第15話「風の王の眷属」
新しい職場馴染めるかなドキドキ、毒入った容器も扱うから落としたらヤバい
A.
「大丈夫かしら、あの娘....」
緋美華のスマホにメールを八百十件送って、病院だからワザワザ外に出て百回くらい電話を掛けたのに全く連絡が無い。
まさか敵に殺られたんじゃ....心配する私を見兼ねて金城が様子を見に戻ってくれたけど、何か凄く嫌な予感がするのよね。
「絶対に無事でいてよね、じゃないと許さないんだから」
こうやって愛する幼馴染の安否を願う度に、私にも能力が有ればと強く思う。感情の爆発で発現するのなら何で不安や悔しさが爆発してるのに発現しないのよ!
「はぁ、私には才能が無いのかしら」
とにかく今の私に出来るのはあの娘の無事を祈る事だけ。あ、救急車が患者を運んで来た....まさか緋美華が運ばれて来たんじゃないでしょうね!?
「あああもう、心配で仕方ないじゃない馬鹿馬鹿!」
「あの静かにして戴ければ」
「ごめんなさい」
大声が自然に出てしまい、椋椅さんに注意され他の入院患者さんに睨まれてしまった。とほほ....病院では静かにしなくちゃね。
第15話「風の王の眷属」
B.
風見さんのあんなに落ち着きの無いお姿、始めて見ましたわメールや電話を気が触れたかの様に繰り返すなんて。他の患者達もざわついてましたわよ!
それほど深く春野 緋美華を愛されていらっしゃるのね。なのに本人はそれに気付いてないから鶏冠に来きますわ!!
「私なら直ぐに御気持ちに気付いて差し上げられますのに〜!」
「なんだアイツ怒ってるぞ」
「訳が分からないな」
平民以下である悪党になど理解されなくても結構ですわよ、私の風見さんへの尊い想いと伴う悩みは!!
「あなた方に此の怒りをぶつけて差し上げますわ」
「なぜ怒る」
「五月蝿い、問答無用ですわ!」
本当はもっと風見さんとの時間を過ごしたかったのに、コイツらさえ出てこなければ!!
「油断さえしていなければ鈍重な貴様など」
「我らを捉える事は不可能!」
胴体を狙ってゴルアクストを振り回すも、双子は風を真下に発生させる事で上空へと飛翔し回避したかと思えば、いつの間にか二人で私を挟んでいるじゃ有りませんの!
「間 風 脚」
校舎の窓ガラスが衝撃で一斉に割れてしまう程の威力、受け止められたけど手が無くなってしまうかと思いましたわよ。
「我らが脚を受け止めるとは」
でも戦闘のお稽古で毎日、二百キログラムのゴルアクストを使用している為に鍛えられ頑丈になって居たので無くならずに済みましたわ。普段の行いってやはり大切ですのね、
「確かにあなた方の技は風の如く迅い!ですが使えなくなれば関係の無いことですわ!」
受け止めた双子の脚を仲良く、どこか目立たない山奥に転移させてやりましたわ。万が一、見付かれば死体遺棄事件として騒がれる可能性も有りますけどね!
「ぐっ、脚が!」
「絶望なさったかしら?」
「絶望などしない、脚が無くなろうとも他の部位がある限りは戦える」
こいつら、腕から風を発生させ、宙を浮く事で移動するなんて、器用な真似をしますわ!
「フッ....」
「きゃあ!」
口から含み針を....これには流石の私も対処しきれずに頬を刺されてしまいました。まさか今まで此の針を口に入れて戦っていましたの?間違えて呑み込んでしまわないのかしら!
「あなた方、私の美しい顔に傷を付けるなんて極刑ですわよ!」
「顔で極刑なら全身を切り刻めばどんな刑罰を与えてくれるのかな....百渦双嵐!」
速すぎて幾つもの残像が見えるパンチラッシュが上下から....まともに喰らえば全身に大ダメージを受けてしまうのは確実。
まあ普通の人間なら避け切れなかったであろう、この技も転移能力を持つ私にはさして脅威では有りませんわ!
「止まれぬ!」
「今まで躱された事など無かった故に考慮しておらなんだ」
「あなた方って意外とアホですのね」
確かに強いのは間違い無いようですが、オツムは弱いみたいですわね。さぁ、お互いの強烈な拳を受けフラついている今の内にトドメと行きましょう!!
「武器を自ら消しただとっ!?」
金斧ゴルアクストは、敵の頭上ギリギリに転移。幾ら奴等が風の如く迅いと言えど、気付いた時には既に手遅れ。頭の天辺がパカッと、西瓜割りで叩かれた西瓜の様に割れてしまいましたわ!!
「姉じゃぁああああ!」
「さてはシスコンかしら、お姉さまが倒された途端に隙だらけですわよ!」
「がはっ....」
同じ顔、同じ服装、同じ声、同じ身長である為にどちらが姉でどちらが妹か分かりませんでしたが。右から攻撃して来た方が妹で左から攻撃してきたのが姉でしたのね、片方倒してやっと分かりましたわ。
「さあ死刑執行の時が来ましたわ!」
頭を割られ瀕死の双子の、恐らく妹方を掴み上げてゴルアクストを突き付けると....
「妹に手を出すな!殺すなら私だけにしてくれ、頼む!!」
お姉様がそう訴えて来ました。敵ながら美しい姉妹愛、少し感動してしまったわ、けど命乞いで相手の隙を突いて攻撃するなんて輩は良く居ますからね。
それに残酷ですが後頭部と頭頂部が割られてしまっているので、死ぬのは時間の問題ですわ。
「命乞いが遅すぎましたわね、頭を割られてはお二方とも死は免れませんわよ?」
「流石にこれ以上は戦えないが、気力で命は持ち応えられる。だから私は殺しても良い、妹だけは!」
「姉じゃ....」
「私だけ?二人とも処刑だ。無能どもが」
「ぐっ!?」
気が付くと春野さんアンド津神さんと闘っていた、黄色いフード姿の人物が、双子の割れた頭部を掴み上げているじゃ有りませんか。
いつの間に私の手から取り上げたと言うの、春野さん達は殺られてしまいましたの!?
「双子が忌まわしき存在である村に産まれた為に差別や迫害を受け、荒れていた所を拾ってやった恩を忘れおって!」
グシャリ。まるでトマトを潰すかの様に傲慢なる黄色の暴君は、配下の鼻から上を破壊してしまいましたわ。なんてパワー....迅さも破壊力も配下である双子とは桁が違いますわ!!
「やっぱり私達が信じて良いのは」
「愛する姉妹だけだったか」
「け、けれど一緒に地獄へ....逝けるならば」
「悔いは....ない」
今まで生きていたのが不思議な致命傷を何度も負った双子は、遂にお互いの手と手を重ねて逝きました。
二人の残された口元を見ると....微笑を浮かべているでは有りませんか、揃って一緒に死ねたのが嬉しいようですわね。
「さて、次は貴様か」
「みすみす殺られてたまるものですか、返り討ちにしてやりますわよ!!」
全く春野さん達は何をしているのかと周りを見回して見ると、フードの背後に竜巻と挽き肉が見えました。
何故、学校のグラウンドに挽き肉なんて落ちてますの?食堂で使われる材料が飛ばされて来たのでしょうか?
「どうした?来ぬのか、仲間の成り果てた姿に戦慄したと見える」
「あ、ああ」
分かって居たけれど逃げていた答えを、コイツは軽く言い放ちやがりましたわ!!
くっ....熾天級の能力者である津神さんをミンチにするなんて、私に勝てる相手では....あれ、何だか体が震えて来ましたわよ?
「いや....死にたくない」
武者震いだと思いたかったのに、自分の口から自然と出てきた言葉に否定されてしまいましたわ。そう、私はいま恐怖を感じているのです....今までに無い程の!!
「出来ぬ相談だ!!」
フードの人物がそう言った三秒後には、既に蚯蚓を連想させる触手に私の四肢は拘束されて、逃亡が不可能な状態にされてしまいましたわ!!
「ぬっ....」
もう駄目、殺されますわ....そう思った時、見覚えのある忌々しい白い焔を纏った拳がフードの者を殴り飛ばし、私を縛り上げていた卑しく醜い触手も焼き切れましたわ!
「はぁはぁ、凄く痛かったし目も回って気持ち悪かったよぉ!」
「春野さん!どうやってあの竜巻から!?」
「うーんとね、根性かな!」
はは、つい苦笑してしまいましたわ。こんな馬鹿な女に何故、風見さんほどの方が惚れたのか少し分かってしまった自分に。
だけど諦めない。風見さんには絶対、私の伴侶になって貰うのですわ....だから未だ死ぬ訳には行きませんし、仕方ない。
「不本意ながら共闘しますわ」
「有り難う金城さん!」
「よくぞ我が竜巻の牢獄から抜け出したな。しかし津神水無は死んだのだ、絶望するが良い」
フードはそう言いながら立ち上がり、自分の体に燃え移った白い焔を、強風を発生させ、蝋燭の炎をよりも簡単に消し飛ばしてしまいましたわ!
「死んでないよ!」
「馬鹿めが、これほど細かく切り刻まれては、甦れる筈が無かろう!」
確かに津神さんに再生能力が有ろうと、ミンチにされてしまうと流石に駄目なのでは? 春野さんは彼女と姉妹の様に仲良くしていたから事実を受け入れられない気持ちは分かりますけど。
「私自身も流石にそう思ったよ」
「なっ、まさか」
「真っ二つにされるなら兎も角、挽き肉にされちゃ無理だって」
嘘ですわよね....この声は津神さんのもの、でも挽き肉にされた状態で喋れる筈が有りませんわ。まさか化けて出たんじゃ無いでしょうね、成仏して下さいまし!!
「だけどもうお前は怖くない。何されても私は死なないし、緋美華も無事だったし」
「南無阿弥陀仏」
「....幽霊じゃないよ、お経を唱えないで」
あら、吃驚して思わず目を瞑っていましたが、目を開けてちゃんと見てみると五体満足の津神さんが涼しい顔をして居るでは有りませんか!!
「脚が有りますわね」
「だいたいの幽霊には脚があるよ」
なーっ、では目の前にいる彼女も幽霊って可能性が有るじゃないですか....それでも敵じゃないなら問題有りませんけどね。
「ほら、水無ちゃんは生きてたでしょ!」
「何で私が生きてるって思ってくれたの」
「勘?と言うか、信じてたから! 水無ちゃんは簡単に死ぬ訳ないって」
「そっか、うん。私は死なないよ、貴女が信じてくれるなら」
本当に彼女達は出会って間もないのでしょうか、普通あれだけ親密になるには一週間は掛かると思うのですが。
お互いの相性や性格によっては出会って直ぐに仲良くなれるのかも知れませんわね。
「馬鹿な、この我が驚嘆に固まってしまっていたとは」
「お前の支配と恐怖に終止符を打つ時がきた!」
津神さんは戸惑いを見せるフードを睨み付けて指差すと、力強くそう言い切りました。
津神さんの自信満々の台詞を聞いて不思議と負ける気も恐怖も台風で飛ばされたかの如く消えてしまいましたわ....後は全力で戦うだけ!!
つづく
百合よりすぐれたジャンルなぞ存在しねぇ!!フフフッおまえら〜推しカプの名を言ってみろ!!