73杯目 僕と彼女の理性
遅く、遅くなりました。
「んん?でもでもあれあれ?なぁんで私のことが分かったのぉ?」
とろけるように甘く、吐き気がするほど邪悪に。
破壊の権化が問う。
「簡単よ。嫌いな臭いがしたから。さっきも言ったとおりよ。」
そう言いいながらエーデルガルドはゆっくりと歩いていきショニエッターの正面に立つ。
そのまま背に回した手で僕に合図。
その手の動きは離れていろ、という合図。
ショニエッターの背後に見えるヴォルフもじりじりと下がっている。
僕らはゆっくりと距離をとっていく。
ほぼ真横にいた祓もゆっくりと下がる。
その身体はすでに発光を終え、ただの祓になっている。
そんな僕らに気が付いていないのか。
興味がないのか。
ショニエッターはエーデルガルドとの会話を続ける。
「えぇ?そんなにことないわぁ。私臭いなんてしないもの。もうこの女の体の中にドロッドロに溶かされて入れられちゃったからぁ。」
「あら、通りで口から臭うと思ったのよ。」
あざ笑うような言い方。
注意を引くためだろう。いっそわざとらしいほどの挑発。
しかし。
「んん?どろどろ?ぐちゃぐちゃ?骨、肉バラバラ?」
「・・・」
挑発をやめじっと見つめるエーデルガルド。
「ぐっちゃり。そう、だから私ルインていうの。」
「・・・あなた。」
「違うの。私はショニエッター。私はルイン。私があなたであなたがあなたで?私はだぁれ?」
頭を抱えいやいやをするように悶えるショニエッター。いや、ルインか?
「肉体だけじゃないわね?」
「わた、私はルイン?違う違う違う。大丈夫。ドロドロちがう。ドロドロルイン。私人型。人型ショニエッター。ルイン。ルインが誰?」
ぐりぐりと首をひねり顔を傾けたままエーデルガルドへと尋ねる。
「精神まで混ざってる・・・しかもまだ自我の固定が行われていない・・・!」
「あなた。貴女がルイン?あなたがルイン。私じゃない。ドロドロにされてなんかない。ドロドロ痛くて。ぶつ切りで擂り潰されて痛くて・・・きんもちぃいぃいいのぉだけれどぉ?」
怖がる様子から再び甘ったるい声に。
僕は精神疾患に関して知識なんてないけれど。
これだけあからさまならわかる。
「イカレてやがる・・・・」
「あっはぁ・・・う・・んんっ・・・・んはぁ・・・いいわぁ?」
プルプルと震え恍惚とした表情のショニエッター
「・・・危険ね。でもチャンスかも。」
「え?」
いつの間に下がってきたのか一人で話し続けている彼女から離れて、エーデルガルドが気が付くと真横にいた。
祓と共に彼女の話に耳を傾ける。
「あれの中で今二つの人格が戦っているわ。私みたいに人格の薄いルインが少し入ってくるぐらいならば精神に影響は受けても主導権を奪われることまではほとんどないわ。でもあれはやりすぎね。何万という意志を束ねたルインという人格。いくら薄いといえどもあんなに大量に入ってしまったら主導権を取られかねない。」
「そうするとどうなる?」
「どうもこうも。人格を得て、考えて破壊を振りまく最悪の悪魔ができるだけよ。」
「・・・・オーケー。想像できないけれどやばいのは理解した。で、チャンスってのは?」
「まだ定着し切っていないみたいね。つまり、恐らくだけど能力、破壊の力は使えないはず。使えてもごく限定的。」
「・・・はぁ・・はっ、それは、どのぐらい確かな・・・話ですか・・・」
静化にしていた祓が口を開く。
ひどく乱れた呼吸に僕が驚き彼女の方を見ると一心にエーデルガルドを見つめながらも珠のような汗を流していた。
「・・・何事も絶対はないわ。ただ、アレが擬態していない限りは間違いないわ。」
アレ。イカレテる、か。
「はぁ、はぁ・・・・ふふ。心配ない。ただの反動。短時間だったからまだ軽い方。」
心配そうな顔をしていたのだろう。
祓が僕に向かってそういう。
「ではまださっきのできるのね?」
「ええ。神降ろしはまだ十分に可能です。しかし、神降ろしとは私の力で決まるものではないので。ここにおします土地神様の御心次第で「かまわん。力を貸してやろう」」
言い終わるかどうか、というところでの一瞬の発光。
祓の口調が変わり、一言差し込まれる。
「・・・・とのことです。」
「・・・ふむ。ヴォルフたちもここまで平気?」
そうエーデルガルドが言うと悶えているショニエッターの後ろのヴォルフと矢撃が手をあげる。
僕には理解できないが何らかの方法でこちらの声を拾っていたようだ。
「あぁぁぁあああ!!そう、そうなの!いいこと、あひっいいこと思いついたの!!」
叫び声。急に興奮して話し始めるショニエッター
「・・・・なにかしら?」
片手を頬に当て恥ずかしがるように頬を染めエーデルガルドを指さす彼女。
「貴女、あなたがルインなんでしょ?そうなの。だから潰すの。ドロドロに?ぶつぶつぶつぶつ切りすりるすり、そして貴女がルインになるの。違う!!あなたもともとルイン。擂り潰されたのは私じゃなくて貴女貴女貴女貴女・・・・貴女擂り潰さらなくちゃちゃちゃちゃちゃ?」
「・・・どうやら私の中のルインを感じ取っているようね。」
「たた、タタタ叩き切る!!!」
ドン!と音を立て地面にたたきつけられて深く突き刺さっていた巨大斧が跳ね上がる。
跳ね上がった斧の先の月。
それすら両断せんばかりに振り上げられたショニエッターの腕。
「いい?とにかく隙を作って。私が決めるわ…!!」
「わかった!!」
小休止は終り。
第二ラウンド開始だ・・・!!
読んでいただきありがとうございます。
ここのところ間を開けてしまっていて申し訳ありません。




