33杯目 僕と夜の話
僕も二階に上がってしばらく考える。
いや、言い聞かせる。
これでいい。
これでいいんだ。
十分に非日常しただろう。
僕はそりゃ非日常が大好きさ。
高校生にもなって帰り路妄想しながら歩くし、頭の中では必殺技の設定考えたりもする。
何やらせても平凡な僕だけど、こればっかりは平均から外れてると思う。
いや上か下かはわからないけど。
それでも僕はもう限界だ。
エディが言うとおりだ。あいつらの攻撃の危険さ。
憧れてるといっても死ぬほどじゃない。
矛盾しているわけじゃない。
わかってるだろう僕。
平均以上に非日常への憧れがある。
しかしそれ以上に臆病なのだから!!
「じゃぁなんなんだよこの気持ちは・・・。」
落ち着かない。もやもやする。
なんだ。何がしたい。僕はどうしたいんだ。
助けたいのか。
それもある。
でもそれは本来なら命が優先される。
どこぞのヒーローたちならいざ知らず、僕みたいな凡人には命よりも大事なものなんてそうはない。
初対面でピンチの女の子だからって命までかける人間がどこにいる?普通はいないそんなもの!!
僕はどうかしていた。
熱病に侵されたように。場の空気に、憧れに酔っていた。
「だから酔いにさめた僕は彼女を追い出す、それでいいだろう。」
それでいい、それでいいんだ。
僕は生きる。死なずに生きる。
ふいに言葉が頭をかすめる。
よく諦めてばかりだった僕が好きな言葉だ。
明日死ぬかのように生きろ。
「明日、死ぬかのように生きろ、か。」
確か学校の授業で聞いた覚えがある。
ダレカ偉人の言葉だったと思う。
実践はできていなかったけれど。
歴史の授業は好きではなかったが、この言葉は酷く印象に残った。
じゃあ、明日死ぬとしたら僕はどうしたい。
あの、横を抜けていくときに悲しそうな、何かをあきらめた顔をしていた彼女をどうしたい。
この胸の感情だけが落ち着かない。
数時間立ちふと、本当に何となく僕居間に降りた。
なんとなく予感があったのだ。だから驚かなかった。
エディがまとめた荷物を足元にソファーに座り、静かに外を眺めていた。
彼女はこちらには気が付いていないようだ。
その顔に浮かぶのは憂い。
静かに諦観の表情を浮かべる。
まるで世界に一人ぼっちのような。助けなんて来ない、そういったような。
その表情を見て僕は急に気がついた。
「あぁそうか。」
ここまで、ずっと考えてきてやっと気が付いた。
この感覚、久々過ぎて忘れていたけれど、この気持ちを僕は知ってた。
この気持ちを。
子供のころから憧れていた英雄たちは何をする人たちだ?何をしていた?
「守って、いた」
彼女が声に気が付きこちらを見る。
ただ守りたい、という気持ちが強くなる。
胸にあるこの感情。もやもや、というのとは少し違った。
これは火が付く、というのだ。
チロチロとした小さい炎。
それでもここ数年何もしてこなかった僕には強く感じる。
熱を感じる。
正直この気持ちに身を任せるのは間違っていると思う。
寿命を縮める行為に他ならない。
でも、それでも。
後悔したくない。諦めて来た僕の最後の意地。
明日死んでも悔いなく生きる!
それなら彼女は見捨てちゃダメだろ!
「エディ!わかりやすく言おう!ここが君の家だ!!」
「え!?」
「細かいことはわからない!でも世の中何とかなる!ここにいろ!」
正直今考えると告白の様で赤面ものだ。
何も考えていなかった。
「ほ、ほかの人の説得は?」
「後で考える」
「生活費は?」
「どうにかなる!」
「少しは考えなさい!」
「考えた結果だ!!」
「!!」
突然の大声にビクリ、と動きを止めるエディ。
「そりゃ僕だって死にたくない!生きたい!君を追い出した方が生きられる!」
大きく息継ぎ。緊張感と声量で呼吸が持たない。それでも叫ぶ
「そう!僕は生きたい、死にたいと思いたくない後悔したくない!」
彼女はまだ驚いた眼でこっちを見ている。
構うものか。
どうせ叫ばなきゃ言えないくらい僕は臆病者だ。勢いで言ってやる。
「君を!!助けなければ僕は一生後悔する!!」
肩をつかみ目を見て叫ぶ。菫色の綺麗な瞳。
「だから助ける!全力で!だから守る!!全てから!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・あはッ」
数秒間の沈黙の後彼女は笑い出した。
「ははははは!!はぁー・・・・ありがとう。でも無理ね。だってあなた人間だもの。」
「人間だと無理なのか?」
「無理でしょ?何もできないわ。」
「嘘だ。」
「話にならない力しかないわ。」
「いーや、できる!言葉で生活で、僕は君を支えられる。身体だって鍛える。さらに言えば君を一度助けたのは僕だぜ?いつかは倒せるようにもなる!!」
自分だって出来ないことでも言ってやる。
「だからいいだろ?エディ。守られてよ?」
そういって差し出した僕の手は毎度のごとく震えていた。
おそらく顔もひきつっているのだろう。
こちらを見るエディは呆けたような顔をしていた。
それでもさらに言う。
「もう一人じゃない仲間だ。エディ。」
エディは数瞬躊躇していたがやがて僕の手を取り固く握る。
「シュンヤ。私はあなたを尊敬しているといった。その評価は間違っていなかった。」
手を放し深く頭を下げる。
「言葉に甘える!!!ありがとう!!!」
「うん。よろしくエディ!」
まだ足は震えていたけれど。
顔もひきつっていたけれど。
頭を下げたままのエディに僕は精一杯の虚勢を張って、仲間になった。
そんな夜の話。
遅くなりました。
お読みいただきありがとうございます。




