第4話 「姉妹対決・水と糸」
最近買ったゲームのBGMを作業用に使用していますが、BGM観賞モードあるゲームはチョーイイネ!サイコー!
A.
私の妹、津神 無苦は昔から冷酷な奴だった。四歳児の時点で虫を解剖し蛙を爆竹で四散させ....いやこの程度ならば子供の頃はやった事のある人間も少なくないかもしれない。
「無苦....またそんな事して」
「お姉ちゃんもやる?」
「遠慮しとく」
しかし小動物を見つけては絞め殺して嗤っていた幼稚園児はあまりいないはず。両親も気味悪がり、私も彼女に対して恐怖心を僅かながら持っていた。
そして私が小学二年生、無苦が小学一年生の時....クリスマスの日に両親が何者かに殺された。
その時も絶望と恐怖に震え涙を溢していた私とは逆に、無苦は二人の死体を見つめて泣き喚くどころか嗤っていたのだ。
「何で無苦は嗤ってるの、お母さんもお父さんも死んじゃったんだよ」
「面白いんだもの」
狂気的な妹と同じ家で暮らす事が怖くなった私は、一番仲の良い須田という友人に相談した。
「別々の場所で暮らしたいの、仲が悪い訳じゃ無いけど怖くて。この事は絶対に内緒だよ」
「ええ、分かっているわよ」
「ありがとう」
須田家は私と無苦を引き取ってくれる予定だったが相談の結果、私は本宅、無苦は別荘で過ごさせるという事に。
これで安心して生活が送れると思った、でもそんな浮かれた気分は直ぐに沈められてしまう。
「どう言うこと。絶対に内緒って約束したのに」
「ごめんねぇ....私あなたより無苦ちゃんの方が好きだから」
無苦が須田家の本宅で過ごすことになり、私は本宅どころか別荘でも引き取れないと言われた。須田は大好きな無苦を貶した奴を引き取りたくはないらしい。
「お姉ちゃんバイバーイ」
相談した事をバラされ、引き取ってくれるという話を無かった事にされ....妹を見捨てようとした最低の姉として学校でもいじめられた。何より、親友に裏切られた事が辛かった。
「そんな....待ってよ....なんでこんな事に」
須田に裏切られて人間不信になった私は、森に籠って自給自足の生活を始めた。それから三年....去年の事だ、黄色の衣を纏った人物と無苦が森に迷い混んだ人間を殺害しているのを見てしまったのは。
「さすがだな女帝蜘蛛・アトナクア。還血喰で一番の実力者だけある、既に百人とはな」
「まあね、好きこそものの上手なれって言うじゃん?」
「こやつは....くくく」
私は息を飲んだ、小学四年生の若さで実の妹が殺人鬼へと変貌していたのだ....。
第4話「姉妹対決・水と糸」
B.
「よくも男の子達を....許さないんだから!」
緋美華が熱くなっているけど、彼女では無苦には勝てない。能力者の中ですら上位の存在に常人が勝てる筈がない。
「戦っちゃ駄目」
「えっ」
ここまで緋美華を案内したのは犬死にさせる為ではなく、能力に覚醒させる為だから。
"能力 ”は “感情の爆発“により発現する、わたしも恐怖という感情が限界を超え爆発した事で水を操る能力が発現したのだ。
だから緋美華も男の子達の死体を見れば怒りという感情が爆発して能力に目覚めるかもしれない。
そう思ってここに連れてきたけものの怒りはすれど覚醒する様子はない....賭けに負けた、か。
「わたしがやる、妹のケリは姉である私がつける」
黄衣には負けたとは言え、奴の配下である還血喰なら無苦以外の全員を苦戦しながらも倒す事が出来た。
そして私に発現した水を操る能力、深蒼廣の強さは最上位の熾天級。
無苦の持つ能力 蜘蛛の糸と同等のクラス....十分に勝機はある。
「でも水無ちゃん!」
「私達は足手纏いにしかならないわ。隠れましょ!」
「わわっ」
風見が緋美華を木陰に引っ張り込んだ。正直、無能力者が周囲に居ては全力を出せないから助かる。
「姉としてお仕置きします」
「出来るモノならやってみなよ!」
「我が手に来たれ、水神クタート」
能力を使用する為に魔導書を顕現。装丁が気持ち悪く何時もびしょ濡れという欠点はあるけど、記載されている文字を読み上げる事で通常よりも強力な攻撃が可能になる。
「地から我に還る者に裁きを....蒼淵弾!」
蒼淵弾、簡単に言えば威力の高い水鉄砲。音速を超える速さで発射され厚さ一メートルの鉄板をも貫く。
「効かないよ」
そんな強力な技も金色のマントで弾かれてしまった、派手なだけじゃなくて防護衣にもなるのか....。
しかも音速の攻撃にすら反応できるなんて、能力に目覚めた人間は身体能力も上がるけど此処までとは。
「次は此方から行くよ」
「糸紡ぎ・三途の橋」
「罪断蒼嘘」
先端に鋭い針が備えられた六本の糸を水の障壁で防ぐ。と同時に背中へ痛みが走った。無苦がいつの間にか背後に周り蹴りを打ち込んで来たのだ。
「くぅっ....」
「鈍い鈍い、お姉ちゃん亀さん並みに鈍い」
「吸粋水」
クタートを使用しない中で最強の技を。半径一メートル以内に居る敵の水分を吸収して自分の魔力に変える。
ミサイルにすら耐える還血喰いのNo.3、装甲獅子ネメアでも吸粋水には勝てなかった。
「あ....あああ、干からびるぅううう」
無苦の体が木乃伊の様に干からびていく、幾ら強靭な肉体や防具を持って居ようと身体中の水分を奪われたら一溜まりも無い。
ミサイルにすら耐えるレベルまで自分の肉体を硬化させた還血喰のNo.3、装甲獅子・ネメアを破った技だ。
「やった、水無ちゃんが勝った!」
「足元を見なさい!」
「!」
風見が言う通りに足元を見てみると、地面が隆起している。
それに気付くと同時に、白い糸が地面から勢い良く出て来て私の両手両足をあっという間に縛り上げた。
動きを完全に封じられてしまったか....。これでは技を出す事が出来ない、しかも足掻けば足掻くほど身体に糸が食い込んでくる。
「油断したね、さっきのは糸で編んだ偽物だよ」
「なんて器用な....」
「悲しいよ、実の妹の偽物を見抜けないなんて」
今まで倒してきた還血喰も全員手強かったけど、その中で最強だけある....私の負けだ。
「じっくりと甚振ってあげるよ」
「くっ....」
残忍な無苦の事だ。きっと私の身体中に挙げ句、首吊り死体にするだろう。
覚悟はしていたけど怖い....黄衣に体を切断された時に感じた以上の恐怖に襲われる。
奴は敵を殺せれば其で良い、だが無苦は敵に苦痛を与え抜いて殺すのだ。死ぬ事に対する恐怖は無い、けど苦痛を味わうのは怖い....嫌だ....。
「ちょっ馬鹿、駄目よ!」
「ひより....ごめん!」
「うっ....」
緋美華が自分を必死に抑えようとする風見を腹部に拳を入れて気絶させ、私と無苦の間に飛び出してきた。
「そこまでだよ、水無ちゃんを解放して!」
「ふーん、お姉ちゃんを庇うつもり?」
「あ....当たり前だよ。私が絶対に守るんだから!」
強気な台詞とは裏腹に脚が震えている。無理なのは分かっているだろうし、早く逃げれば良いのに....なんで?
「逃げて。無苦が私を痛め付けてる間に」
「そうそう、私はお姉ちゃんをなぶり殺せるからもう満足なの。今日は見逃してあげる」
「逃げたりなんて絶対にしないよ!」
緋美華が私を拘束している糸を解こうと試みるが、びくともしない。
「無理だよ、その糸はダイナマイトにさえビクともしないんだからさぁ....でも」
無苦が指を鳴らす、すると私を拘束していた糸が消滅した。おかしい....こいつ自らせっかく捕らえた敵を解放するなんて。
「何のつもり」
突然私に緋美華が殴り掛かって来たが遅い、やはり素人の動きだ。でも何でいきなりこんな事を、実は無苦の仲間で私を騙していたの?
「なんで....体が勝手に」
「私の操り人形と化したこいつを殺してみなよ、そうしたらお姉ちゃんを見逃してあげる」
そういう事か。無苦....あなたは最低最悪の人間だ....いや、もはや人間と扱う事すら烏滸がましい程に邪悪!
「水無ちゃん、私を殺して。ひよりを連れて逃げて!」
「出来ない」
自分でも何故かは分からないけど出来ない。いま此所で緋美華を殺す事が最良の選択肢なのに!
「甘くなったね。あ、もしかして惚れてる?」
そう言いながら邪悪な微笑を浮かべて無苦が緋美華の手に鋭い針を持たせた、これで私を殺させる気か。
「貴女が死ぬのは嫌なの」
「私だって水無ちゃんを殺しちゃうなんて嫌だよ!」
「大丈夫だよ死なないから」
そうだ、死なない....私も貴女も死なない....。
「いやあああああおあああああ!」
操られた緋美華に腹部を針で刺され、私は膝から崩れ落ちた。力が入らない....毒針だったか。
「あ...ああ....」
「じゃあ、お前はさよならだね。糸紡ぎ・三途の橋」
「うああああああ!」
針を備えた六本の糸に貫かれると緋美華は悲鳴をあげてその場に倒れる。その目は虚ろで、体や口から大量の血を流している。
「じゃあ後はお姉ちゃんを....ん?」
血塗れの腕にがっしりと、無苦の脚が捕まれた。緋美華の腕が無苦の脚を掴んだのだ。
「馬鹿な今ので死なないなんて!」
緋美華が死なない理由、それは私が出発する前に彼女と接吻したから。
あれは生命力を与えて三時間は相手を不死身にする技、ただし一人の人間に使ったらその者以外には効果を発揮できない。
「お前だけは許せない」
「ぎゃあああああ、私の脚がああああああ!!」
私は自分の目を疑った、無苦の脚が白い焔に包まれて一瞬で灰と化したのだ。
「能力に目覚めたか」
「はぁ....はぁ....これは熾天級の能力・断罪の焔!?」
無苦が驚くのも無理もない、熾天級の能力者が現れる確率は よりも低い。しかも断罪の焔は伝説の能力、一万度にも達する白い焔を操ると言われている。
「絶対に倒してやる、津神 無苦....お前だけは!」
....私の期待以上を見せてくれた春野 緋美華。貴女は一体何者なの?
つづく
ちかれた