59杯目 僕と仕事の本当の価値
その後結界内からあらかじめ決めていた腕で大きく菱形を描く合図を送る。
それを受けて楓は結界を解く。
「話は済んだのね?」
「ああ。協力してくれるって。」
「そうなの。・・・・無理強いはされておりませんか?ルディ?」
「大丈夫よ祓。ほら、優しいからね。俊也は。」
その言葉に少しうつむいて何か考えるようなしぐさをする祓。
数瞬後に顔をあげて僕の方を向く。
「うん。なるほどね。そういう言い方があったか。力無き事を優しいというわけね。」
「な・・・・・」
「祓?何を言っているの?」
困惑した様子のエーデルガルド。
「いや、いいわ。どうせ連絡係か配達係か、そういった後方支援をやることになったのでしょ?」
聞くような形だが確信のある物言いだった。
「そうだけど。」
「なぜわかったのか、と言った顔ね。話し合いが終わって協力関係、あなたは笑顔。待機や手を引けと言われたら暗い顔をするはず。嘘つけるタイプじゃないし。」
・・・こいつはいつもこんなに色々考えながら会話してるのか?
「でもあなたは戦闘じゃ役に立たない。ならば、というわけよ。その上でいわせてもらうわ。」
滔々と茫洋と。そんな風に話していた祓の焦点が僕に合う。
それはもはやにらんでいる、と言っていいほどの目。
普段の祓の微笑に変化はない。
ただ、その黒曜のごとき眼だけがただ冷たい。
「身の程を知れ。」
「グッ・・・」
「ちょっと。祓?」
エーデルガルドの割り込む声。
その声を無視して祓は話を続ける。
「貴方に何ができるのか。何の意味があるのか。考えてごらんなさい。」
言われて思い浮かべる。
双方の橋わたし。
物資の宅配。
その他にもいろいろ。
「そのうちあなたじゃなきゃ本当にできないことは?連絡なんて電子媒体にあふれたこの世の中、顔を和せずにいくらでもできるわ。」
・・・その通り。
物資の搬送。宅配。
橋渡し。祓でも直接にでもできる。
・・・本当に僕にしかできないのか?
「いい?あなたのその仕事はあな他にしかできないことではなく・・・」
「祓。やめて。それ以上言うならばこの件に関して私はあなたを敵とみな・・・」
遮るエーデルガルド。今度は言い終わる前に祓は続けた。
「貴方のためにでっち上げたどうでもいい仕事よ。」
・・・・反論の言葉もない。
今言われてみれば、なんで僕だけの仕事だと思ったのか理解できない。
僕じゃなくてもいい仕事。
祓の言うとおりだ。
落ち込んでいると僕と祓の間に入る影。
エーデルガルド。
「この件に関して祓。貴方は敵だわ。私を助けてくれる俊也をそんないい方したあなたを私は許さない。
」
片手を体の横に突き出し僕をかばうように立つエーデルガルド。
・・・その気持ちはうれしい。
うれしい。
・・・けど、なんて思っちゃダメだろ僕!!!
「エディ。今すぐおやめにになられた方がいいと思いますよ」
「祓が謝罪すればすぐやめてあげるわよ。」
震える拳。
こみ上げる気持ち。
滲む視界。
「そうではないのですよ。エディ。後ろをごらんなさい。」
「・・・・」
うろんげな顔をしたのだろう。
背後からでもわかりやすい不審げに思っている動きのままに振り返る彼女。
僕は慌ててうつむく。
「!?俊也?祓まさか白蛇で・・・!?」
「そんな真似はしないわ。エディ。人間てね。心があるのよ。」
一歩、しゃなりと歩く祓。
僕をかばうように、覆うように僕に一歩動くエーデルガルド。
震える僕の拳。
乱れる僕の呼吸。
・・・・ゆがむ僕の視界。
「何を当然のことを。私にだってあるさ。祓!とまれ!それ以上寄るんじゃない!」
「いいえ。わかっていませんわ。本当に人の心があって理解できるのならば。」
「・・・なに?」
すっと手をあげた気配。見えていない、が僕の感覚が研ぎ澄まされているのか察せる。
「俊也の、守りたい人から自分の力不足をかばわれるなんて惨めな思いはさせないはずですから。」
図星だ。
そう、もういい。言ってしまおう。
「うぇで・・・ずずっ。・・・エーデルガルド?」
自分で予想していたよりもみっともない声。
でも、予想していたよりは大きな声を出せた。
「・・・・え?なんで?俊也?」
なぜか、とても驚いた表情のエーデルガルド。
そう、まるで全く理解できない、とでもいうように。
「たっ・・・助けてくれるのは・・・うれっ・・・しい。」
途切れ途切れ。みっともない。
「うれしい、けど」
みっともない、善意に向けていう言葉じゃない。自覚はあるんだ。
「僕はそんなにお荷物か?庇うなよ・・・・・余計に惨めだ・・・・・・っ」
僕はうつむいたまま後ろを向き立ち上がる。
「俊也!!」
「エーデルガルド。大丈夫。たとえ変わりがいても仕事はちゃんとやる。邪魔じゃなければやらせてくれ。必要な時は呼んでくれ。祓が連絡先は知っている。・・・・今日はもうここで終わりにしよう。エーデルガルド夜はうちに来るか?鍵は開けておくよ。・・・・頭冷やしてくる。またね。」
そう僕は震える早口で伝えると走り出した。
惨めだった。
所詮僕は何もできない。
何が後方支援だ。
何が戦いだ。
気分は最悪。
それでも日々練習している肉体は普段の成果をいかんなく発揮した。
以前できないペースで。
以前より遠くへ。
今はそのわずかな進歩も。
かれらの前では無に等しいことを思い出して、ただただ惨めだった。
僕は、弱者だ。




