64杯目 僕と生きるとは
エーデルガルドにショニエッターを倒しに行く、と伝えた時。
彼女は特に大きな反応はせずにただ「そう」とだけ言って頷いた。
相変わらず彼女の考えは読めない。
実は初めて会ったその日から僕は彼女が何を考えているのかさっぱりわからない。
それでも彼女は敵じゃない。
僕がはどうしても守りたい。
一目ぼれ、なのかもしれないな。
ふと気が付く。
以前亜矢と泰樹に茶化された時は恋や愛じゃない、と答えたがこれは確かに愛おしい、という気持ちなのかもしれない。
恋や愛なんてものは僕は創作物の中でしか知らなかったから意外だが、どうやら恋愛とは常に燃え上がる物ばかりではないのかもしれない。
静かに、強く。
ただ感じる。
神への祈りにも似て、ただ強く。
ゆるぎない誓い。
守るぞ。彼女を。
「俊也。」
「ん?どうしたの?」
「俊也はどうするのかしら?」
「どういうこと?」
「あの処刑人との戦いになるわけだけれど。貴方はどうするの。」
彼女はこちらを見ない。
ただすっかりとお決まりになったうちのリビングで窓の外を眺めている。
なんてことはない、そんな口調で話しているが。
肩に入った力、固定された視線。
よっぽど言いにくいんだろう。
察しの悪い僕にだって簡単に察せるほど彼女は無理していた。
「貴方にはたくさん助けてもらったわ。」
「だから待ってろ、ってことだね?」
「・・・・えぇ」
「うん。そりゃもう正論だね。反論の余地もない。」
「・・・」
「祓が言ったとおりだ。僕じゃ役に立たない。ここまで手伝わせてくれた、それだけで十分な、いや過剰な気遣いだよね。」
「・・・私は祓とは違うわ」
ここでようやくこちらをおずおずと向く彼女。
それでもその瞳は、強い。強い魅力を放つ。
「いや、同じさ。」
「違うわ。私はあなたを邪魔だなんて思っていない。」
顔を少し上げ、体を浮かさんばかりに動きながら、決して叫んではいない、けれど強い声で彼女は言う。
その慌てた様子に思わず少し笑ってしまう。
「あはは・・・だから祓と一緒なんだよ」
「?」
「二人とも過保護で、僕を守ろうとして。怪我しないように、死なないように。」
「・・・」
「気遣ってくれている。」
僕はまっすぐに彼女の瞳を見る。
表面が涙に濡れ、キラキラと光を返す紫の彼女の瞳。
そらすことなく数瞬見つめあい彼女はゆっくりと口を開く。
「・・・ええ、そうかもね。心配しているわ。わかって、くれるのね?」
「くはは。御免だね!」
ハッキリ、強く。
口は閉じ、端だけをにやりと持ち上げて。
「え?」
「御免被る、拒絶する、断る、お好きな言葉をどうぞ?意味は同じ。その気遣いを全力で無駄にする!」
自らを鼓舞するように。
ダン、と足をフローリングに打ち付けなお宣言する。
「僕は何のために、ここにいる?何のために生きている?」
彼女は息をのんだように固まっている。
僕はそこに一歩身体を寄せさらに言う。
「生きるために生きてるんじゃない!僕は夢を!叶える為に生きてきた!ただ叶わないと思ってた」
彼女が僕の言葉に押され一歩引く。
「それが叶うんだ。叶うんだ!!引く、残る、生きる!?」
ぐっと彼女の顔に顔を寄せる。
「僕にとってその全てが等しく無意味だ!!」
お互いの呼吸が当たるほどの至近。
「行くよ。僕は。最後まで見届ける。そう、たとえ死んでも。」
お互いの呼吸音だけが聞こえる
数度呼吸を繰り返し乱れた僕の呼吸が落ち着くころ。
彼女がぼそり、という。
「・・・知らなかったわ。」
一瞬目をそらし再び目を合わせる。
少し驚いたような表情は収まり茶化すような表情。
「貴方って意外と情熱的ね。イカレテいるわ。」
「あはは。今頃気が付いたの?」
そう、僕は自覚している。
非日常への憧れは決して常人に理解されない、異常なものだと。
比喩表現でなく死んでもいいんだから。
「えぇ、わかったわ。よくわかった。もういいわ。勝手になさい。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。」
そう答えると彼女がかぶせるように続ける。
「私も好きにさせてもらうわ。」
「ん?」
「死んでもいい、そう言いながら死にたくないと、ただただ震える強がりな弱虫を。愛すべき臆病者を守ってあげるわ」
そういうととびっきりの笑顔で彼女は僕に笑いかけた。
誓って言うが僕の先ほど宣言に嘘は何一つない。
しかし彼女が言うこともまた一つの真実。
人間急に変わるわけがない
吐き気がするほどの恐怖を感じている。
しかしそれでも、それ以上の憧れ。
そして言わなかったが。
それと同等以上の彼女を守るという意志!!
僕は引かない戻らない。
一緒に行くよ。エーデルガルド。
たとえちっぽけでも。
守るよ、エディ。
読んでいただきありがとうございました。
今日は書けました。
明日抜けたら申し訳ありません。




