67杯目 僕と僕の牙
そうしてその絶望的な数字を聞いた後。
祓たちの準備を待つ、ということと、ヴォルフやエーデルガルドの能力が最大となることを考え黄昏時を過ぎた19時から行うこととなった。
現在監視を担当している矢撃たちからの連絡によると、ショニエッターも睡眠中とのこと。
ルインと融合した今では睡眠の必要性も薄れているはずだが、融合を早く進めるため睡眠という形をとっていると考えられるそうだ。
まぁ、ショニエッター自身も睡眠を人一倍とるタイプだったそうだが。
「なのでまだ時間はあるな。少年ついて来い。」
「なに?俊也をどうしようっていうの?」
ヴォルフが問いかけるとすぐにエーデルガルドが反応する。
「ふん。男同士の話、という奴さ。」
「こんな決戦当日に行うことじゃないでしょ。まずよく休んで用意するのが今すべきことでしょ?」
「いや、行くよ。エーデルガルド。」
「俊也?」
立ち上がり一歩ヴォルフによる。
「大丈夫。すぐ帰って休むよ。先に帰っていて。」
逡巡する様子を見せるエーデルガルドにもう一度言う。
「ね。大丈夫だからさ。」
「・・・・・わかったわ。先に帰って待ってる。起きて待ってる。」
「うん。わかった。すぐ戻るよ。」
そういうとエーデルガルドは一度ヴォルフを見つめ、そのまま背を向け歩いて去っていく。
「で?ヴォルフ?」
「あぁ、ついてくるがよい。」
背を向けて歩くヴォルフについて歩いていくこと15分。
普段右ストレートの修練をしていた神社の裏につく。
準備しているのだから祓たちが多くいるものだと思っていたが意外なことに境内は静かだった。
もっと奥、あるいは一般に公開していない施設があるのかもしれない。
「で、こんなとこきて何をしようってのさ。」
ここまで前を向いたまま歩いてきたヴォルフが振り返る
「・・・・いや、なに。大したことではないのだがな。」
白い手袋の下を引っ張りしっかりと嵌めなおすヴォルフ。
そのままその右手で木に巻き付けられた布団を指す。
「もう一度殴ってみてくれ。」
なぜか。
そう聞こうとしてヴォルフの瞳に負ける。
僕はそのまま何も尋ねずに木へと近づき拳を構える。
「すぅ・・・しっ!!だぁああああ!!!」
ズドン!!
衝突音
衝撃。
身体を駆け抜ける反動に、会心の手ごたえであることを確信。
「・・・ふむ、まぐれではない、か。」
その動きをじっと見ていたヴォルフが近寄ってくる。
「な、なにさ?」
「いや、大したものだ。全くの素人がこの限られた時間でここまでの打撃を打てるようになるとは。」
そう言いながらもヴォルフの表情に笑顔はない。
口調は称えている。
しかしその表情はむしろ。怒りや、哀愁を感じさせる表情で。
「だが、だからこそ。現実を見せよう。」
そういうと無造作に木に向かって歩いていく。
「そう、少年の努力は素晴らしい。期待以上といってもいい。」
立ち止まる。その距離は至近。
「こんな大木を揺らす、大したものだ」
そのまま軽く拳を軽く握ってノックをするような構え。
「しかし、我々からすれば。」
スッと動かす拳。
ノック、だった。
形の上では。
生じた現象は激烈。
ヴェギャァ!とでも言おうか
正直言葉にし難い音。
聞いたことがない音。
布を引きちぎり、綿がはじけ飛び、生木がへし折れる!
ガザサザ・・・と音を立て倒れ行く木
そのまま地面に倒れる。
ズズンという音を背にこちらを向くヴォルフ。
「いいか。少年。力不足だ。全く、完全に力不足だ足手まといだ。君の全力の数倍を簡単に出せる。そしてこの私の攻撃をもってしても力不足、なんだ。わかるか少年。」
「・・・」
「わかるか?」
「・・・なにさ。だから諦めろ、そういうことか?」
「そうだといったら?」
「はっ御免だね!!たとえ死ぬとしても僕はいく!!!」
「・・・ずいぶんと変わった。いや不自然に変わりすぎ・・・・だな。だがまぁ、よいだろう。」
「は?」
「いや、いい。こちらの話だ。・・・いいか少年。ありきたりだが一つアドバイスを送ろう。」
「・・・なにさ」
「躊躇するな。」
「躊躇?」
殴ることに、か?
「いいか。少年の力は不足している。それはもう哀れなほどにだ。だからせめて戸惑うな。躊躇するな。戸惑いはタイミングを逃し、躊躇は威力を減らす。必要なのは確固たる意志、覚悟だ。」
「覚悟・・・」
「肉体で勝てないんだ。せめて精神面だけは負けてくれるなよ我が敵よ?」
そん言葉を言い終わるとヴォルフは体を翻す。
そのまま進もうとしたところで、思い出したように顔を横に向けこちらに声をかける。
「そうだ。もし、私の予想が当たっていた場合シュンヤの右ストレートは無駄にならない。大事な武器となるだろう。いいか、大切なのは覚悟だぞシュンヤ。」
・・・・そう言って一度手を振ると立ち去っていくヴォルフ。
慰めなのだろうか。
僕の力がそんな大きな力を持つとは思えない。
ただ、しかし。
「覚悟ね。・・・とっくの昔に決まってるよ。」
そう、彼女の助けをすると決めた時から。
僕は役立たずだろう。
だが、だからこそ!!躊躇はしない。全力を、尽くす。
僕が研いできた右ストレートを突き立てる、その機会が訪れたら。
全力で、最短に、最速で、最高に!突き立ててやる!!
時刻はまだ昼前。
うだるような暑さを感じさせる日光を浴びながら、それよりも強い熱を確かに胸の中心から感じていた。
読んでいただきありがとうございました。




