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8杯目 僕とあいつら

翌日の火曜日。僕は高校に向かっていた。


正直、行きたくなかった。三つの意味で。


外出は怖かった。いつあのヴォルフが来るか。僕にはわからなかった。


二つ目。折角の非日常。日常に戻りたくなかった。


三つ目。


教室の引き戸を静かに開ける。授業開始10分前。みんなおしゃべりに夢中。



訂正。予想通り二人ほどこっちを見てる。



「後で話そうね俊也。」

「席にいていい。私たちが行く。」



・・・絶対怪しんでたよねぇそりゃあさぁ・・・

遠縁でも家に泊めるほどの親戚の外人を友人に言わないってのは無理があるよね・・・








昼休み。


僕の席に二人がやってきて机を挟んで対面に座る。窓際のためすぐ近くには誰もいない。


「で、彼女は何者?エーデルガルトさんは。」


ニコニコとこちらを見る泰樹。


「遠縁の親戚です。ドイツ語話せるらしいよ。人間だよ。」


「一つ明らかに嘘だよね?」


残念、嘘は二つだ。



・・・まあ騙せないよなぁ。嘘も得意じゃないし。


「泰樹と亜矢が相手じゃ誤魔化しは通じないよなぁ・・・」


「そうだねぇ。伊達に友達始めて五年目じゃないよ。」


いや、結構微妙な数値だぞ5年。


「そうね。1826日と少し、だものね」


なぜ日にちに!?わかりにくいし!!


「あら、ごめんなさい。流石に五年と何日か、は計算してないの。」


「そういう間違い指摘した顔じゃないよ!」


「ならば1825日と言いたいの?うるう年。」


「そんな計算してないから!?」


「・・・43800・・・24。」


「え?」


「43824時間、よ」


「もはや何がしたいのかわからないよ!?」



亜矢はそこまで言うと満足げな顔をして少し下がりまた泰樹が話しだす。


「まぁ、冗談はさておき大体あの状況で何を信じろというんだい?まず親戚?彼女じゃないの?なにしてたの?」


「う。」


答えられない。



「二日も来れない自宅での看病?病院は?俊也はそこまで馬鹿じゃないだろ?」



「・・・」


黙秘



「遠縁の親戚が来るのに一人で来たのか?今一人暮らしの君の家に?女の子が?」



「・・・・」


返す言葉もない、とはこのことか。



泰樹はにこにことこちらを見ている


亜矢もじっとこちらを見ている。


暫く黙っているとふいに亜矢が目をそらす。



「・・・うん。もういいわ。」


「え?」


「あ、そう?じゃあ俺ももういいや。」


唐突にもういいと言い出す亜矢と俊樹。




二人並んでこちらを見る。



「正直、言わないと思ってるんだ。俊也は隠し事ができないし、それを自覚してるから。言ってもいいこと言えることはそりゃぽろぽろいっちゃうじゃないか。」


「だからいつも正面からいう。」


「そういうこと。はい、いつものセリフどうぞ。」


・・・・本当に全部悟られてるなぁ。




「ごめん、言えない。聞かないで。」




間もおかずうっすら笑った泰樹と真顔の亜矢は


「はいよ。」

「わかった。」


肯定してくれる。怪しくても信じてくれる。



いいやつらだなぁこいつら。




「でも一つだけ言わせて。」


「ん?」





「2629440、分よ。」



「もういい!もういいよ!!!?」



彼女もだいぶ変わっている。






ちなみにそのあと普通に弁当を食い雑談した。

印象的だったのはエーデルガルトの印象などの話になった時だ。



「彼女は僕たちとは違うね。人種が違う、というよりもっと何か。」


「彼女は独立している。」



泰樹と亜矢の評価だ。話し方からして悪感情は感じられない。ただ単に感想なのだろう。



「強いと思うよ。海外によく知らない人ばかり。そこにいてあの態度。そういう意味でも彼女は僕らとは違うね。」


「孤立ではなく独立。そういう印象。」



その感想はなるほど理解できた。確かにあの意志の強い瞳、態度。納得できる。



でも僕のイメージとは少しばかり異なる。



僕のイメージは固く、強い。


そして、脆い。



そんなイメージ。




そこで聞こえる俊樹の声。


「これはあれかな亜矢さん」


「なに」


「例のやつかもね。」


「私の感もそういってる。」


頷きあう二人


「え?なに?なんだって?」



「恋ってやつかな?」


「愛かも」


「愛ってやつか。惚れちまったってやつですか。」


ヒューヒューとふざけ始める泰樹と亜矢。

亜矢は真顔だが。

と、いうか二人とも普段はこんなにテンション高くないのに。

気を使わせてるなぁ。


でもここはちゃんと自分の気持ちを伝えておこう。


隠し事をする以上、そこ以外はこの気持ちのいい奴らに正直に話していたい。





「違うよ。恋や愛じゃない。守りたい、ただそれだけだよ。」




「・・・・・それは愛じゃないのか?」


ある意味究極形じゃないかなぁ、という泰樹の声を聴きながら席を立ちごみを捨てに行く。真剣に答えたから通じなくても別に構わない。



守りたい。これも人に向かって使ったのは初めてだな。日常生活じゃあまり使わない言葉。

臆病な僕でも非日常()の世界じゃちょっとぐらい格好つけたっていいよな。




助けたい、守りたい。さぁて。非日常への最後のチャンスだ。諦めないでやってみよう。





読んでいただいてありがとうございます。

本日も複数杯更新予定です。次は17時予定です。

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