第2話 「怪奇女帝蜘蛛」
最初の敵は蜘蛛モチーフにするよ、特オタだもの
A.
津神 水無が春野 緋美華と運命の邂逅を果たしていた頃、動物園に女性二人組が訪れていた。彼女達は友人同士の枠を超えて恋人同士である。
「ライオンさん可愛い」
「可愛いね、でもキリンさんはもっと可愛いよ」
周囲の人間は微笑ましい気分で彼女達のデートを見ている。しかし其処へ邪悪な微笑みを浮かべた男性が現れ、二人の眼前に立ち塞がった!
「俺も混ぜてくれよ、一緒に遊ぼうぜ」
その台詞に周囲の人々は不快な気分になるが、ゴリラの如く筋骨隆々で、熊の様に恐ろしい顔をした彼に立ち向かう勇気を持つ者はその中に居ない。
「お断りします!」
「そうだよ、オッサンあっち行きなよ」
「いーや俺と遊んでもらうぞ」
カップルの片割れの腕を引っ張ろうとしたクズ野郎に、蜘蛛の巣の如く白いネットが突然降りかかって来た。
「な、なんだ!?」
「良く分かんないけど今の内に逃げよう!」
「うん」
男が戸惑っている隙に女の子達は姿を消し、白いスーツに黒のラインが入っている金色のマントを羽織った七歳くらいの少女が彼の目の前に現れた。
「こいつは中々に良い体格をしている、優秀な戦士になるだろう」
「これはテメェの仕業か!」
「そうとも。そして我が人喰い蜘蛛の巣から脱出できる者など無いのだよ」
年齢に不相応な態度と威圧感に目の前の男だけでなく、周囲の人間も自然と息を飲んだ。
こいつは何かヤバイと、男が必死にもがき始めたがネットは一向に切れる気配が無い、それどころかもがく程には体に食い込んでくる。
「見てないで助けてくれお前ら!」
助けを求める男性だったが、周囲の人間は彼をざまあみろと嘲笑するばかりで助けようとはしなかった。
「直に分かるさ」
そう言うと少女はネットごと男性を軽々と背負ったまま姿を消した。彼女は一体、何処に連れて行かれてしまったのだろうか....?
第2話 「怪奇女帝蜘蛛」
B.
耳を劈く悲鳴。鮮血に染まったリビング。眼を見開いたまま血溜まりの中で息絶えた父と母。
二人分の血を啜り深紅に染まった巨大な鋏を手にしたフードの人物が、金縛りに遭ったみたいにその場から動けない私をギロリと睨み付けた。
「きゃあああああああああ!」
「緋美華....大丈夫?」
「あれれ、今のって夢?」
いま目の前にあるのは両親を殺した犯人じゃなくてお節介な幼馴染の心配そうな顔。
いま私が居るのは血に染まった自宅のリビングじゃ無くて学校の教室。どうやら夢を見てたみたい。
「また授業中に寝ていたな?」
「ごめんなさい〜」
悪夢を見た上に先生に怒られてチョークを投げ付けられるなんて災難だよ。
其れよりも水無ちゃんは今頃どうしてるかな、お留守番を任せて学校に来たんだよね。
遠慮せずベッド使ってくれてると良いな、ぐっすり寝て疲れを癒して欲しい。
でも何で傷だらけで私の家の押し入れに居たのか、まだ話してくれてないから理由が気になるよ。
丁度明日は土曜日で休みだし詳しい話は帰ってからゆっくりと聞き出そう、お菓子とか可愛いお洋服とか買ってあげたら教えてくれるかな?
「ったく、春野さん毎日授業中に寝てるよな!」
「確かに〜〜〜〜ちょっと見習いたいかも!」
舞絵埜くん石掘さんの軽口の叩き会いにクラスの皆は笑ったけど、ひよりだけ暗い顔をしている。その理由はお昼休みに彼女自身から聞かされた、言われなくても分かってたけど。
「またあの夢を見てたの?」
「うん。でも何で今更あんな夢見ちゃったんだろ」
さっきの悪夢は私がまだ中学一年生の時、クリスマスの日に現実で見た光景、両親が何者かに殺されたのは現実....残念ながら夢じゃない。
私だってひよりが助けに来てくれなかったら殺されていたと思うし、犯人がまた現れたらと思うと一人になるのが怖かったから暫くは居候させて貰った事もある。
その時も毎晩悪夢に魘されていたけど、ひよりは寄り添って寝てくれてたっけ....なんて回想をしていると何かが割れる音と黄色い悲鳴が教室中に響いた。
「なっ、何!?」
なんと窓を割って女の子が侵入して来たのだ、これには流石に驚いて椅子から転げ落ちてしまう。
しかも白いスーツにマントって、ひよりが好きそうな....つまり変な服装をしている。
「年頃の男の子を貰いにきたよ」
「うわあああ!」
少女は女子生徒には目も暮れずに男子だけを白い網で捕獲し始めた。この光景は現実なのかな、それともまだ夢の続きを見ているの?
「くっそ、なんだこれ抜け出せねぇ!」
幾ら男子達がもがいても網はビクともしない。そして女子は私とひより以外の全員が一目散に逃げてしまった。
「兎に角、私達も逃げるわよ!」
ひよりが私の腕を引っ張って逃走を促す。この感触は生々し過ぎる、夢じゃないんだ....これ。
「でも男の子達が!」
「男子は僕に任せて逃げなさい、生徒を守るのは教師の役目だあああああ!」
「勇気は有るみたいだけど、実力は無いみたいだね」
先生が殴り掛かるも少女は軽々と回避し、逆に腹部に蹴りを入れ、踞る彼の首を絞め始めた。小柄な体の何処にそんなパワーがあるの!?
「ぐああああ」
「先生っ!」
「先生が勝てないんじゃ私もアンタも勝てないわ、逃げるのよ!」
担任の山谷先生は元プロ格闘選手、それが手も足も出ない相手。女子高生に過ぎない私とひよりでは勝ち目なんて....。
「今の内に行くんだ....」
本当に勝ち目なんて無いのかな、、女の子と甘く見て油断してくれたなら....こいつも女の子だけど。でもやれる事はやっておかないと!
「このっ、先生を放して!」
ひよりの腕を強引に振りほどき、先生の首を絞めている少女に思い切り蹴りを入れる。先生に集中してくれているお陰で回避されず当てることが出来た。
「ふーん。女子高生の割には強いね」
全力の蹴りを食らって微動だにしないなんて、
「馬鹿、逃げなさい!!」
「嫌だよ!」
先生は何時も厳しいけど、生徒の悩みを親身になって聞いてくれる優しい人なんだ。諦めない、助けなきゃ...だけど何回殴っても何回蹴ってもビクともしない!
「あーもう仕方ないわね!」
「ひより....」
「ふ、ふん....アンタを見捨てて逃げたら夢見が悪いってだけだから。心配した訳じゃないからね!」
ひよりと私、二人分の攻撃....だけど全然効かないし痛がる素振りも無い。本当にこいつは人間なの!?
「あ〜〜効くねぇ、良いマッサージだよ〜」
「がっ」
ゴキッ、と嫌な音がしてさっきまで先生だったものが床に力なく横たわった。
何より戦慄したのは180度首が回転していた事、間違いなく先生は死んだ....情けない事に私はそれを見て腰を抜かしてしまう。
「あ....あぁ....」
「素手で人の首をねじ曲げるなんて....」
「安心してよ、女の子は今不必要だからね」
そう言うと少女は窓から男子達を飛び降りた、ここは二階で、しかも網の中には男子は十人もいて相当な重さの筈なのに、やっぱり人間とは思えない!
「不審者は何処だ!」
他の先生達がやってきた、恐らく逃げた女子が伝えに行ってくれたんだろうけど最早手遅れだよ。
「山谷先生!」
「なんて惨い、これは間違いなく死んでいるぞ!」
「警察は呼んだがあのザマとは!犯人は逃げたのか」
同僚の死に何時もは冷静な先生達も流石に青ざめている。私だって鏡を見たならかなり青くなってるはずだ。
「うぅ...先生....私が強ければ守れたのかな」
「見なさい、窓の外を」
ひよりに言われた通り窓の外を見てみると、炎上しているパトカーの周囲に警察の人達が倒れている。
「信じられないけど警察ですら勝てない相手だったって訳よ、だからアンタは弱くない、相手が強すぎたの!」
「だよね、人間とは思えないほど強いよね。でも男の子達を取り返しに行かないと」
「アンタ正気!?いきなりこんな事が起こって混乱してるのは分かるけど!」
「混乱なんてしてないよ」
「嘘つけ、それより一旦帰って休むわよ」
普段の下校時間は夕方だから昼間の帰り道は新鮮、こんなに早く下校するなんて初めての事。でもなんか風景が滲んで見えるのは何でかな?
「まだ泣いてるの」
「本当だ、涙が」
「気付いてなかったのね。ほら、拭きなさい」
言われて初めて泣いている事に気付いた私に、ひよりが黒い布地に雷マークが入ったハンカチを渡してくれた。
「ありがとう、びしゅん」
涙を拭くのはともかく、うっかり鼻まで噛んじゃったよ、反省。
「鼻も噛むなら最初に言いなさいよ、汚いわね」
「ごめんね。洗濯してから返すよ」
「良いわよ別に」
ひよりは鼻水でヌメヌメになったハンカチを取り上げて、制服のポケットにしまった。
汚いって言ってた割りには良くそんな事が出来たね....でも本当にありがとう、お陰でちょっと元気出たよ。
C.
「ただいま」
あんな事があっても我が家は変わらない、玄関に水無ちゃんが座っている事以外は。
「お帰りなさい、食事にするかお風呂にするか私にするか選んで」
まるで奥さんみたいな質問だね、ずっとここで待ってたのかな?ちゃんと休んでて欲しいんだけど。
「デレるの早くない!?最初から好感度がマックスじゃないのよ!」
「好感度って....でも私は水無ちゃんに食事してお風呂に入って欲しいよ、染みるかな?」
軽い傷とは言えそこから黴菌が入って来たら大変と、登校前に消毒して絆創膏を貼ってあげたから入浴しても大丈夫だと思う。
「我慢できるよ」
「よしよし、偉い!洗ってあげるからね」
裸の付き合いって奴でなんとか聞き出せないかな。気持ち良い時なら質問に答えてくれるかも。
「うん。ありがとう」
「見ず知らずの女と一緒にお風呂なんて不純よ不純!」
「えー、ひよりだって時々私と一緒にお風呂入るでしょ!」
「うっさいうっさいうっさい!私達は付き合い長いから良いの!」
ひよりは美人で気が強くて優しいけど、時々わけのわからない事で怒るのが玉に傷だなぁ。
「それにしても帰って来るの早かったね」
「うん、実はこんな事があってさ」
制服を脱ぎながらさっき起こった事を水無ちゃんにありのまま話すと水無ちゃんは手を止め、表情が険しくなった。
「女帝蜘蛛アトナクア、その少女の名前」
女帝蜘蛛って何かな、女郎蜘蛛なら聞いたことあるけどさ。肩書きってやつ?確かに蜘蛛の巣っぽい網で男の子達を捕まえていたな。
「そのアトナクアの事何か知ってるの?」
「良く知ってるよ....私の妹だから」
私は耳を疑った。先生を殺し男の子達を拐ったあの少女が水無ちゃんの妹!?
つづく
小学生の作文読んだあとこれ読むとマシに見えます!
え、小学生の作文の方がマシだった?そんなぁ!!