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68杯目 僕と黄昏、誰ぞ彼。

遅くなりました

ヴォルフがへし折った木の前で立ち尽くすこと数分。


己との力の差に改めて驚愕し、しなりへし折れた生木の表面を見ていると背後に足音。



「はぁ、境内で木を折る。殺生を行うなんて。これだから信仰心の薄い奴らは・・・」



そんな声に振り返るとそこには(はらえ)がいた。



「ん・・・なるほど。見てなさい。」




彼女は詳細を僕に尋ねることもなく一つ頷くといつもの紅白の衣装で両の掌を胸の前で天に向ける。


・・・どこかで見たことあるんだよな・・・あ、あれだ。お手を拝借。



「すぅ・・・・ッ」



パンパァァン!!強く二度打つ。



一本締めかと思ったが、行われたのは柏手(かしわで)

その音が響いた、と思った直後跳ね返るようにガサガサ音が聞こえ始める。


その音はやむことなく徐々に大きくなりそのままへし折れた木が徐々に立ち上がる。

そのままギシギシと木の軋む音を立てながら木はほぼ垂直にまで立ち上がる。


時間を巻き戻している、という感じではなく成長。そう、枯れることなく徐々に立ち上がりながら木が成長していった、そういう印象の治り方だった。





「はい、これでいいわね。」





驚いている僕をしり目に祓はさっさと踵を返して戻る。

突然やってきて、破壊の後を直して返っていく祓に何の反応もできずにいると、先ほどのヴォルフのように祓も立ち止まり思い出したように付け加えてくる。



「そうそう、今ので土地神様への畏敬や感謝が少しでもあるならお賽銭かお参りしていくことを勧めるわ。別に何もしなくても罰を当てる・・・祟るようなお方ではありませんが、気にかけていただければあなたの死ぬ確率が下がる、かもしれないからね。」



そういうとそのあとは振り返ることもなく歩いていき、空気に溶けるように姿が薄くなっていき、わずか十歩歩くうちに祓の姿は空気に溶けて消えた。







「・・・・突然現れて、治して消えて・・・なるほど。神出鬼没。ああいうのを言うのか。」



つぶやいて僕はポケットに手を突っ込む。

お賽銭を入れ、お参りしていこう、そう思ったからだ


小銭がないか、と探すがない。

まぁわざわざ財布を開けるほどのことではないか。


そう思い、お参りすることなく歩き始める。



数歩歩いて立ち止まる。




もう一歩進む。


そこまで進んで僕は境内へと戻る。





神頼みなんて信じていなかったが、祓曰く神はいる。

しかも神かどうかはわからないが限りなくそれに近い不思議な力は見かけたわけで。



こんな非日常ないとおもっていたことに行くときぐらい神頼み(ないと思っていたこと)もやっておこう、と思えた。




財布を出して小銭を確認。



五円玉はないかな?

・・・げ。



唯一あった小銭は500円。

ちなみに札は空っぽ。


つまり現在の全所持金が500円であった。



「・・・・まぁ、そんなもんだよな。」


いつだって思った取りに行かなくて、こんなはずじゃないことばかり、そういうもんだ。

だから結局どちらに賭けるか、なわけで。



こんなことも思い通りにいかないということに日常を感じながら僕は500円玉を放る。


それは低い放物線を描いて賽銭箱に入る。


コン、ココンガチャリ。木に弾かれながら落ちていき、中で他の誰かの思い(お賽銭)とぶつかった音。



そして作法もわからないままとりあえず手を打って、祈る。






神なんて信じていなかった。



今はいるのかもしれない、そう思うようになった。


だから祈る。



ただ、祈るのは神に頼るため、そういう意味での神頼みじゃない。



僕は僕だ。僕は自らの力で最後までやり抜きたい。

それがたとえ敗北だったとしても。



だから、神頼みじゃない。

だだ、願うは自分の心。

神に求めるは僕のこの宣言を聞き留めること。




「願うはただ一つ。折れぬ意志を、覚悟を。僕は、最後尾後までやりぬく。たとえ、無力でも!!]



当然ながら返事はない。しかし覚悟はより深まった、気がした。



さぁ、帰ろう彼女が待ってる。





















夜。


と、いうには少し早いか。


広い広い空は西に日が落ち、赤く空を染めた。

振り返った空は青く黒く藍色に沈み、宵闇がやってくる。



昼間という時間と、夜の闇の時間。



電力()を手に入れた人類は忘れつつあるが、夜とは、闇とは人間のものではない。




夜こそ化け物達の時間である。



この時刻。昼間と夜中の混ざるこのとき。

この時がすれ違うものたちに化け物が混ざるとき。



(だれ)かれ



おぬしは誰か、と問いかける。

化け物にスキを突かれないよう。


それが変化したそがれ、黄昏となった。





「諸説あるっていうけれど。うん。なるほど。雰囲気あるね。」




正面の暗い空の方を向く僕。




ぼんやり、と見える人影。

その陰の後ろに見える大きな半円状の陰。



まさに誰ぞ彼。




正体はわかっている、それでも問いただしたくなる。

まさに化け物。

死神。









それを見ている僕の隣に立つは吸血鬼の亜種ことパルバム・フォン・エーデルガルド。

我らの中で最大の攻撃力を誇る少女。

普段の服の上から、彼女たちの能力の一部であるらしいボロボロ黒衣、彼女の場合は少し厚手のミリタリー風のジャケットを着ている。

菫色の瞳は正面をじっと見ている。





左を見れば寄りかかっていたコンクリートむき出しの壁から大男が動く。

叩き潰すもの(スマッシュ・アップ)ヴォルフ。

特筆すべきことはない、吸血鬼の亜種。

そう、突出したところなどなくすべてが超人級。

早く大きく強く固い。

その怪物は厳めしい顔をしたまま金眼で前を見る。





背後から二人分の足音。





こちらをまっすぐ見る祓。

背後の夕日に照らされ橙色にも見える紅白の衣装。

しかしその身体から漏れ出る光はただただ白く。

闇を払わんとする。




その隣に並び立つ矢撃もまた青い光をまとう。

特に大きなトランクケースを持っている左腕。

粘度を持った光、としか言いようのない光の塊が浮いていく。

その表情は見えないが、姿から感じる。

不退転の意志。

闇を打ち払わんとする人間。








まさに現実と非現実、人間と化け物、昼と夜の境目。




二つの世界が混ざるこの時間。




世界が滅ぶか、続くか。




黄昏時。

時はきた。










「・・・・行こうか、みんな。」





死神(ショニエッター)へと僕は。

最弱の僕は。

ただ、まっすぐに。

愚かなほどにまっすぐに。



走り出した。

読んでいただきありがとうございました。

不定期になってしまっていて申し訳ありません。

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