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赫蒼の殲滅者  作者: 怪奇怪獣魔爾鴉男
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第7話「眠り姫」

冬って百合イベントの季節ですよね、クリスマスにバレンタイン、マフラーの共有。



A.


私はいま、昔から片想いしてきた幼馴染に告白っぽい台詞を吐かれて曾てない緊張に襲われている。



「これって....」



「プロポーズ?」



「ちっ、違うよ!親友として幼馴染としては大好きだけど」



残念....告白じゃないのか。危うく心に火傷するとこだったわ。それにしても気になるのは津神がほっとしたって表情してること、やっぱりこいつも緋美華が好きなんじゃ!?



「それより結界の外へ出たって」



「うん、吃驚しちゃったよ」



「あの結界は強力、物理的に破壊するのは不可能に近い。でも瞬間移動(テレポート)なら破壊せずに結界の外へ出られる」



金城曰く椋椅さんは確かに能力者以外には不可視で、自身が許容した人物しか入れない結界を春野宅と風見宅に張ったらしい。


能力者じゃない私には勿論見えないけど緋美華も津神も金色のオーラが見えると言っていたから、実は結界は張られてませんでした!って訳でも無いようだし。


やっぱり津神の言う通り瞬間移動したってことか、某ゲームなら便利な機能なんだけど敵に回られると面倒ね。



「それじゃ安心出来ないじゃない」



「大丈夫、緋美華は私が見てるから」



「ひよりと水無ちゃんは私が守るよ!」



事実とは言え私がこの中で一番弱い立場なのが気に食わないわね。でも緋美華に守って貰えるのは悪くないかも。


アンタも随分と成長したわね....そう口に出そうとした時に誰かのお腹の蟲が哭いた。誰かってかこんな緊迫した雰囲気で呑気にもお腹鳴らす奴は一人しかいないけど。



「あははは、お腹空いちゃって」



昔より強くはなったけどそういう所は変わらないのね、呆れると同時に何故かほっとする。


このまま変わらないでよね、馬鹿だけど明るくて優しいアンタのままで居てよ?



「とにかく朝御飯食べないと、お腹が減ってはなんとかだよ」



「じゃあ私が作るから」



「えっ、悪いよそんな」



毎朝寝坊するからパン焼いて持ってたりお弁当作ってあげてるのに今更水臭い事を....あんな事があったから気を遣ってるのかしら?



「昨日なにも出来なかったもの、料理くらいはさせなさいよ」



「....うん。ありがとね!」



この娘に基本的に好き嫌いは無いから、目玉焼きと味噌汁と焼き魚で良いわね。たっぷりと隠し味(あいじょう)を入れてやるわよ!



「どう致しまして」



「なにニヤニヤしてるのひより?」



「気持ち悪い」



「津神、アンタは口が悪いわね。ただの思い出し笑いよ、さあ料理料理!」



表情に出ちゃったし津神に悪口言われたけどまあ良いわ、とにかく緋美華の料理には沢山アレやアレを....ふふふふ!

邪な思いを胸に台所へと向かうのだった。





第7話「眠り姫」




B.


私の作ったおにぎりを口に入れた瞬間、津神の顔が蒼いツインテールとは対照的に真っ赤になっていく。



「か、辛い....!」



「うーん、塩が良く効いてるけどあんまり辛くないよ?」



そりゃそうよ、緋美華には塩加減を良く考えて真面目に握ったおにぎりを出したんだもの。逆に津神には七味唐辛子をたくさん入れて置いたわ。



「お前わざとやったな」



「あーごめんなさい、間違えちゃったわ。わざとじゃないわよ?」



津神の口調が荒くなる、けど表情は眠たげなまま。だから何かアンバランスさを感じるわね。



「わあ、お味噌汁だ!」



「私のだけ冷めてる」



「あらもう冷めたの?」



冷めるのも当然よ、一番最初に作っておいたんだからね。そして緋美華の味噌汁には人には言えない物を入れて置いたわ、臭いも調味料で消したしバレる心配は無い!



「水無ちゃんには私のをあげるよ」



「でも....」



「遠慮しないでよ、私は冷たいお味噌汁も好きだから!」



「ありがとう緋美華」



ちょっとアンタ冷たいお味噌汁好きとか嘘ついてんじゃないわよ!って言ったら私への好感度が下がっちゃう。


けどこのままじゃ私の隠し味(あいじょう)がたっぷり詰まった味噌汁が緋美華じゃなく津神に食べられてしまうわ!



「でも私猫舌だから冷たい方が好きなの」



「そうなんだ!災い転じてなんとかだね」



元々生意気で猫っぽい雰囲気だけど、猫舌って知ると更にそれっぽく感じるわね。わたしは犬派だけど、あ....だから犬っぽい緋美華が好きなのか....なんてね。



「じゃああったかいの頂きまーす」



「やっぱり駄目っ!」



津神が緋美華の手を叩く、そして当然ながら緋美華の手から汁椀が落ちて味噌汁が床にぶちまけられた。



「うわっ、なにするの水無ちゃん!」



「なんかヤバイもの入ってたから」



やっぱり気付いたのね、勘の良いと言うか鋭いガキだわ。やっぱり注意しないと!



「やばいのってなぁに?」



「単刀直入に言うとね....うっ!」



何が入ってたなんて緋美華に知られたら幾ら優しい娘とは言え軽蔑するのは明らか。津神を腹パンして黙らせなければ危うくバレるところだったわ....!



「ごめんなさいね、どうやらちょっと間違えてヤバイもの確かに入れちゃってたわ」



「そうなんだ....ありがとう水無ちゃん!」



「うん」



緋美華に抱きつかれると津神は頬を赤らめて嬉しそうに口角をあげた。やっぱりこいつも緋美華に惚れたのね、出会って間もないのに!



「チッ」



思わず舌打ちしてしまう、選りにも選って私のした事が緋美華と津神の心の距離を縮めてしまうなんて!



「緋美華にお礼言って貰えたから今回は許すけど、次やったら殺すよ」



津神はほんの僅かに吊り上げたジト目で私を睨むと、小声でそう言った。



「あんまり強気な言葉を使ってると逆に弱く見えるわよ」



痛い台詞にオサレな台詞で返したけどこいつは能力者だから実際強い、一般人の私を殺すのだって赤子の手を捻ると同じくらい簡単にできるでしょうね。悔しいっ!



「二人とも仲良くしてよー!」



「私は貴女とだけ仲良くしたい。でもこいつは嫌いだから仲良くしたくない」



「私だってアンタの事嫌いよ、雰囲気暗いしゴスロリにツインールって....アニメキャラのコスプレかなにか?」



ごめんなさい緋美華、アンタは仲良くしてって言うけどこいつとはどうやっても仲良く出来る気しないわ。



「コスプレじゃない、私服」



「ゴスロリ服が私服ってメンヘラ?」



または邪気眼系の厨ニ女、どちらにしろ痛々しくてキモい存在に変わりは無いけどね。そんな奴に緋美華を渡す訳には行かないわ!



「メンヘラってなぁに?」



「アンタは知らなくて良いわよ」



「お前....あんな自分が好きなだけの存在と一緒にしないで。私は自分も嫌い、好きなのは緋美華だけだから」



今はっきりと緋美華の事を好きって言ったわね、やっぱり恋敵じゃないの。出会って間もないのに私の緋美華に惚れるなんて良い度胸じゃない!



「さっきから年上に向かってお前とかこいつとか、言葉遣いがなってないわね?」



「年功序列、反対」



「うぇええええん!喧嘩は辞めてよぉ!!」



私と津神が拳を構えたのを見て、緋美華が泣きながら間に割って入ってきた!



「何でアンタが泣くのよ、あぁもう分かったから泣かないの」



「仕方ない、一時停戦」



「ほんと?良かったあ」



敵わないわね全く、もう高校生なのに精神年齢は小学生レベルじゃない。いえ....この娘のこと言えないわね、緋美華に対する子供染みた嫉妬心と独占欲は未だに消えないんだもの。



「ひよりは今日は調子悪いみたいだから私が朝御飯作るね」



「それなら安心」



「どう言う意味よ」



まあでも緋美華の料理も結構美味しいし、未だに将来の夢がお嫁さんなだけあって料理洗濯掃除も器用に(こな)すのよね。


だから女子力が高くて男子受けも良いけど、彼女の夢を叶えるのは絶対に私なんだから!



「で、さっきの奴どうやって探すの」



「私と緋美華で交替で睡眠を取って見張る。来たら倒す」



「単純明快で良い案じゃない、態々こっちから探しに行かずにまちぶせってわけね」



多分これ以上の解決策は無いわ、これで一安心ね。だけどこいつ緋美華が寝てる間に変な事する気じゃないでしょうね?


私ならそうする、てか毎朝キスしてから起こしてるし....緋美華は津神がファーストキスの相手だと思ってるけど実は私なのよ!



「じゃあ私は緋美華が寝てる間にアンタを見張っておくわ」



「なんの意味があるの」



「あの娘が寝てる間に変な事をする気でしょ?」



「確かにしたいけど、しないよ。自分の知らない内にそんな事されるなんて可哀想」



返って来たのはそんな意外な言葉だった、こいつの冷たい雰囲気から勝手に手段を選ばない私と同じ人間だと思ってた。



「し、信じられるものですか、理由があったとは言えいきなりキスしたじゃないの!」



「....そうだね。勝手にして良いよ」



津神の言葉が硝子の破片みたいに鋭く胸に刺さった、確かに自分が寝ている間にキスされるって余り良い気分じゃないわよね。


私だって最初した時は躊躇った、こんな事をしたら本当はいけないって....でも我慢出来ずにしてしまった。


それから津神が現れるまではずっと寝顔に唇を重ねて来たけど一度だってされる側の緋美華の気持ちを考えた事は無い。


どうせ寝ている間なら何も感じる筈が無いと、脆弱な言い訳を自分に言い聞かせていたから。



「最低ね、私は....」



「ふたりっともー♪朝御飯できたよー!」



朝食を運んできた彼女の無垢な笑顔に、私は今まで溜め込んできた罪悪感に胸が押し潰されそうになった。





C.


さてと、折角の休校だし遊びに行くとしますか。本当は緋美華と二人きりで休日デートが良かったんだけど、津神を一人だけ除け者にする訳にもいかないし連れていかないとね。



「遊びに行くの?やったぁ!」



「こらこら(はしゃ)がないの。気休めにもなるし津神が言ってた黄衣とかいう奴が向こうから襲って来るかも知れないし」



「返り討ちにしちゃおー!って作戦なんだね」



「風見にしては良い案」



一応いま誉められたの? でも風見にしては....って、やっぱり一言余計なのがムカつくわね。


そんな事を考えながらぱぱっと準備完了、財布よしスマホよしハンカチよし昔緋美華から貰ったペンダントよし!



「私も準備できたよー!」



「でも何処に行くつもり?」



「遊園地、定番でしょ」



....という訳で、電車に揺られて遊園地付近にある次の次の駅、桃紅駅に着くのを駅弁食べながら待つ....とはいかない。さっき朝食食べたばかりだし、節約よ節約。



「でさ、いい加減に話してくれても良くない?能力とか黄衣とか緋美華ん家に逃げ込んでた理由とかについてさ」



「能力は一人ひとつ、それが感情の爆発で発現した人間が能力者。そしてその爆発の大きさで強弱が変わる」



やっと話してくれる気になったのね。これで少しはモヤモヤが晴れるわ!



「能力者は推定数百人いて日本中に潜んでる。自分の力を恐れて使わない者、良い事に使う者、悪用する者に別れる」



悪用する者は無苦で、良い事に使う者が緋美華と津神ね。



「えーと、それで滅茶苦茶強いのがアンタと緋美華の発現した能力は」



「熾天級、最高位の強さを持つ能力」



熾天....熾天使から来ているのかしら、確か熾天使は天使の中で最上位の存在だもの。



「じゃあアンタら二人居れば怖いもの無しね」



「うんうん、水無ちゃんと私のコンビは最強なんだよー!」



コンビはそうだけど、ベストカップルはアンタと私なんだからね! 飽くまで津神とは戦友の域で居なさいよ、お願いだから。



「そうはいかないの。能力が強くても上手く使いこなせないと意味がない」



「現に熾天級でもない無苦に二対一でも圧勝とは行かなかった」



津神 無苦は水無の妹で凄まじい強さと狂気を持っていたわね、思い出すだけで脚が震えてくる。先生の死に様や男子達の首吊り死体、あんなの二度と見たくないわ。



「あんたは何処で知ったのよ?」



「教えて貰ったの」



「誰に?」



「わーい、二人とも駅に着いたよ!」



津神が私の疑問に答える前に、桃紅駅にへ到着し、緋美華がまた燥ぎ始めた。全く子供なんだから、あぁもう子犬みたいで可愛いわね!



「話はまた後で聞かせて、まずは楽しんでからね」



「うん」



....駅から数十分歩いて遊園地に着いたけど、人の気配が殆ど無いなんて変ね、居るのはスタッフさんくらい。学校で起こった事件にビビって外出出来ずにいるのかしら?



「二人とも何乗るー?あ、お化け屋敷?」



「アンタが決めなさい」



「じゃあお化け屋敷が良い!」



「ちょっと!」



こうして緋美華に手を引っ張られ、お化け屋敷に入った。当然だけどかなり薄暗く気味が悪く、お化け役の人もメイクのクオリティが高くてやたらリアルだったから正直かなり怖かった。


でも緋美華が幽霊役の人に驚いて私に抱き付いてきたり、手繋いで来てくれたから凄く幸せな時間を過ごせたわ!


これもてっきり緋美華とベタベタくっ付いて進むかと思ってた津神がさっさと出て行ってくれたお陰ね。



「怖かったぁ!」



「中々楽しめたわ」



「うん、それにしても水無ちゃん凄いね。こんなに怖いところを一人で出口まで一気になんて!」



「....ちょっと、ね」



「ん、脚が震えてるじゃない。ははーん....さてはアンタ、ビビってたでしょ?」



「ちがっ!」



声を荒げて否定するなんて図星ってことじゃない、意外な弱点を発見したわ。こんな臆病者じゃやっぱり緋美華は任せられないわね?



「私も凄く怖かったもん、仕方ないよってわわ!」



突然ぎゅうっと強く、津神が緋美華の腰に手を回して抱きしめてお腹に顔を埋めた。



「怖かった。ごめん置いて行って、嫌わないで」



「よしよし、嫌わないよ〜!」



「ちょっとアンタ達、私がいるの忘れてない?」



まるでバカップル....じゃないわ認めないわよそんなの! 飽くまで姉妹みたいな関係なんだからこの二人は、断じてカップルとかじゃ無い筈!



「忘れてないよ、三人一緒で遊びに来たんだもん!次はジェットコースター乗りたい」



げっ、ジェットコースターとか絶叫マシーンは苦手なんだけど。だからって嫌と言ったら....怒りはせず仕方ないねって笑うだろうけど心の中では落ち込むでしょうし。



「私は乗れない、身長が足りないから」



「あぁそっか....じゃあ辞めよ」



助かったわ、これで乗らなくて済むとほっとしたのも束の間、津神は「二人きりで行ってきなよ、私は待ってるから」と提案しやがった。



「でも退屈じゃない?その間待ってるなんて」



「大丈夫、少し休みたいから」



津神はそう言ってニヤリと笑った....さてはこいつ、私が絶叫マシーン苦手な事に気付いてるわね!?



「この腹黒幼女め」



「じゃあ、はいこれ!」



ほくそ笑む津神だったけど、緋美華に五百円を握らされるときょとんとした顔で緋美華を見つめて首を傾げた。



「このお金は?」



「これでソフトクリームでも買って食べてて! 待ってるだけじゃ暇だもん」



自分より他人の事を考えちゃうのは長所であり短所よ、私だったら自分の事で精一杯。緋美華の事は別だけどそれは好きだから。


でもこの娘はどんな人間も自分より優先してしまう、だから見てて少し不安になっちゃうのよね。



「えへへ、どう致しまして! じゃあ乗って来るね」



さっきと同じく緋美華はそう言って私の手を引っ張り、ジェットコースターまで向かった....けど。



「うわっ!」



「嘘でしょ....」



跡形も無く消えてしまった、ジェットコースターが一瞬で....一体いま何が起こったってのよ!?



つづく





雪の積もった坂道は大変です、危うく事故りかけました。でも外出するには絶対坂を通らねばならぬ運命。

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