83杯目 僕と決闘の勝者
良い、夜だ。
実によい。
もう季節は夏だがそれを忘れさせてくれる心地よい風。
空は晴れ渡り星が瞬く
そんな風景をみながら僕は学校へ向かう。
家から歩いて20分。
あえて歩いていくことにした。
なぜ向かうか、は用があるからだ。
どんな用事かは、明らかだね。彼女がいるからだ。
つらつらとそんなことを考えていると校門に到着。
こんな時間だから当然校舎は静まり、明かりもない。
ただ無人の校庭と校舎が佇む。
校舎が眠っているというよりは死んでいる、というように感じるのは僕の緊張からくる感情なんだろうか。
門に近づくと懐にいれた札から一瞬ぽう、と白い光が漏れる。
すぐに光は収まる。
僕はそうなるであろうことをあらかじめ聞いていたから特に気にせずすすむ。
手をかけてみると不思議なことに電子ロックもかかっているはずの門のカギは空いている。
いや、不思議なのはどうやって、であってどうして、ではないな。
どうしてあいているのか、は明らかすぎるほどに明らかだ。
僕が入るため。
迎い入れるために開けておいてくれたのだろう。
門を開ける。
車が入るための大きい門ではなくその横にある歩行者用の扉。
キィィィィィィと長い音。
さび付いているのか、ゆっくり動く門に反して長く音が鳴る。
しかし門が開いても進まずに僕の体は立ち止まる。
数瞬の間の後にカサリ、と微かな音がして何かが飛行してくる。
ヒラヒラに近い不安定な飛び方。
僕はあれを見るたびにやはり哺乳類は飛ぶものじゃないよなぁ、と思う。
無理がある飛び方に見える。
ヒラリヒラリと僕の顔程度の高さで円を描くように飛ぶあれ。
蝙蝠。
クルリクルリと三週目。
僕の口から質問が発せられる。
「入っても?」
クルリクルリ回っていたところからさらに二周すると動きを変えてスッっと校舎に向かっていく。
それを了承と取って進む。
僕の体は何の問題もなく校門を潜り校舎へと向かう。
校舎の扉を開けるところで少し気になることがあるが、物は試しと扉を引いてみる。
ゆっくり引いたせいかあまり音もせずにガラスの嵌めこまれた無駄に重い扉を開ける。
もっとも、今はそんな重さなど気にならないが。
そのまま中へと進めるようなので直進。
下駄箱で少し考えるが上履きには変えず外履きのまま上がっていく。
僕の学校はサンダルが上履きなので差足元に不安のあるその状態は危険と判断。
そのまま慣れたルートを通って階段へ。
トタ、トタと一定のリズムで階段を上がる。
今更焦ることもない。
ト、ト、ト、と足音が変わる。
最上階の屋上へ入る扉の前は床の素材が違う。
そのため足音がわずかに違う、ようだ。
今初めて気がついた。
なるほど。この痛いほど静かな校舎で動き回るといろいろと発見がありそうだなぁ、なんて考える。
さて、それじゃ時間稼ぎもこのぐらいにして。
おとなしく扉を開けようか。
ギッと短い音。
重い扉を開ける。
鉄製の防火扉。
それすらも今では普通の扉と遜色ない速度で開けることができる。
開けた先には。
空を見あげ、風に髪をたなびかせる彼女がいる。
バダン、とゆっくり閉まっていたにもかかわらず扉が大きな音を立て閉まる。
そんな音を背後に聞いてもしばらく彼女を見たまま声がかけられない。
あまりにも美しく。
あまりにも悲しげで。
あまりにも恐ろしい!!
暫くたって彼女の口が開かれる。
「・・・女の子を待たしておいて、まった?の一言もないのかしら?」
僕は返事はしない。
僕は返事をしない
が。
『僕は』しないが僕の体は口を開く。
「ふむ。では、一応聞いておこうか。待ったかね?パルバム・フォン・エーデルガルド、改めルインよ?」
僕の口から発せられる僕ではない口調
「ええ、待ったわ。たぁっぷり一か月。どこでなぁにをしていたのかしらぁ?」
其れにこたえて彼女の口から発せられる甘ったるい、聞き覚えのある口調。
彼女ではない、あの口調。
その話し方のまま彼女は空から目を離し、こちらを射抜く。
菫色だった彼女の瞳は今や煌々と月のごとく金色に光を発する。
まっすぐこちらを目で射抜いたままに。
彼女はこういった。
「高校生真白俊也、改め化け物のヴォルフさん?」
世の中ってのは、物語のようにはうまくいかないもんだ。
畜生。
読んでいただきありがとうございました。
体調崩したり、PCが壊れたり。散々でしたが生きています。
遅筆で申し訳ないです。精進します。




