69杯目 僕の突撃と本命
僕が走って近寄る。
周囲には祓たちが張った結界があり、一般人が迷い込むという心配はないそうだ。
もしも迷い込んでしまっても世界のバランスを保つ例の仕組みによってこの超常の生き物たちのことが世界に広がることはないだろう。
ただし、どういった修正が行われるかはわからない。
目撃者の記憶が消されるならともかく、存在が消滅することだってあり得る。
それは僕としても、防衛士の矢撃としても、逢魔が討ちの祓としても避けたいことだった。
何が言いたいかっていうと。
だから僕が全力で叫んで飛び込んでも問題ないってことだよ!!
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!!」
ショニエッターの注意を引き付けるため。
自らの恐怖を振り払うため。
僕は叫ぶ。
距離もだいぶ近づいた。
残り10メートル。
そこでようやく彼女は顔をあげる。
相変わらずのドレス姿。
前髪は一直線に整えられ、高い位置で髪を結んでいる。
数日さまよっていて、ベンチで寝ていた。
そう聞いているのにもかかわらず妙にこぎれいな姿だった。
「るぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
なおも叫ぶ。
正直今にも転びそうだ。
膝が笑っているのが分かる。
彼女は疑問気な顔をする。
それはそうだろう。
もっとも力のない僕が真っ先に近づいていくるのだから。
「うう?なんであなたなの?」
彼女の質問も最もだろう。
しかしそれでいいのだ。
雑魚が強者たちの役に立てるとしたらこういうことしかない。
囮。陽動。
致命的な攻撃力、速度不足によりいざ戦闘が始まった場合、僕は囮の役割も果たせない。
何もない時ならば羽虫でも払うかもしれないが、いざ戦闘中に羽虫がいても無視されるだけだ。
だからこその初撃。
僕が行くことになった。
これは僕が提案したことだ。
始めは全員から反対された。
それは攻撃力が足りないため役に立たないことや単純に心配されて、など様々な理由だけれど。
どうにか説得して僕はここまで来た。
怖い、怖いけれど。
不思議だ。
身体が動く!!
恐怖の限界を超えてしまったんだろうか。
そう、これはあの時。
屋上でエディと話した時からだ。
じゃあ、これはもしかしてあれかな。
接敵、握りしめていたものを投げつける。
それはいつか見た矢撃の作る武器。
以前見た物より一回り大きく、手首ほどの太さ10cmほどの高さの円筒。
「我が名は真白 俊也!!我が盟友!!彼の血を捧げ、るッ!!!!」
恋ってやつの力なのかもな!!!!
発光。
爆裂。
ズゥ・・ドン!!
向かって言った勢い以上の速度で僕は後ろへと吹き飛ぶ。
矢撃から習ったが、この力、代償魔術を使うのは当然その本人が最も良いらしい。
しかしこの魔術には一つ特徴があり、血液などを代償として使用する。
つまり、使用者自体は魔力、霊力、何と呼ぶかわからないがそんな力が不要なわけだ。
そうじゃなければ以前の巨大な契約魔術の際に一般人を使ったというのがどうやったのか、という話になってしまう。
最も、一般人が使うためには着火用の分の魔術の仕込みも必要になるため当然エネルギーのロスにはなる。
また準備にも時間がかかり、長期間保管もできないものらしく大して使われもしない手段らしい。
しかし、今の僕が囮として最大限の効果を上げるのにはうってつけの武装だった。
気が付けば素人なりにできるようになっていた受け身をとりながらゴロゴロと転がっていく。
土煙に包まれたまま彼女。
まだどうなっているか見えない。
だが、まぁ結果はわかり切っている。
至近距離から矢撃が撃ってもほとんどノーダメージだったんだ。
僕を直撃させたところで・・・
ブォッ!!
巻き起こる爆風。
膝立ちの状態で僕のシャツがバタバタと強くはためく。
中からは顔をしかめてはいるものの。
「やっぱり無傷か・・・!」
ダメージの見えないショニエッター。
風を起こすためだろう、振り切ったグランギニョル。
「・・・ちょびっと痛かった。血・・・出た。」
すぐに動くかと思いきやそんな風に言って斧を持っていない方の手を見せてくる彼女。
距離が開いてしまっているので見えないが、微かに傷を負わせていたらしい。
実に意外。
正直予想外と言っていい。
しかしこれはいいニュースだ。
この程度の攻撃で傷がつくなら。
次の攻撃が期待できるよなぁ!!
ガザ!と茂みから一つの人影が立ち上がる。
その腕には大人が持ってなお巨大なライフル!
明らかに常人ならば手にもって扱うのは不可能。
そのような大口径の銃口。
ガザザザ!と立て続けに立ち上がる黒づくめの人影も同じように構える。
合わせてその20!!!
「総員・・・血肉を捧げよ!!!」
ザッ!!ダッ!!
『我が肉親の骸を捧げる!!!!!』
一糸乱れぬ足音とそれに次いで放たれる叫び
「てぇええええええええ!!!!」
ズドドドドドと地鳴りのように。先ほどとは比べ物にならないほどの閃光と、衝撃音が吹き荒れた。
読んでいただきありがとうございます。
不定期になっていて申し訳ありません




