70杯目 僕と矢撃の代償
地響き、閃光、爆音。
もはや言葉で表せるような状況ではなかった。
僕の感覚でいえばとてもじゃないが人間が出せる威力じゃない。
もはや落雷とか地震だとかそういった人知の及ばない域の力に見える。
しかしこんなものではない。
こんなんじゃ全然足りない。
そんなことは当然、みんなが分かっている。
だから僕だって追撃するとは思っていた。
しかしそれでもその次に起きた状況は僕を驚かせた。
「まだまだいくぜぇええええ!!剣撃!!!であぇええええ!!」
ボワッという音。
矢撃の周囲の人影がチリのごとく崩れる音。
「!?」
そのままズゾゾゾゾとたくさんの虫が這うよな音を立てて茂みの中から細かい塵のようなものが這い出して来る。
そのまま人間の走るのとは比べ物にならない猛スピードで閃光の爆心地に殺到する。
そのときに爆心地から再度の爆風。
今度は先ほどよりも強く砂利が飛んできて僕の肌を打つ。
血がにじむほど勢いで砂利が飛ぶような暴風。
彼女、ショニエッターを覆っていた土煙はその爆風によってあっけなく飛び散っていた。
10cmほど地面がへこみ、彼女が若干低くなっている。
そして綺麗に整えられていた髪や顔が埃まみれになって髪が乱れていた。
ただ、それだけだった。
先ほどより明らかに威力のある攻撃を食らったのにまるで無傷!!
なぜだ!!?
恐らく矢撃もそう感じたはずだ。
しかし外からは動揺を欠片も感じさせることなく一瞬の動揺や停滞すらもなく。
可能な限りの最速で、塵がショニエッターへとたどり着く。
「血肉を捧げろ!!」
『我が血族の!!血を捧げる!!』
矢撃の叫びに再び答える声。
その声と同時に立ち上がる人影。
先ほどとは異なり人影たちは近接距離でショニエッターを取り囲む。
「うう・・埃まみれ。」
そんな不抜けた声をあげているショニエッターを取り囲む影は三つ。
数は減ったが先ほどよりもやや背が高く、明らかに手足は太く確かな腕力を感じさせた。
そんな影の手に握られるは黒い刀。
その刀は一斉に振りかぶられ唐竹、袈裟、逆袈裟、と多少の違いはあれど、ほぼ同様に斬撃を見舞う。
「ん。」
ヒュゴ!!声とはかけ離れた速度でグランギニョルが背中側から回され、三刀が軽々と押さえられる。
その様子を見ながら矢撃は疾走している。
その勢いのまま叫ぶ。
「ちぃッ、まだまだぁ!!我が血を、捧げる!!戦え!!英霊よ!!!」
『是!!!』
矢撃は叫びに合わせて体から青白い光をまき散らし、光の尾を引く。
英霊と言われた三体の塵の塊は関節の隙間から矢撃のように青白い光をまき散らしながら加速!!!
常人にはもはや光が走っているようにしか見えない超高速、三人がかりの斬撃。
「ん。ほッ・・・や・・・んん。」
それをいい加減な掛け声とともに弾くショニエッター。
不意に三体のうち一体が下がり、そこに矢撃が跳ぶ。
英霊と呼ばれた存在が刀を片手持ちにして開いた片手を差し出す。
その上に乗る矢撃。
そのまま英霊の腕力をもって打ち上げられる矢撃。
はるか上空、周囲の木の高さから判断して10メートル近く。
そこで矢撃はさらに叫ぶ。
「契約をもって力をなす!我が血族の魂を!!!」
その声にはどこか苦しく聞こえた。
まさに血を吐くような。
高速で思考が回る。
そうしてふと気が付く。
矢撃が『血を捧げる』というとき血を代償にしている。
では。
『血族の魂を捧げる』と言ったら?
そして英霊とは比較的近代的な意味だが戦死者への尊称である。
死者を前にして、アイツが血族の魂を捧げる、とは?
「さよなら、父さん。」
呟く声がなぜか聞こえた。
「な、おい!よせ!!!」
叫びは遠く、
「血族の魂を捧げる!!!」
覚悟は強かった。
英霊のうちの一人が親指を立てた、と思ったらドバと猛烈な勢いで散る。
生じた塵はその猛烈なスピードのまま矢撃が振りかぶっていた三段ロッドに集まる。
形作られるは巨大な太刀。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「んあ?」
上空から振り下ろされる太刀はその勢いのまま、ショニエッタ―の手首に叩き落され。
「ぐぎぃいッッ!!!」
始めて彼女から感情を。
痛みを感じさせる叫びを発させ。
皮膚を裂いて、筋肉にめり込み、骨を切り折り肉と神経と僅かばかりの脂肪を引きちぎって地面へと着弾。
彼女の右手を切り飛ばした。
読んでいただきありがとうございます。
更新速度落として文字数増やそうか迷っています。
遅れたらすいません。




