第17話「狂気の眼差し」
新しい仕事はじめてから更新速度がorz
A.
水無ちゃんにとって宿命の敵である黄衣....じゃなかった須田も倒して、やっと帰宅する事ができた。時計の針は十一時を指している、今日は何時もよりグッスリと眠れそう。
「よーし水無ちゃん、私と寝よう?」
「....何で、まだ優しくしてくれるの」
「え?」
「さっき聞いたよね、私は....自分の命惜しさに、須田の命令で多くの人間を殺してきたんだ」
罪悪感で苦しんでいるんだね....確かに凄く重くて、簡単に開き直ったり忘れられる過去じゃない。大人びてはいても、幼い水無ちゃんに神様は何て残酷な運命を背負わせるんだろう。
「じゃあ私と一緒に償って生きて、悪い奴から皆を守ろう」
「あ....」
そう言って水無ちゃんの青い髪を撫でてあげると、彼女の喉がゴロゴロと鳴り始めた。これってまるで....!
「猫かアンタは!」
私の気持ちを代弁しながら、ひよりが子犬を抱えて部屋に入って来た。金城さんが「一先ず危険は去りましたので風見さんをエスコートしに参りますわ」って一先ず避難していた病院から連れ帰ってくれたんだけど姿が見えない、帰ったのかな....?
「金城さんは?」
「なんか私の為に晩御飯を持って来るらしいわよ」
金城さんの事だから、多分ひよりの分しか持って来ないよね。私と水無ちゃんの晩御飯は用意しないと、今日は何を作ろうかな?
「そっかぁ、兎に角ひよりも無事で良かったよ〜」
ひよりが抱えている子犬を撫でながら、大切な幼馴染みが無事で良かったと心の中でほっと溜め息。てか何処で拾って来たんだろう此の子犬、狼に似てるし犬種はハスキーだと思う。
「それはこっちの台詞よ!アンタなかなか連絡を返して来ないから殺られたんじゃないかって心配したんだからね!?」
「心配してくれたんだ、嬉しい!」
「あんな回数の連絡をしてくる人間の方が心配だよ」
水無ちゃんの言う通り、ひよりから数百件のメールや電話が有るのを確認した時は逆に心配したけど....彼女なりの不器用な優しさなんだよね。
「だ、だってそれは落ち着かなくて!」
「確かに回数は多かったけど、それくらい心配してくれたってことだよね、ありがとう!」
「ちょっ....抱きつくんじゃないわよ暑苦しいわね!」
口では離せと言いながら顔を赤らめつつも引き離そうとしないし、まんざら嫌じゃないって顔に書いてるよ、素直じゃないんだからもう!!
「ところで、その子犬は?」
「この子は黒い狼に襲われてたから助けたのよ、親は近くで殺されてたから拾っちゃった。責任持って買うわよ」
彼らは狼じゃなくて狼の皮を被った化け物だったんだけど細かい事はいいや。
それより子犬がひよりの顔をペロペロと舐めて、もう凄く懐いている事にビックリ。拾われてから懐くまで時間が掛かると思うんだけど!
「勇気あるんだね、少し見直した」
「アンタにデレられても微塵も嬉しくないわね」
「前言撤回、しかも此はデレじゃない。私が信じてるのは緋美華だけだよ」
わ....嬉しいこと言ってくれた、でもひよりの事も信じて欲しいな、仲良くして欲しいよ。
「私だってアンタの事は信じてないわよ。まだ全然、話を聞かせて貰ってないし!」
「それは後で話すよ、全部。でもご飯が先」
水無ちゃん、話す気になったんだ....顔を見る限り無理して話してくれるワケじゃないみたい!
「じゃあ私が作るから少し待っててね」
「有難う。おなか空いてたから助かる」
あんなに戦って動いたんだもん、そりゃお腹ペコペコになるよね....私も今日は何時もの三倍は食べれそう。一日くらいなら太らないよね?
「アンタ達は疲れてるでしょ、私が料理してあげるから休んでなさいよ」
「良いの?」
「これぐらいはやらせて、私は何も出来なかったんだから
....」
「ひより....」
なんか落ち込んでるみたい、一人だけ能力に目覚めて無いからって焦ったりしてないと良いんだけど。よーし聞いてみよう、気になったら直ぐに聞いておくべきだよね!
「ひより、なんか気にしてる事とか有る? 元気無いみたいだよ」
「なっ....元気なら有るわよ、ただ少し疲れただけなんだからね! じゃあ作って来るから!」
そう言って扉をきつく閉め、ひよりは階段を降りて一階の台所に向かった。私は今、本当に大丈夫かなと言う気持ちとひよりの料理は美味しいから楽しみと言う気持ちを同時に感じているよ。
「お待たせしましたわ風見さん!」
「あ、金城さんお帰り〜」
転移能力で部屋の真ん中に現れた金城さんは、まるで舞踏会へ踊りに来たかの様な綺麗な純白のドレスを着て、手には重箱を抱え頭にドッグフードの袋を乗せていた。
庶民的な私の部屋じゃザ・金持ちな彼女の姿はメチャクチャ浮いてるよ....!
「土足で緋美華の部屋に入るなんて、マナー守って」
「あら、これは失礼しましたわ」
水無ちゃんに指摘されて、白いパンプスを脱いで裸足になってくれたのは良いんだけど....うぅ、失礼したなんて思ってたら嬉しそうな顔しないよね!?
「ところで風見さんは何処に居らっしゃいますの?」
「私と水無ちゃんの晩御飯を作ってるよ」
「うう....風見さんの手料理、羨ましいですわ」
ひよりの作ってくれる料理は凄く美味しいんだよね、毎日食べても全く飽きないんだもん。特に卵焼きとか唐揚げは頬っぺた落ちちゃうくらいプロ負けの美味しさなんだよ。
「あなたが自分と風見の分だけ持って来るから」
「だってワタクシの豪華で愛の籠った手料理を召し上がって頂きたくて」
そっか、金城さんはひよりのこと好きなんだよね。だから何時も一緒に居る私に嫉妬して意地悪してきたのかも!!
「ひよりへの想い、届くと良いね」
「あなたに言われると複雑ですわ」
「?」
思わず首を傾げた、私は応援して恋敵じゃないって分かったんだから喜んでも良いんじゃないかな。あ、まさかひよりは金城さんじゃなくて私の事が好きとか!?
....無い無い、幼馴染としては好きって思ってくれてるだろうけど私は何時も迷惑を掛けちゃってるし有り得ないよ。
「あなたは風見が好きなの?私は緋美華が好き。だから早く風見を攻略して」
「本人の目の前で直球ですわね。でも....あなたとは利害関係が一致しましたわね」
「え?え?利害ってなに、何で二人は固い握手をしているの!?」
私の知らない所で、小規模ながらに苛烈な戦争が始まっているのかも....とにかく水無ちゃんと金城さんは仲良くなれたみたいで良かった!
第17話「狂気の眼差し」
B.
一方その頃、リネという女を拐った黒髪女とその部下たちが亜神町にある居酒屋にて店員や客を襲い爆死体の山を築いていた。
その中でただ一人、生き残った店長に黒髪女の部下達がナイフを突き付けて何やら問い質している。
「風見ひよりは何処に居やがるんだ、さっさと教えやがれ!」
「幽論様に喋った方が身の為だぜ?」
店員が密かに呼んだ警察官たちも黒髪女....部下が呼ぶには幽輪 という名前の彼女に一瞬にして肉体を爆破され全滅。
「本当に知らないんだ!頼む命だけは勘弁してくれ」
「マジで知らねえらしいな、じゃあ」
「助けてくれるのか!?」
「逆だ、死ね」
幽輪が指先で額を軽く押すと店長の頭が爆発しカウンターやキッチンに脳味噌や眼球が飛び散った。
部下達は毎回、此の爆破能力を見る度に怯えつつも彼女が味方である事実に安心感を覚え付いていこうと言う気持ちになるようだ。
「何処に居やがる....学校は他の能力者による襲撃で休校中だしよぉ、自宅も知らねえのに」
「ですが、この亜神町に居るのは確実です」
「そうか....よぉし、次は近くのコンビニだ」
「へい!!」
こうしてまた、罪の無い人々の命が理不尽に奪われてゆく。弱き者は悪党の前に蹂躙される他にない現実は変わらないのか....!
C.
「ご馳走さま〜〜〜〜!」
幸せな食事の時間が終わっちゃった、やっぱひよりの作る料理はすっごく美味しいよ。学校ある時は寝坊しがちな私に代わって、ひよりが御弁当を作ってくれるから、お昼休みの度にこんな幸せを感じられるんだよね。
「風見さんの手料理....」
「今度作ってあげるわよ、それとアンタが作ってくれたのも美味しかった」
「か、風見さん!お褒めに預り光栄ですわ!!」
良かったね金城さん、料理上手のひよりに誉めて貰えるなんて!!私なんて、まあまあ不味い事は無いんじゃない?くらいの評価しか貰ったこと無いのに....ちょっと嫉妬しちゃうかも!
「で....アンタ、話しなさいよね」
ひよりが水無ちゃんに目線を向けてそう言うと、水無ちゃんはご馳走様と手を合わせてお箸を置いた。お皿を見てみると凄く綺麗に食べてる、ご飯粒ひとつ残してないよ、偉いね!
「分かった」
何だか緊張してきた食後だし夜遅いし長い話になりそうだし眠くならないか心配だけど真面目に集中して聞いてあげなくちゃ!
きっと話辛いことだと思うのに、覚悟を決めて話してくれるんだから....やがてゆっくりと水無ちゃんは口を開き全てを話し始めてくれた。
つづく
純粋悪って魅力的