわ」
「しっかりして! 私の所為でひよりが死んじゃうなんて嫌だよ....」
私だって嫌よ、此処で死んだらアンタは自分のせいで私が死んだんだって要らない責任を背負って生きる羽目になってしまう。
嗚呼、悪いのはアンタじゃなくてクソ金城と馬鹿な私だって言ってあげたいのに声が出ない。
「水無ちゃん、お願いだよひよりを助けて!」
「無理。生命力は自分と一人の人間にしか分け与えられない、それに此の結界から出られない....」
「そんな!!」
どう足掻いても此処で死ぬ運命って訳ね、嫌だなあ緋美華と付き合って結婚するって夢が叶わずに死ぬなんて。
でも緋美華を守って死ねるのは、良いか....最期に見るアンタの顔が泣き顔じゃなくて笑顔なら尚のこと良かったんだけど。
あ、ヤバ....走馬灯を見る前にもう意識が途切れ........て....。
つづく
いやあ、此の作品は今回も面白かったですね(ヤケクソ)。てか面白い作品ってどうやったら書けるんや!!
あと武器が斧ってあんまりパッとしないイメージですが、特撮だと斧が武器のキャラは強い場合が多い気がします。