第5話「白き焔、燃え上がる!」
蜘蛛モチーフの敵は良デザインが多い気がします。
A.
鹿が、熊が、猪が....無苦からは隠れていただけの動物達が火と緋美華の殺意に怯えて逃げていく。
「津神 無苦、あなたは絶対に赦さない!」
「ほんのちょびっとビビったけど油断しなければお前なんて!」
無苦は糸で義足を編んで着けると、緋美華に素早い蹴りを繰り出した。余りの速さによる残像で脚が六本あるように錯覚してしまう。
「はああああああ多脚毒蜘蛛拳〜〜〜!音速の毒手ならぬ毒脚を喰らいやがれええええ!!」
「きゃあああああ!」
緋美華は避け切れず、真っ当に食らってしまった。無苦は毒手ならぬ毒脚と言っていた....まずい!
「どう、痛みと毒で動けないでしょ!」
「態々教えてくれてありがと。体が動かないのは毒で麻痺してるからなんだね....だったら」
「なっ!?」
緋美華の体を白い焔が覆い、それと同時に周囲の気温が五度くらいは上昇した様に感じる。真夏ですらひんやりとしている此の森で、大量の汗を掻くなんて初めてだ。
「よいしょっと」
「そんな馬鹿な!何故動けるようになったの!?」
「水無ちゃんも、動けないのは毒のせいだよね?」
私の体を白い焔が包み込む、不思議と火傷もせず苦しくもなく、熱いと言うよりは暖かい....本当に一万度もあるのだろう。
だけど体が自由になった、麻痺毒が熱分解される程の高温なのは間違いない。でもそれなら何で私の体は平気なの?
まあ兎に角、これで私も戦える....流石の無苦でも熾天級を二人も相手にするのは厳しいはず。
行くよ無苦、私の愚妹....姉としてあなたを倒す!
第5話「白き焔、燃え上がる!」
B.
能力の使い方が頭の中に流れ込んできて、どうすればどんな技を使えるか分かる。
「厄介な能力に目覚めやがって!」
津神 無苦....名前もだけど良く見ると蒼いサイドテール(とひよりが教えてくれた髪型)に眠たげな眼とか、容姿も少し水無ちゃんに似ている。
けど残忍で狡猾な中身は水無ちゃんと全然似てないから、容赦なくお仕置きできるよ。
「毒蜘蛛の的当遊戯!」
無苦は無数の針を飛ばしてきた、きっと私が水無ちゃんを刺したのと同じ様に毒が塗られているだろうね....だけど!
「はぁああっ」
「針を焔で焼き落とすなんて」
当たらなければ問題無い....凄いスピードで飛んできたから避け切れないと思って焔で無力化したのは正解だったみたい。
「行くよ....無苦」
「二対一でも私は負けない!」
水無ちゃんがスカートの中から蒼い棒を取り出して、それに付いていた銀色のボタンを押すと、キラキラして先端にダイヤモンドが備えられた魔法少女が持ってそうな杖に変形した!
「水流突!」
水無ちゃんはその杖による連続攻撃を繰り出し、それを無苦が防いでいる隙に背後へ回り込んでキックを放つ....けど。
「うあっ!?」
キックがマントに弾かれちゃった....凄く硬いよ、逆に私の脚がダメージを負うなんて。
「私のマントは蜘蛛の糸の糸で編んだもの、どんなものを使っても破壊は出来ない!」
「緋美華。そのマントは銃弾すら弾くほど硬いの」
銃弾を弾くなんて硬すぎるよ....でも物理攻撃が効かなくても、私の能力は焔だから!
「燃やしてしまえば!」
「ああああああっつい、まさか私のマントが燃えるなんて」
無苦は白い焔が燃え移ったマントを投げ捨てるその瞬間に、水無ちゃんの杖による連続突きを平坦な胸に食らって蹌踉けた。
「うぐっ」
私の白い焔は銃弾すら弾くマントも灰に出来るほどに強力なんだね。
そんな強力な焔も水無ちゃんに使った時も彼女に害はなかった、敵意の無い相手に殺傷効果は無いみたい。
「糸紡ぎ・地獄編」
無苦の十本の指先から太い糸が放たれる、さっき飛ばしてきた針以上に速い。
焼き落とそうとするも間に合わずに私も水無ちゃんも縛り上げられ、何度も地面に叩き付けられてしまった。
「きゃあああああ!」
「っ!」
その衝撃で水無ちゃんの杖が折れ、私の骨も何本か折れた。痛いぃ....しかも両手足を縛られてるから動けないし。
「焔張塗!」
体に焔を纏うこの焔張塗って技が無ければ、危うく負けるところだったよ。
「私が勝てないとか有り得ない!」
「緋美華の焔の前には、あなたの糸は焼き切れるだけ」
「二対一とは言えお姉ちゃん何かに負けるなんて嫌だ....あの人が選んでくれたのは私なんだから」
無苦の拳と声が震え、眠たげな眼も鋭く吊り上がる。あの人って一体誰なんだろう?
「あの人....まさか黄衣の正体は」
黄衣....?正体....?
「あの人の正体が分かる事は永遠にないよ、ここで私に殺されるんだからね!」
無苦の腕と水無ちゃんの拳が交差し、お互いの頬に拳が打ち込まれて二人ともその場に倒れた。
「水無ちゃん!」
あの怪力から放たれるパンチ力は半端じゃない、その直撃を受けてしまった水無ちゃんはぐったりしている。
「しっかりして!」
「大丈夫....もう、終わらせるから」
「終わるもんか、こんな所で終わるもんかぁああああ!!」
そう言って津神姉妹は、凄い殺気を放ちながら立ち上がる。二人の迫力に思わず後退りしてしまう。
「彼女は命の創造者であり命の略奪者たる女神の涙....蒼淵螺旋海砲!!」
水無ちゃんが不気味な本を取り出してそう唱えると、水色の魔方陣が浮かび上がり、それから極太の水流が凄い勢いで放たれて真っ直ぐ糸のバリアへ向かって行く。
「糸張亜!」
糸で編まれた球状のバリアは水流を防いで魚籠ともしない、これじゃ無苦を倒せないよ。
「これでも破壊できないなんて!」
「この糸のバリアは破れる筈がない、今まで使った奴の三十倍の強度の糸で編んだんだから!」
それすらも私の焔で無力化出来るかは分かんないけど、とにかくやって見よう。
「緋美華、全火力でお願い。今の半分しか力を使えなくなるけど....多分そうしないとあの糸のバリアは破れないから」
「わかった....白 鯢!!」
白い焔を口から吐き出す。絵面があんまり可愛くないし格好良くも無いけど、物理攻撃じゃない技で一番火力のある技だから。
私の火焔と水無ちゃんの水流が混ざり、バリアにぶつかって大爆発を起こした。水蒸気爆発って奴!?
「きゃああああ!」
「うぐっ!」
私達は木や岩が洞窟が粉々に...って、ひよりの体も吹き飛ばされそうになってる!
「ひより!」
吹き飛ばされそうなひよりの体を必死に押さえながら、爆風に耐えきった。
ふう....爆風って全身打撲や全身火傷でヤバいとは聞いたことあるけど、本当なんだね....全身が痛いし熱いよ。
「んん....」
ひよりが眼を開けた、あの程度で死にはしないだろうけどちょっと心配したよ。やったの私なんだけど。
「あ、起きた。さっきはごめんね」
「別に良いけどアンタなにしてんのよ!それにボロボロじゃないのよ!?」
「爆風がちょっと」
「爆風ってなんか爆発したわけ....!?」
驚いて周りを見回すひより。森の半分が消し飛ばされ、地面が抉れ、ボロボロになっている自分や私達の姿を見て、彼女はマジか....と呟いた。
私が爆発エネルギーを吸収しなければもっと甚大な被害が出てたよ、水無ちゃんと私の合体技って凄く危険なんだね。でもこれくらいしないと、無苦には勝てなかったんだ。
「私が負けるなんて、なんでなの」
「自信過剰だから。自分の技を敵に教えすぎたから、なによりも」
「私と水無ちゃんのコンビに勝てる人はいないから!」
ひよりは呆れた、馬鹿じゃないの、と言う視線を向けてきたけど、水無ちゃんはその通りだよと微笑んだ。
「あなたが敵に回そうとしてるのは、強大な存在。私なんかよりずっとね!」
「....」
ごくり、と思わず唾を飲んだ。無苦以上に強い敵がいるなんて想像もつかない。
「いまからお姉ちゃんを見捨てて逃げても良いんだよ。そうすればお前だけは助かる、あの人の狙いはお姉ちゃんだけだから」
「見捨てないよ、絶対。詳しい事は知らないけど見捨てるなんて薄情な事はしない」
水無ちゃんの事は殆ど何も知らないけど、良い子だってことは知ってる。だから見捨てるなんて出来ないよ。
「緋美華....」
「楽しみだね、何処までその想いを貫けるか。地獄から見物するとするよ」
「こいつにトドメを刺して。私の魔力は切れちゃったから」
あれだけ色んな技を使ってたんだし、そりゃエネルギー切れにもなっちゃうよね。だから無苦は私が殺さないといけない。
「でも....」
さっきは男の子達を殺し、私に水無ちゃんを刺させたりしたから殺気に支配されていた。
けどいざ殺すとなると手が震えるよ、極悪人とはいえ幼い女の子の命を奪うなんて。しかも実姉の目の前で....!
「私の妹だからって気にしないで。こいつは殺さないと....お願い」
水無ちゃんは無苦の実の姉、血の繋がった妹を殺してなんて簡単に言える事じゃない。
「分かった、焔神力キック....!」
十メートルほど跳躍し、白い焔を纏った急降下キックを無苦の胸部に食らわせる。そして無苦は私の背後で特撮ヒーローものの怪人宛らに爆発するのだった。
C.
水無ちゃんは洞窟を見つめている。あそこには男の子達の死体があったけど、爆風で洞窟が崩れて埋まってしまった。
仇は討ったから成仏してね....と私も手を合わせて崩れた洞窟を見つめた。
「ねえ....さっきのは一体なんなの?」
「私も能力に目覚めたみたいなんだよね」
「そっか」
どうしたのかな、寂しそうな表情を浮かべちゃって....ひよりらしくないよ?
「なんか嫌な事でも....有ったよね、うん」
「まぁそれもあるけど、なんか寂しいのよ」
「男の子達にはもう会えないもんね」
私も寂しいよ。いつも明るい安田君にクールな影村君にも、先生にだって....学校で仲良くなった人にもう二度と会えないんだから。
「違うわよ馬鹿」
「へ?」
「そんな事より、用が終わったなら帰るわよ」
「そうだね、疲れたしお腹ペコペコだよ。帰りにお店に寄りたいなぁ....」
来る途中にファミレスがあったし行きたいな。そこで水無ちゃんにパフェ奢ってあげよう!
「....」
でも水無ちゃんはじっとして歩こうとしない、疲れて動けないのかな?魔力を使い切ったって言ってたし。
「どうしたの、帰ろうよ。疲れてるんだったら背負ってあげようか?」
「黄衣が私達を見てた、いま奴の気配を感じた....このまま帰ったらまた貴女に迷惑がかかるから」
そんなの気にしなくても良いのにてか黄衣ってなに?....そう言おうとした瞬間、上空からプロペラ音と声が聞こえてきた。
「それなら心配ご無用ですわ、わたくしにお任せなさい!」
この甲高い声と高飛車な台詞は....恐る恐る空を仰ぐと豪華絢爛なドレスを着た金髪の女が扇を片手に、ヘリコプターから身を乗り出していた。
「うわあ、何でアンタこんな所まで来るのよ」
「あのピカピカの人は誰なの」
水無ちゃんの質問に答えるまで時間がかかった、何しろ彼女は友達でも恋人でもなくクラスメイトでも無いから....強いて言うならば。
「反面教師だよ」
「誰が反面教師だこの野郎....わたくしは金城 紗雅、眉目秀麗容姿端麗文武両道の美少女ですわ!」
金城さんはヘリコプターから飛び降り、私達の前に着地するとそう言って不敵に微笑んだ。あと、私は野郎じゃないよ!
つづく
最近某ロボ擬人化アニメ見たのですが、技名叫ぶのってやっぱりカッコいい
てなわけで技名をわざわざ叫ぶのは貫きたいです。てかわざわざって技だけに