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40杯目 僕と敵からの誘い

ヴォルフが語る。


「80年前、私がまだ20代と若かった頃の話だ。」


「その頃は今ほど世の中の人権なども含めた法の管理が及んでいない時代でな。今でも全くない、というわけではないがその頃よりは減っているのは確かだろうな。私にされたような人権を無視した強化兵づくりは。」


「強化兵・・・?」


「いまでも都市伝説になっているだろう。戦時中に某国が機械化要はサイボーグ化した兵士を作っていた、だの。」


「は?じゃああんたはサイボーグってことか!?」


「いや違う。サイボーグ兵は最低限の成功は収めたそうだが、全身をいじるような技術はなくいわゆる兵器をくっつけた人間、になったそうだ。」


私の腕にガトリングガンはついていないだろう?と掌を見せるヴォルフ。




「私が行われたのは伝承をもとにした吸血鬼化の呪術だ。」


「吸血鬼化・・・」


いよいよオカルトか。


「とはいえ、これも失敗した。」


やれやれ、といった仕草をして見せるヴォルフ。


「理由は単純。伝説は伝説に過ぎず、何も起きなかったのさ。まぁ、今考えれば科学技術が増えた現代で、呪術なんてもう力を持っていなかったんだろうがな。」


しかし、と話をつづけるヴォルフ。


「人間っていうのはいろいろな奴がいてな。無理だ、何もない、そういわれるほど燃え上がるやつもいる。今回そういう『燃え上がる』奴はそうだな・・・ドクターという名前だった。」


「怪しいんだけど?」


「本名を知らない方がいい。すでに死んだ人間であるし、こいつの名前を知っていても何も得しないのに危険だけが上がる。」



続けるぞ、と言いながらコーヒーを一口飲む。


「ドクターは魔術が無いのではなく、世界が進歩している以上現代に合わせたやり方があると信じたんだ。例えば薬草、使用した水の質など呪術最盛期とはことなるのが原因だ、とな。」


それはなんとも。ありえなくはないがそれは呪術がある、と確信がないと納得できない理屈だな。



「ドクターの実家は呪術士だったらしくてな。どう考えても呪術としか言えないものを何度も見たことがあったそうだ。そのうえでドクターは科学を学び、困ったことに優秀だったんだな。」



困ったこと?


「できないのは何かしらのミスがあるからだ、と。トライアンドエラーを行うことを知っていたんだ。つまりドクターは呪術を科学してしまったんだ。」



「呪術を科学する・・・?それって前聞いた世界の法則からするとどっちに位置するんだ?科学側か?非科学側か?」


「それが問題だった。初めに答えを言うと分からない。なぜならば我々にその力を直接的に観測するすべは持たないからだ。」


こちらを金の目で見つめるヴォルフ。


「ただし、結果は見える。その結果が()だ!」


自分の鎖骨の間に指先を当て自分を示す。



「この際だから私の詳細も教えてやろう。」


所詮少年にばれても困るような弱点ではないし。


「吸血鬼化の術式はかなわなかった。しかしドクターは吸血鬼を自らに不足するエネルギーを吸血によって補給するものと位置つけた。栄養学は知っているか?必須アミノ酸の様なものだ。」


「体外から補給・・・」


「そこからの発想は飛躍しすぎていて俺たち凡人には理解できないから結果だけ言おう。」



天才はいつも理解されない。

ただ偉業だけが残り、凡人は偉業しか見えない。



「私はワインが不足している。ワインを補うために人類を超えた力を出すことができる。」


「・・・・え?」


「聞こえなかったか?私はワインが・・・」


「いや、聞こえたけどさ!?ワイン?え、何アルコール中毒ってこと?」


「違う。ワインの成分が体に必須なんだよ私は。そしてそれを補うため、体が適応、進化した。」


「・・・アル中になると強いってことか?」


「・・・少年は本当に察しが悪いというか頭が固いというか。ああ、こういえばわかるか。」


「ん?」


「ある宗教ではワインは神の血である。血を飲む必要がある吸血鬼があんなに強くなるのならば、神の血が必要な体にしてみるのはどうだろう、と。」


「形は違うが吸血鬼、か?」


神の血鬼(ワイン・オーガ)とかドクターは呼んでいたな。日本に来ていい言葉を知ったがドクターを表すのにちょうどいい言葉があってな、中二病だったのだろうな。あやつは。」


ちょっとそのセンスが分かる僕は・・・いや、妄想癖があるだけで中二病なわけでは・・・


「まぁ、具体的な手術などは麻酔で寝ているうちになされていまだにどういう方法だったのかは不明だが死者はそれなりには出たようだ。」


「・・・で、終わり?」


「いや、後ほんの少しだけ言うことがあってな。その後も吸血鬼化の術式は進化、バージョンアップを繰り返して延々と続いたそうだ。」


「一人じゃないってことか・・・」


「さらに言えばその後戦闘経験という意味でほかの人間の経験、意識の一部を引き継ぐ(・・・・・・・・・・)、といったこともできるようになったそうだ。まぁ、今はそのさらに上まで進化しているかもしれんが。」


「記憶を引き継ぐ!?それって・・・!」


指を口の前に当て静かに話すヴォルフ。


「落ち着け少年。察するんだ。私から確定的なことは言えない。あまりヒントもだし過ぎると君との会話は間違いなくできなくなる。眷属、というのもそれなりに大変なんだ。」


「ぐ・・・」


贅沢は言えないが・・・もう少し何とかならんのか。




「つまり、現在の吸血鬼化では、経験も引き継いで、それなりに本来ではありえない(・・・・・・・・・)対応をする可能性がある。」


コーヒーを飲み干し、ヴォルフが再びはっきりとよくとる声で話す。




「私はヴォルフ。裁定者(さいていしゃ)!対象を、捕獲、更生するためにやってきた!!」




対象とはエーデルガルド。否、エーデルガルドのもう一人(・・・・)!!




「シュンヤ、協力してくれるかね?」




防衛士・矢撃()に助けを求め、騙されて。

裁定者・ヴォルフ(初めの敵)に誘われて。


倒す相手は助けるべき子(ヒロイン)で。



なんでこう、王道的展開(わかりやすい展開)から離れてくかなぁ・・・!!




お読みいただきありがとうございました。

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