47杯目 僕と契約代金
というわけで僕は豚ッ鼻されながらもどうにか矢撃から許してもらった。
そしてそのあと受けた説明でようやく矢撃があんなにも怒っていたのかを理解した。
僕は治療用の札を顔に当てられ、その上からマスクをつけて札を隠しながら駅を越える。
そう離れていないビジネスホテル、わかりやすく言えばヴォルフの現在の住処にたどり着く。
わけもわからないまま喉の奥の血を飲み込む不快感と戦っているとエレベーターが止まる。指し示す数字は13階。
ヴォルフのいる部屋にそのまま向かい、ドアをノック。
ガチャリ、と音がしてロックが外されるとヴォルフがイスとテーブルを用意して待っていた。
そのまま促されるがままにホテルの一室でヴォルフ、僕、ヤゲキの三人でテーブルを囲んで座るこtになった。
まずは矢撃による状況説明が行われる。
「ふむ、ならば今回の契約違反はシュンヤが犯したことであるわけだな。」
「ああそうだ。この馬鹿豚がな。」
「ぐ・・・面目ない。」
改めてまっすぐ見てくるヴォルフと説明する矢撃に僕はなかなかに居た堪れない気持ちが湧き上がってくるのを感じる。
言い方に腹は立つが、事実である以上反論はない。
「うむ・・シュンヤ?君は少しばかり勢いで行動する癖があることを意識した方がいいし、もっと反省するべきだ。」
ヴォルフに言われる。
「いや、本当に今は心の底から反省しているんだ。ほんと、恥ずかしい限りだ。」
い、居た堪れない。なまじっかな怒鳴られないだけに怒られているんではなくしかられている、という気がしてしまう。
しかし。
「いや、違う。そうじゃぁない。ヤゲキ。」
「ん?なんだおっさん。いや、ヴォルフさん。」
「今回の再契約。人的、魔的、経済的費用を教えてくれ。」
ヴォルフは矢撃にそんなことを問う。
「ん?そんなのあんたならだいたいわかる・・・・あぁ、そうか。持ってくる。」
矢撃がこちらを見て納得した様子を見せるとどこかに立ち去っていく。
「さて、シュンヤ。ヤゲキに話した話は、重要な話で本気で言っている。」
しかし、と言いながらヴォルフはテーブル中央に並べられた三つのカップのうちの一つを引き寄せる。
「まず、今のうちに話しておきたいこと、内容の確認をしよう。ヤゲキが戻る前にな。君は今回ヤゲキだと思って親友に正体を訪ねた。その結果間違いでヤゲキ、という存在がばれてしまった、そういうわけだな?」
目の前に置かれたカップからヴォルフは一口飲む。香りからして紅茶か。
「うん、大体そんな感じ。」
つられて僕も飲む。よくあるアールグレイ。まぁ、ティーパックのような安物の味だが、十分おいしい。
僕程度の舌には分相応、といったところか。
「では、なぜ親友がヤゲキじゃないと分かったんだ?」
「そりゃ単純に同時に現れたことと、三段ロッドの振り方だよ。」
「その話は先ほどはなかったな。話してみろ。」
僕は紅茶を飲みながら手短に一連の流れを説明する。
「ふぅむ。まぁ、肉体の反射はなかなかごまかすのは難しいな。確かに振りなれていないのは、・・・・うむ。まぁ、わかった。その上で言っておく。」
「ん?」
「お前の判断は間違っていない」
「え?」
「いいか。私もシュンヤと同じ判断だ。ヤゲキは嘘をついている。シュンヤが間違えたのは契約を破ったことでも判断でもなく、ただただ確認の方法だけだ。」
「確認の方法・・・。やはりあいつは、泰樹は矢撃?」
「いや、それはわからない。今話していた、少年を連れてきたヤゲキはヤゲキだ」
「それって・・・」
「む。ヤゲキが戻ってきた。ここで話は終わりだ。よく考えるがいい。・・・・・・・・貴様はだからダメなのだ!!」
「うぉ!?」
急に一段階声が大きくなるヴォルフ。いや、というより先ほどまでが一段階小さかったのか。
「先々が見えず、費用がどのぐらいかかるかもわからない!わからないならばせめて聞けばいいものを!」
「う、うん・・・?」
話の流れが急に変わったため、理解でいないでいると扉の開く音。
「大体貴様は・・・・おお、ヤゲキ。戻ったか。」
「おっさ・・・ヴォルフさん大声出しすぎだぜ。まぁ、俺も同じ気持ちだけど。ほらよ。」
ドサリ、と置かれる、厚さ一cm近い紙の束。
「パラパラでいいから読んでみ。」
言われるがままに手にとってみてみる。
何々、契約時に増幅器配置の人員が延べ50人?
器具使用のために人員が延べ200人?
これは魔力を籠めるのに三日かかるのを50台使用して、ほかにも補助魔力云々の人数だって?
契約ごとに破損する消耗契約品だけで80万円!?
契約書の紙一枚でも三万!?
えーーっと・・・?
「あの、思っていたより高いんだけど。」
「ちなみにあんたの顔に張ってある治療符も中級のそのランクで一枚10万近いからな。」
「世の中は需要と供給だ。我々の世界に供給が足りている、なんてあり得ると思うのかね?」
足りない、めったに使わない、つくれるものが限られているもの、か。そりゃ高いか。
「あと矢撃たち防衛士の人数にも驚いている。そんなにいるの防衛士。」
「まぁ、それなりに入るが今回は半分ぐらいは民間人だよ。関係ないバイトをでっちあげてその時間帯、決まった場所に決まったものを持ちはこんでもらったんだよ。つまり結構金と時間がかかってる。」
「えーっと。もしかしてすぐ再契約とかそういうことは?」
「不可能だな?ヤゲキ?」
「不可能だよ。ヴォルフさん。」
歯ぁ、と二人してため息。
「・・・・ごめんなさい」
正直金額を聞くと一気に大変なことをした、という気がした。
現金なことである。二重の意味で。
「過ぎてしまったことはしょうがないが・・・・シュンヤ、本当に君は少しは落ち着いて考えて行動するがいい。」
「・・・・はい。」
まさかの性格面での説教。
高校生にもなると情けなくてたまらない。
「仕方ねぇな。こういうこと繰り返さないように、顔を見せとこうか。」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
ヴォルフが先に反応する。
「ん?いいのかね?君たちの秘密なんではないかね?」
「まぁ、いい。こんな風に契約違反されたり、こそこそ嗅ぎまわれるよりずっとましさ。」
そう言って矢撃はフードのひもを緩める。
「よっく見て覚えとけ?俺の顔をね・・・!!」
そう言って矢撃のフードが外される。
ずっと前から気にしてて
途中からは思い込み。
最近勘違いが発覚した。
つくづく振り回された、不審者の顔は。
僕を驚かすには十分だった。
読んでいただきありがとうございました。
00時過ぎてしまいました。




