3杯目 僕と一日目
ふと目が覚めた。
と、いうことは当然寝ていたわけで。僕はは怖い怖い、と言いながらいつの間にか寝ていたらしい。
とりあえず僕は死んではいない。時計を見ると22時30分。三時間ほど寝ただろうか。
仮眠には十分か。そう思って僕は下に降りる。
彼女・・・エーデルガルトはまだ寝ていた。
姿勢も変わっていないように見える。
寝顔を見続けるわけにもいかずとりあえず台所に立ち簡単な食事でも作ることにする。
正直に言えばまだ怖いのだが今何をしても無駄だろう。休めるときは休んで、食べれる時に食べなければ。
最低限の冷静さで僕はそう考えて調理を始める。
手早く作れるものとしてはパスタかな。
ペペロンチーノ・・・女性にニンニクってのもねぇ。カルボナーラでいいか。と言っても牛乳、卵、チーズで作るもどきだけど。
20分ほどで作って上にブラックペッパーを振りかけて完成。
出来上がっても彼女は寝ている。
「おーいエーデルガルトさん?起きて?食べないと体持たないよ?」
声をかけるも目を覚まさない。
「仕方ないか・・・」
気は進まないが毛布の上から肩をつかみ軽くゆする。
「エーデルガルトさん?・・・もしかしてこれ昏睡?」
ゆすっても起きない彼女に心配になりほほを軽くたたく。
「う・・・ん・・・」
反応はある。それでも起きないのが心配ではあるものの、呼吸はしっかりしているし病院に連れて行ってもいいのかもわからないのでとりあえずこのままにする。
食事よりも睡眠が重要なこともある。
そう考えて僕はテーブルの反対側に座りパスタを食べる。
あ、飲み物を用意し忘れていたが席に座って今更紅茶を入れるってのもなぁ。
「・・・コーヒーでいいか。」
ポットのスイッチを入れる。ヤカンもポットもうちにはある。単純に近いからポットをつかってお湯を作る。
ピッという音に続いて有名なクラシックが流れるがそれでも彼女は起きない。
お湯を注ぐ。
「うぇ・・・苦くて酸っぱい。よくこんなの飲む気になるな」
カルボナーラでごまかしながら僕は食べ続ける。
食べきって洗い物を終えて月明りを見ながら今日のことを考える。
今の状況こそ落ち着いているけれど今のこの状況はどう考えても異常だ。
僕のあこがれていた非日常そのもの。唯一異なるのは僕が超人じゃないことだけ。
「なんていうか・・・思ってたのと違うなぁ・・・」
妄想の中の僕はこんな時にすごい力で敵を圧倒するか素晴らしい作戦を思いついて、とか。
「活躍するはずなんだけどなぁ・・・っわぁ!!」
ガラン、と洗い物お鍋が動いた音。それより大きな僕の声。とっさにソファーを確認して起きていないことにほっとする。
情けない限りだ。
「はぁ・・・っ!!」
今度は声をどうにか出さずに済んだ。
さっきまで何もいなかったはずの庭に光る二つの点。
猫の目だった
「・・・ふぅー・・・驚かすなよ・・・僕が臆病なだけか。」
少し情けなくなって笑って猫をよく見る。
珍しいほどに真っ黒の猫で毛並みは少し乱れている。
遠くからこちらをじっと見ていて近寄る様子はない。
「なんだ?お前も臆病者か?奇遇だな。」
ちょっと待ってて、と通じないのもわかりながら底の浅い皿を持ってくる。中に牛乳を入れて庭においてやる。
「飲むか?」
そういうと逡巡した様子を見せる猫。
自分が持っているからか、と少し離れたところに皿を置く。
「おお来た来た。いい飲みっぷりだな・・・・・・あれ、そういや猫って牛乳下痢になるからダメなんだっけ?いや子猫だけ?」
外来種が弱いとか聞いたことがある気もするから個体差によるのか・・・?駄目だこれで死なれたら目覚めが悪い。
「ちょっとお前こっちにこい。」
こちらを見つめる猫。
「そうお前だよ黒猫。」
金色の目に見つめられてふと気が付く。
あぁ、名前を呼ばないから来れないのか。
名前を呼ばなくては。
「ようこそヴォルフこちらへおいで」
「お招きいただき、感謝する!」
猫の口から流暢な日本語が流れ出てきた、次の瞬間猫は肥大化、内側から避けるように大男が出てくる。
僕はこいつを知っている名前だって呼んだぐらいだ。そう、僕は今招き入れた!!
「先ほどぶりだな少年、いやシュンヤ、だったな。俺の敵。招待されてやったぞ!!」
今日を振り返るのはまだ早かった。どうやら正念場は今らしい。
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