第12話「旧き友、牙を剥く!」
早いなあ今回は!
A.
曾て友と呼んだ女が、敵として再び私の前に現れるだなんて。ですが愛する風見さんの命を脅かすなら誰だろうと倒すまで!
「どういう事よ友って」
「昔は仲の良い友人でした、でも今は違います。罪の無い平民どもの命を奪うような輩を友とは呼べませんわ!」
「くく、相変わらず高飛車で生意気な癖に正義感の強い女だな。其処が良いのだが、屈服させ甲斐がある」
「貴方にそんな趣味が有ったとはドン引きですわ」
生真面目で服装の乱れや時間に厳しい優等生、それはサディスディックな趣味を隠す為の化けの皮だった訳ですか。数年の間、共に学生生活を過ごした私ですら気付けませんでしたわ!
「目の前で貴様の愛するその女を殺せば嘸や深い絶望に呑まれてくれるだろうなぁ」
「愛するってまさか」
「風見さん!」
私の目の前で風見さんを殺すなんて事、絶対にさせませんわ。例え此の命を捨てても。
「ちょっと何よこんな時に、今はそんな場合じゃ....」
「ああああああ!」
「えっ!?」
予測通りこいつは何も無い場所から様々な物を出せる能力を持っていましたか....押し倒して抱き締めていなければ銃弾が私の背中では無く風見さんの顔面に風穴を空けていましたわ。
「ほう....我が能力に気付いていたか、察しが良いな」
「え、ちょっと金城!?」
「がはっ」
銃弾が背中に入ってしまいましたわ、溶け出して鉛中毒になってしまう前に体の外へ転移!
「ふーむ、あらゆる物を転移させる能力か。流石は友だな、私と少し共通点のある能力とは」
「くっ」
黒い長靴でわたくしの背中を踏み躙るヴォルフト、顔が見えなくとも歪な微笑を浮かべているのが分かりますわ。
「ちょっと早く退いてアイツを攻撃しなさいよ!」
「駄目です....私が離れたら貴女を殺すつもりですわ。アイツは何もない場所から攻撃を繰り出すことも可能な様ですし」
「そんな!」
「健気な物だな報われぬ愛だといふのに、そやつには既にいちずに想いを寄せる者がいるのに」
呆れを含んだ声でそう言ったヴォルフトが、“我が配下よ殺れ“との号令を引き連れてきた狼達に出すと、今まで大人しかった彼らは遠吠えを上げながら私の背中に脚を乗せ始めました。
「ああああああ!」
さっき背中に銃弾で開けられた穴に注射針の様に鋭い数本の何かに突き刺され激痛が走り思わず悲鳴が....牙や爪とは違う!?
「それは我が配下の黒狼達の舌だ、コイツらの舌は注射針の様になっておるのだ。痛いだろう?」
「馬鹿な、そんなの狼では無く最早ただの化け物ですわ」
「聡明な我が友よ、その通り....こやつらは黒い狼の姿を借りているだけの化け物であり狼でも猟犬でも無いわ」
「あ、ああああああ!!」
悲鳴をあげては駄目、風見さんを不安にさせてしまいますわ....だけど激痛に耐えれない。
「やめて金城....もう良い。十分頑張ったんだから逃げましょう、 このままじゃ私のせいでアンタが死んじゃうわ!」
風見さんが震える手で私を引き離そうとしますが、全力で押さえ付けさせて貰いますわ。死んで欲しくないから、椋椅と風見さんを守ると約束したから!!
「構いません、貴女の為に死ねるなら本望ですもの」
「馬鹿....」
「ふむ、敵ながら見事。流石は私が友と認めた女だけあるな」
こんな奴を友と認めて居た私は馬鹿ですわ、やっぱりこの世で信じられる人物は風見さんと椋椅だけね。
「緋美華、お願い....早く、早く来て!!」
「ふふふ無駄な事だ、奴等は我が同胞の手により足止めされているからな」
ヴォルフトの仲間、恐らくあの吸血蟲女ですわね。一筋縄では行かない相手、奴に足止めされたら間に合わない!!
「うっ、ひっく」
「泣かないで下さいまし、絶対に貴女は殺させ....ませんから」
「そろそろ飽きて来たな、トドメを刺してやろう!」
「金城〜〜〜〜ッ!」
後頭部に冷たい金属の様な....恐らく銃口を突き付けらたのが分かります。遂に私の人生も此処で終幕ですか、風見さんと結婚する夢が叶わなかったのが未練ですわ....!
「そこまでだよ!」
「ぐああああああ!熱い、銃が溶けたああああ」
いきなりヴォルフトが悲鳴を上げると共に黒狼たちが断末魔を上げ、私を襲っていた苦痛も僅かに軽くなって行く....そして風見さんの心の底から嬉しそうな表情。
悔しいけどこんな表情を彼女が向けるのは唯一人、来ましたのね憎き恋敵....春野 緋美華と祖の小判鮫、津神 水無が!
「もう大丈夫だよ二人とも、良く頑張ったね」
「遅いわよ馬鹿!」
風見さん、怒鳴っているのに表情はやっぱり嬉しさを隠し切れてませんわ。私も何時かそんな顔を向けて貰える様に頑張りますわ!
「ごめんね。それと有り難う金城さん、ひよりを守ってくれて」
「私は別に」
この赤毛女から礼を言われても全然嬉しく有りません、寧ろなんか逆にムカつきますわね。
「ありがとう金城、ごめんね私のせいで酷い目に遭って」
「い、いえっ、そんな」
春野さんとは逆に風見さんからお礼を言われると嬉し過ぎます、かなり痛い目に遭った甲斐が有りましたわ。
「ぐぬぬ貴様ら、来るのが早すぎないか....足止めしていた二人 はどうした。まさか倒したのか!?」
「え、何のこと?」
「さては奴が裏切ったか」
何だか敵の中で揉め事が起こってくれて、そのお陰で春野さん達が間に合ってくれた見たいですわね。所詮、悪党同士の仲などその程度ってことですわ!
「奴?何の事か分からないけど、取り敢えず倒す」
「金城さんはひよりを連れて病院に逃げて、その傷じゃ戦えないだろうし」
「貴方に指示されなくとも、そのつもりですわよ」
「アンタら、負けたら承知しないわよ!」
こうして学校を去り椋椅のいる隣街の病院へと風見さんと転移したのでした....これでやっと風見さんと二人きりで休めますわ! 子犬がいるけど人じゃないしノーカンですわ!
第12話「旧き友、牙を剥く!」
B.
それは金城が風見を助ける為に奮闘していた頃――――エジプト風の衣服を纏った紫髪の女が、ダロスの指示で春野と津神の元へ向かおうとするフィエーアと千戦狂叫の前に立ち塞がって居た。
「二人を足止めしに行かなきゃ、退いてイグ?」
「嫌だね」
「作戦に失敗したらダロスちゃんに怒られちゃうよ」
「オイ、俺の毒で地獄を味わいたいのか?あ?」
紫髪の女....イグは、まるで蛇の様に鋭く妖しい眼でフィエーアを睨み付けながら声を荒げる。睨まれたフィエーアは冷や汗をタラタラ流しながら目線を逸らさずには居られなかった。
「こいつの毒は厄介だよぉ、二人がかりなら勝率は八十パーセントだが毒による後遺症で地獄を味わう可能性が九十九パーセントだしぃ」
「そんなの嫌だし辞めるよ」
能力者は能力の発現と同時に身体能力も向上する、だが毒に侵されては一溜まりも無い。イグはそんな毒を操る能力を持ち、他の能力者から怖れられている。
「良い判断だ、長生きするぜテメェら」
「君の予測は七十五パーセント外れるから嬉しくないねェ」
「あーあ、ダロスちゃんにお仕置きとお説教されるんだろなぁ」
「その心配は無えよ、奴はあの二人に敗けるからな」
仲間の敗北を予想しながらもイグは豪胆に笑った、彼女は一体なにを考えて居るのだろうか?
C.
剥がれた皮膚も流れた血も元の場所に転移させたので、病院に来た目的は治療では無く入院している椋椅の見舞いの為。
「椋椅、やりましたわ風見さんを守り抜きましたわよ!」
「お嬢様〜〜〜〜ご無事で何よりです〜〜〜〜!!」
「もう子供みたいですわね」
その後病室なので声を潜めて暫く三人で話をしたり、椋椅から欲しいものを聞いて買い物に行って来たり風見さんが助けた子犬の餌を買ったりして御見舞いは終わり。
さて本題は此処から、風見さんとの貴重な二人きりの休息タイム。さあ何をしましょうか....ってアレ?
「何だか眠く....」
「ゆっくり寝て疲れを取りなさい」
「えっ、風見さん!?」
驚きました、凄く。何故なら風見さんが私の頭を膝の上に乗せたのですから。それも此処は病院内の休憩室、多くの人が居る場所で実は恥ずかしがり屋の風見さんが!
「私のこと、そ、その好きなんでしょ。だったら礼に一応なるかなってさ」
「十分です。私は今、人生で最も幸せな時間を迎えていますわ」
「良かった。じゃあお休みなさい」
風見さんは膝枕だけでなく、頭を優しく撫でて下さいました。凄く優しくて暖かい手が気持ち良い....まるで飼い猫になった気分ですわ。
「は、はい....」
風見さんに膝枕して貰い、挙げ句に頭を撫でて頂けるなんて。私は天国を味わいながら、きっと今までで一番素敵な夢が見れると確信しながら眠りに就くのでした。
つづく
今回は文字数少ないからね、仕方ないね