37杯目 僕と彼女の生い立ち。
本日二杯目です。
「まずさっき言ってたエーデルガルドは純粋な化け物じゃないってのはどういうこと?」
手始めにジャブ。
「生まれつきの化け物じゃない、といったのよ。」
すかさず入るカウンター。
いや、意味伝わるならいいでしょ?そんな目で見るなよ。
「さっきの目の仕返しよ。」
「!?」
心読まれた!?そんな能力まであるのか!?
「・・・一応言っておくけれどこれは表情から読み取っているだけだからね。」
「そんなにわかりやすい顔してないつもりなんだけど・・・」
「勘違いね。改めなさい。」
「そんなに言われるレベルか・・・。とにかく話進めてくれないかな?」
「仕方ないわね。」
無表情ながらも遊んでいる雰囲気から真面目な雰囲気に変わる。
「正直、これは本人に確認とっていないし、そもそも本人が知っているかもわからないのだけれど。彼女は人工の化け物だわ」
「サイボーグってこと?」
「機械技術はそこまで進歩はしていないわ。夢見すぎ。現実的に考えなさい。」
呆れたように言う彼女。
僕からすると亜矢達も十分夢の世界なんだけど?
「魔術的な人工ね。種類まではわからないけれど、憑依というよりは合成か変異か。上位転換ってのもあり得るかな。」
「魔術のほうが現実見えて無くないか?」
「何言っているの。魔術は今まさに実際あるじゃない。」
あー、そうか亜矢にとってはあるのが当たり前なのか。
小さいころから知っているから違和感がないわけか。
「まぁとにかく彼女たちはおそらく元は人間よ。今の種族は人間をもとに変換するとなると西洋系だと吸血鬼か死霊系、魔女あたりかと思うわ。」
「その・・・気配?でそんなに種類までわかるもんなの?」
気配という普段発しない言葉のせいでわずかに気恥ずかしさを感じながらも問いかける。
「種族まではわからないし普通は元が人間ってのもわからないはずよ。」
いや、普通は気配が読めないんだけどね?
聞けば聞くほどファンタジーだな。
「私たち逢魔が討ちは大きく分けて二つの戦闘方法があるの。」
「さっき言ってた『融和』と『拒否』だっけ?」
「『融和』と『拒絶』ね。それは魔術系統の話。私が言っているのはより具体的な話。」
全く知識がない話題ってのは言われてもいちいち入ってこないものだ。
正直新しい知識が多すぎてパンクしそうだ。
「・・・わかりやすく言うわね?」
表情を見て察したのか、とうとう詳細な説明を省く亜矢。
「土地神様と『融和』して力を発揮する方法と、自らの意思で攻撃など直接『拒絶』する方法があるわ。」
白蛇や白光は融和によって引き出した神の力、結界は拒絶によるものらしい。
封印も拒絶にあたるそうだ。
「融和のほうは混ざり受け入れる力だからわからなかったのだけれど、封印処置をした際に外界に出ようとする力を拒絶したわけだけれど、二系統の力があったのよ。」
「二系統?」
「そう。穢れの力と人間のものと。私の封印は穢れを封じるように作ってるから人間の力は抑えられないの。と言ってもある程度の強度はあるから普通の力は大丈夫なんだけど。」
「そこで人間だってわかったってこと?」
「いえ、人間が混ざってる、ことが分かっただけよ。」
「そして実は私たちの封印は内部と通信ができるのよ。」
これは拒絶だけでなく融和も使って封印するからなんだけどとつぶやく。
「そこで彼女のエネルギー補給経路を聞いて穢れではないと判断。封印をすぐ解こうと思ったんだけどどうせなら効果的なタイミングで解きたいって頼まれてね。」
「通りで。タイミングよすぎると思った・・・。」
「まぁそういった理由で彼女はおそらく元人間ってところはわかっている。さらに言えばたぶん他にも何か混ざってるわ。」
「他にも?」
「そう。精神状況が不安定すぎる」
「確かにあの攻撃性は機嫌で片付けられない、か。」
思い出すのは嗜虐的なエーデルガルド。
愉悦に染まった表情でいたぶる彼女は確実に悪役だった。
「もしかしてヴォルフはそっちの奴を倒しに?」
「それはわからないけれどね。あぁ、言い忘れていたけれどヴォルフもエネルギー源が人間と関係なかったから放置したわ。」
「そうか・・・。」
ということは亜矢にとっての敵は今本当にいなくなったんだな。
「他には何かある?」
尋ねてくる亜矢。折角だから今のうちに聞こう。
「じゃぁ防衛士って知って・・・・」
「それは・・・」
「なるほど・・・」
その後も数十分にわたり亜矢にいろいろ聞かせてもらった。
知識だけは増えたが正直理解し切れたとは言い難い。
わからないことはたくさんあるのだが、もはや頭に入りきらないためギブアップ。
日もすっかり落ち、校舎に誰もいなくなった中教室を出るときに思い出したよう亜矢が言う。
「そういえば明日から私休むわ。」
「そうなの?」
「街はずれで穢れが見つかったって報告があるの。本当にいるかはわからないけれど。ただ廃屋と原っぱしかないから探すのが大変。」
「その間はどうするの?」
「私たちは『融和』を使うと土地神様がある程度便宜を図ってくれるのよ。土地のためになることをしている限り私たちに不利益はないわ。」
「えっと、つまり?」
「みんなの認識が書き換えられて、登校していたことになるわ。」
「それはずるくない!?」
「悔しかったら信仰しなさい。」
無表情などや顔という器用な真似をしている亜矢と一緒に校門まで行くとそこで別れる。
「あ、確かに今警備会社来なかったな。」
なるほど。確かに便利だ。
今思えばクラスメイト達が僕らに気が付かなかったのもその力というわけか。
さて、エーデルガルドは実は被害者かもしれない、という可能性が出て来たな。
そうするとヒロイン側だが。
二重人格の可能性もあるわけで、そしたらそれは悪役なわけで。
「まだ情報が足りないな。次に話を聞くとしたら・・・」
まぁ、一人しかないよなぁ。
正直あいつはあいつで怖いから会いたくないんだけど。
仕方ない…。
さて、どこに行けば会えるのかなあいつには。
話を聞かせてもらうよヴォルフ。
お読みいただきありがとうございました。




