65杯目 僕と迫る厄災
遅くなりました。
そうしてとうとう死神狩り、ショニエッターとの決着の日が来た。
その当日の朝、意志を統一する目的で全員で集まった。
エーデルガルド、というかその中のルインの破壊衝動がいつどういう条件で発揮されるかが依然として曖昧なため実はあまりよくない。
仲間割れのリスクがあり、逢わずに済ませるべきなのかもしれない。
それでも僕は全員で集まり計画の確認を行うことを提唱した。
「さて、エーデルガルドは久々だな。諸君今日こそが決戦だ。そこにいる俊也の提案により、全員で確認を行うことにした。」
ヴォルフが全員に向けて言葉を発する。
「簡単に今の状況を確認する。まず、ヤゲキ。」
「あぁ。簡単に説明する。まず、我々共通の敵であるショニエッターの居場所だけどな?街はずれの荒れ地。最初に祓たちと交戦したと場所に戻っている。」
その言葉に丁度いい機会なので僕は尋ねる。
「質問。ショニエッターは今まで何をしていたんだ?任せろ、と言われたから聞いていないんだけれど」
「ん?まぁ俺たちを探してたようだな。最も本当にやる気あるのかあっちにふらふらこっちにふらふらしていたがな]
「ふらふら?」
「ああ。なんていうか、あの感じのまんまだな。戦闘時と同じ。何にも知らない子供。そんな感じだ。」
「子供・・・」
「うむ。ヤゲキの言う通りだろう。あの少女は精神年齢がかなり低い。見た目よりも低い。おそらく説明
されたまま歩いて探しているのだろう。探査系の魔術は使えないのか、使うことを思いつかないのか。」
「でも、作戦を決行することにした。その理由は?」
黙っていたエーデルガルドが片目だけ開いて声を出す。
その片目は矢撃ではなく僕を見る。
彼女曰く攻撃対象になっている可能性の高い矢撃、ヴォルフを見ないための処置なそうだ。
曰く、僕を見てれば大抵の周りの反応はわかる、だそうだ。
リアクションそんなに大きいのかね・・・
「これは予測も含んでいるんだけどな。まず、彼女ショニエッター、だな?彼女はこの数週間、監視を始めてから一度も食事をとっていない。」
「食事を?」
矢撃の説明に僕は疑問の声をあげる。
「なるほど読めたぞ。」
「なるほどね」
納得したようなヴォルフとエーデルガルド。
えっと。本当にいつも置いて行かれるんだけど。
矢撃に必死に目線を送る。
今日の矢撃はまたフードをかぶっているため視線は合わないが、通じろ僕の念!
「そう・・・・ん?あぁ・・・・・その通り。食事をとっていない、彼女の食事は?祓曰く生き物のの死、だった。先日、彼女がおなかが減った、そういったのを聞き取った。」
気が付いたのだろう。
それとなく説明を付け加える矢撃に感謝。
「つまり、近々彼女は食事をする、と。」
確認するように言う僕。
「そして我々防衛士、青は決してそれを許容できない。」
「・・・誰も言わないであろうから私が一応言うわね。」
目を伏せたままエーデルガルドが言う。
「一人を餌に、数週間の時間を稼いで、より確実に彼女を倒す。そうした方がリスクが少ないわ。それではだめなのね?」
「ッ!あったりめぇだろぉが!!ふざけてんのか!?」
「矢撃。落ちつきください。エーデルガルドは意志の確認をしたにすぎません。彼女がそうしたいとも、彼女がそう思うとも言っておりません。」
「いってないだけ、だろうl!!」
矢撃にとって譲れない一点なのだろう。
その激高具合は傍で見ているだけの僕まで驚くような勢いだった。
「そんなことないわよ。私だって死人には出さないべきだと思ってる。初めに言ったでしょう確認よ。意志の共通を図る目的なのだから、誰かが言わねばならないはずよ。」
「・・・はっ。どうだかね。」
吐き捨てるように言う矢撃の言葉が終わるのを見計らってヴォルフが話す。
「さて、話を進めよう。もろもろの事情により、決行は今夜。場所は街はずれの草原。・・・異論は?・・・・・ないな?よろしい。では手順の確認だ。」
無言で同意を示す僕らを見て話を進めるヴォルフ。
お世辞にもいい雰囲気とは言い難いが、ともかく話は進む。
「我々にコンビネーションはほぼ不可能だ。互いの手の内全てを知っているわけでもないしな。」
それは、そうだ。
ではどうするのか。
「単純だ。囲んで叩く。それに尽きる。しかし順番と優先順位ぐらい決めておくべきだろう。・・・・・だが、それよりも先に諸君につたえるべきことができてしまったのでその報告をさせてもらう。」
「報告?」
僕もその話は聞いていない。
「あぁ。報告だ。」
ふとヴォルフがやや疲れたような表情をしていることに気が付く。
いや、これは疲れた目というか。
目標を失ったような?
「今朝報告が入った。二週間以上前に我が組織、通称『黒』は壊滅し、事実上消滅した。」
「・・・は?」
声を出したのは僕だけだが全員が驚いたように身を乗り出している。
エーデルガルドも瞳こそ閉じているが組んでいた腕をほどき壁にもたれていた体を壁から離している。
「詳細は不明だがな。大雑把に言えば構成員の暴走、だそうだ。元々精神的安定性に欠いていた少女の暴走、だそうだ。」
「・・・・ねぇ、嫌な予感がするんだけれど。」
ぼそりと呟くエーデルガルド。
「恐らく正解だ。・・・その少女は任務だけは聞いていたらしく錯乱、暴走が収まった後何事もなかったように指示通りに渡。日本へと向かった、だそうだ。ここまで言えばわかったな?」
「ショニエッターが組織を壊滅させたってことか!?おいおい一人にやられるほどあんたの組織ってやつは弱いのか?」
矢撃の叫ぶような声。
「本来であれば、壊滅まではいかないはずなんだが私をはじめ高ランク戦闘者が遠方任務に就いていたこと、彼女が元々最高クラスの戦力であること、それに最悪の事態が重なった。」
ヴォルフが真剣な様子で語る。
「最悪なことに例のあの男がやらかした。ドクターの後継者。あいつが考えついてしまったんだよ。現段階で最強クラスの肉体に例の破壊の権化、ルインを足したらどうなるのか、ってな。」
「ん?おいおい。そのルインて奴はめちゃくちゃ強いんだろ?」
「あぁ、正直にいって言葉で表せないほどに強い。まさに筆舌にし難い、だ。」
「・・・正直に言ってわかりにくいですね。無理にでもいいので言葉で願います。」
「・・・・・・ふむ・・・・・・あの少女は破壊の因子をすべて取り込んだ。ルインの力を使えば理論上どんなものでも破壊できる。」
「どんなものでも?」
「あぁ。どんなものでもだ。人間建造物は言うに及ばず。魔術や概念に至るまで何もかもを破壊して見せる。」
「んん?」
いまいちピンとこない。
「想像つかないのも無理はない。いいか、あれが起こした厄災の一つに死の概念の破壊がある。」
「死の概念の破壊?」
「そう。死にたい、そう思うほどの絶望を与えて来い、と命令された際の話らしいが。奴はその組織の107名全員の死の概念を破壊した。その結果。」
聞く前からわかる。
この嫌な予感。
「107名は死の概念を破壊され、たとえ擂り潰されようが焼かれようがバラされようが決して死ぬことない肉片と化した。」
「それは・・・・えぐいな。」
「いや、真に残酷なのはここからでな。この肉片は何度飛び散ろうが一塊に戻りゆっくりと人だったことが分かる、という程度までは再生する。しかし、痛みは永久に続き精神的な死の概念も破壊されていたそうだ。」
「おいおい…趣味悪いな。」
呻くように言う矢撃。
ミチミチ、とどこからか血肉が蠢き一塊なる音。
低く長く途切れない痛みと怨嗟の声。
聞こえないはずの音が聞こえる気がした。
こみ上げる酸味。
ぐっとこらえる。
「永久に続く痛み。これはほんの一例に過ぎない。個人単位でなく世界の死概念を破壊し、大陸を破壊して生き物の生まれる、という世界の法則を破壊でもされてみろ。簡単に世界なんて滅ぶ。」
「・・・」
そいつはまた。
「ありきたりな言葉でかえってチープになるからあまり使いたくはなかったが。わかりやすく言おう。」
ヴォルフがなんていうのかなんとなくわかる。
意志の強い金の目で全員を見渡す。
「ルインの復活、それすなわち世界の破滅だ。」
・・・・・今更わかりやすい展開かよ・・・・
お読みいただきありがとうございました。
予定より更新が暮れ申し訳ありません。




