55杯目 僕とエーデルガルドの正体。
「・・・気を使ったつもりだったのだけれど。今からでも私を囲むように結界を張りなおしてもらっても構わないわ。」
エーデルガルドが真剣な表情で僕を見る。
いや、僕の震える手に目をやる。
僕はそっと手のひらを背中に隠し、エーデルガルドを見つめる。
「大丈夫。それに退路も断ってあるんだ。」
「・・・退路?」
「この結界は祓に頼んで普段の結界とは異なる仕様になっていてね。光は通すけど、音は通さない。大気は通すけど物質は通さない、そういう風にしてもらった。」
複雑な条件設定だから神への祈りを必要として祈言が必要だったんだってさ、と付け加える。
「つまりあなたは助けも呼べない、逃げ場もない、そういう状況にしたってことね?」
「・・・改めて言われると怖いけれど。そういうことだね。」
「・・・馬鹿ね。・・・・わかった。これ以上は何も言わない。」
「あぁ。信頼の、覚悟の表れだと思ってくれ。」
本来なら震えずに言うつもりだったんだけど。
ま、突っかからずに言えただけ上出来か。
「ではまず、状況の整理から始めてもらえるかしら?特に・・・」
言葉を切ってちらりと祓の方を向くエーデルガルド。
「ずいぶん仲良くなった逢魔が討ちの彼女との関係とか?」
・・・・うん。
変だな。なんか恐怖は恐怖でも今までとは違う恐怖が・・・・
「さぁ、早く。」
イエス・マム!
洗いざらい話し切ったのが10分経ったときだろうか。
始めは彼女の腕力などが怖かったのだがちょくちょく混ざる祓、つまり亜矢との関係についての追及が怖くなっていった。
・・・そう。
・・・へぇ。
・・・ふぅん?
そう言った反応しか返ってこないのだから、そりゃ怖い。
まぁ、それでも僕は恐怖に耐え最後まで話し切った。
恐怖に打ち勝ったんだ。
・・・思っていたのとは違ったけど。
「まぁ、話は大体わかったわ。その処刑人?の女を倒せばいいのね?そのためにチームを組もう、と。」
「大雑把に言えばそうだね。」
「ふぅん・・・で、私のことは誰に聞いたの?ってぼかす必要もない、ね。ヴォルフ、か。」
流石。鋭い。
「貴方が単純に私を心配したならばうれしいけれどこんな状況だものね」
祓を示すエーデルガルド。
「何も問題がなければ全員で来るか、逆に一人で来るかなはず。」
「・・・」
「さらに戦闘する気を俊也はもちろん祓からも感じない。つまり二人は話す気。」
「・・・・」
「なので問題になるのは残り二人。その二人と私を合わせない理由、と考えればおのずと答えは出るわ。」
・・・本当に察しがいい。
ヴォルフの察しがいいっていうのはこのレベルのことを言っているのならば僕にはなかなか難しそうだ。
「ま、おおよそ予想はつくわ。話聞いたなら、私の中の因子についてもわかるわね?・・・なんだか細かくは知らなそうね?」
「ヴォルフから眷属だから、と不利になることは言えない、と」
「・・・なるほど。そういう可能性もあったわね。私も親扱い、か。わかったわ。話してあげる。」
「・・・ようやく君が誰かわかる。」
僕が多少の感動を言葉に乗せてそうつぶやく。
「いえ、わからないわよ。私だって自分が誰かわからないのだから。」
「え?それはどういう・・・」
「まぁ、聞きなさい。聞き逃さないようにね。」
口元に人差し指をやって静かに、の動作。
そのあとにほんの少し微笑んで付け加える。
そんな仕草に見とれていると彼女は緩やかに話し始めた。
「昔、と言っても十数年前。あるところに一人の少女と、一つの化け物がおりました・・・」
そんな口調で彼女のお伽噺の話は始まった。
それは長い話ではないけれど、確かな非日常と異常に満ちた話だった。
読んでいただきありがとうございました。
話が進まず申し訳ありません。
昨日抜けてしまった分も含め、明日複数杯更新いたします。
よろしくお願いします。




