48杯目 僕とあいつの正体
矢撃がフードを脱ぐとその下には見慣れた顔。
さらりとした青色かかった髪。
細い色白の・・・
「泰樹!!?」
「シュンヤ、落ち着け。」
ヴォルフの呆れたような声。
落ち着けって!落ち着いてられるか!!
「私はそこまで日本名に詳しくはないが、ヤスキというのは男性名だろう?レディに失礼だ。」
「まったくだ。」
・・・レディ?
「・・・ん?なんだおまえ。本当にわからないのか?」
そう言えば泰樹とは話し方が違うし声もやや高い・・・?
顔も違う、気がする。
いくら顔が整っているとはいえ、ここまで女顔では・・・?
「・・・お前ってホント察し悪いのな。私は青原 陽花。泰樹の姉だよ。」
・・・・!?
「お前って本当に表情に出るのな?ビビりすぎだから。」
「え、でも、似すぎだろ?え?なんでそんなに?」
「これは半分ワザと。もしも顔見られたときに男か女かわからない方が特定されにくいから、わざと男に見えるようなメイクしてんだよ。」
「い、いや!騙されないぞ。声が全く違う!」
「あぁ、それは・・・・」
フードに手を突っ込み中から札を一枚取り出し喉に当てる。
「『この声だろう?』これは変声札。正式名は山彦返しの札だっけな?三枚のお札のあれだよ。」
「ボイスチェンジャー!?そんな札があるなんて言ってなかったじゃないか!!」
「いや、そりゃそうだろ。あんな期間で全部教えられんし、そもそも教える気もない。」
言われてみればそれもそうか。
俺は防衛士でも何でもないし、むしろ
なんの関係もない割には教えてもらえてた方か。
「弟から話は聞いていたし、目的のおっさん・・・ヴォルフさんを倒すってのも同じだったからな。協力してやろうとは思ったけど組織の情報すべてつたえるほど馬鹿じゃあねぇよ。」
「ふむ。折角ヤゲキが正体まで明かしたんだ。今のうちに聞いておいたらどうだシュンヤ。昨日からヤゲキに対して何か言いたそうなんだが?」
・・・この二人の前では俺はことごとく隠し事ができないようだ。
亜矢と泰樹にもばれるし。
隠し事苦手すぎるなぁ。
「うん・・・まぁ、今じゃなくてもよかったんだけど、なら聞いていいか?」
「ん。いいよ。俺個人のことならお答えしよう。歳か?身長か、趣味か?スリーサイズその他は秘密だな。」
しいて言うなら口の悪さかな・・・
と思いつつも口ではほかの他のこと聞く。
「あの時・・・ヴォルフを攻撃したときなんでエーデルガルドは平気だって嘘をついた?」
「・・・・嘘じゃないんだが、結果的に裏切りになってしまった。そのことだけは謝罪しよう。」
初めて矢撃・・・陽花と目が合う。
ふざけている様子はなく真剣に言う。
「信じてもらえないだろうが、俺たちが聞いている情報ではあの封印は札の中に空間を作っていて、破損した際には周囲に危険を及ぼさないよう破損場所から魔力濃度が低い空間、つまり周囲に魔法や人間などがいない場所で解放されるようにできている、と聞いていた。騙すつもりはなかった。」
「つまり、間違えた、と」
「端的に言えば。」
間違えた、か。間違える、か?
「ふむ・・・少年どうするかね?許すも許さないも少年次第だが?」
僕次第・・・というより。
「いや。ヴォルフ。これは許す許さない、って問題じゃないよ。」
「うん?」
疑問気な陽花。
「許そうが許さなかろうが、敵だろうが味方だろうが。やるしかない、だろ?」
「・・・ふむ。」
顎に手を当て、しばし考えた後にやり、とするヴォルフ。
「つまり、あくまでも、今は何も言わない、と。実は憤りを感じていそうだな?」
「今話すことじゃないってだけだよ。」
黙っていた陽花が顔をあげこちらを見る。
「わかった。後日改めて処断は受けよう。とりあえず、簡易契約だけ行って解散する、でいいな?今夜20時にここに集合、ということで。何かあれば昨日交換した連絡先に連絡、ということで。」
僕とヴォルフは頷き、了解を示し簡易契約を行う。
「一応説明しておくと簡易契約は昨日の契約のように破りそうな人間がいるときの伝達機能などないし、条件付けなどできないから特に協力関係を強制できるものではない。」
ちなみに昨晩の契約では三つの内容で契約していた。
一つ、お互いに妨害せず、表明している目的に対しては可能な限り協力する。
一つ、この契約を破棄する際には破棄することを宣言する必要がある。
一つ、宣言せずに破棄する場合それ相応の制裁をいかなる距離、いかなる状態でもその他の契約者から受ける。意図せず破る場合はこの限りではない
俺は三つ目の例外規定で契約違反を行ったため、契約が破棄されてしまったのだ。
陽花が続けて言う。
「いいか。お互いを結んでいるのは契約じゃない。事ここに至ってはただ単に信頼関係だけだ。これ以上俺は俊也を裏切らない。」
「ふむ。わかったではエーデルガルドを助け出すまで私も裏切らないと誓おう。」
二人がこちらを見る。
僕にサインした契約書を渡してくる。
躊躇なく空欄にサイン。
一瞬白い光を放ちサインの黒いインクが青く変わる。
「わかった。じゃあこの契約書は僕が預かろう。それでいいんだな?」
二人が頷き羊皮紙?か何かの分厚い紙を丸める。
僕はそれを握りしめ立ち上がろ。
「じゃぁ、僕は学校に行かせてもらうよ。」
振り返って一言だけ、二人につたえる。
「裏切ったら許さない。信じるよ?」
返事は聞かなかった。
こうして信用ならない二人の仲間と僕は契約を結んだ。
なんだか無性にエーデルガルドに会いたい気分だった。
彼女が嘘つきかどうか。まだわからないけれど。
離れたのは僕からだけど。
無償で仲間になってくれていた、彼女に。
逢いたい。
読んでいただきありがとうございました。
ぎりぎりになってしまいすいませんでした。




