32杯目 僕とあの夜のこと。
本日二杯目です。
あの夜。
彼女がうちに来て。
ヴォルフを撃退し、意識を失い、そして気が付いた翌日の晩。
やっとゆっくり眠ることができるというときに僕は寝ずに考えていた。
何を考えていたか。
この際正直に言ってしまうが僕はこのまま危険な要因の彼女を家にこのまま置いていていいのか迷っていた。
いや、むしろどうやって出て行ってもらおうかを考えていた。
僕はそこまで頭がよくないうえに非日常への憧れが強かった。
だからそういったチャンスがあったら絶対に逃さない、と思っていた。
そこに転がり込んできた機会。
逃すまい、という気持ちと彼女を助けたいという気持ち。
それとほんのちょっとの男の矜持で彼女を助けた。
それはそれは気分がよかった。
助けたことは最高だ。まるで主人公。
しかし、でも、そのあと。一緒についてきた恐怖に次ぐ恐怖。
命の危機を乗り越た、今僕の胸に満ちる感情。
もういいだろう。
あぁ、確かにあこがれた展開さ。
命を懸けて人を助ける、かっこいいさ。
でもな、これは現実だ。
都合よく助かったりはしない。
当然の話、死んだら死ぬんだ!
彼女と一緒にいたら命がいくつあっても足りない。
もういい、もういいだろう僕!
ワクワクとした気分はこの数日ですっかりと冷めきっていた。
だから、言おうと考えていた。出て行ってくれ、と。
ヴォルフには僕はもう敵じゃないんだ、と。
みっともなくとも臆病者の僕にしてはよく頑張った、と。
彼女も助けた。そうだな、できる限りの金銭も渡そう。
それでいい、そうするべきだ。
「エディ。お願いがあるんだ。」
「あら奇遇ね。私もなの。」
22時。
ずっと考えていた結論が出て二階の部屋から一階の居間に降り立った時彼女が居間にいるのを見つける。
今言おう。
僕じゃ後までこの気持ちを維持できるかわからない。
そう考えたところでの彼女からの返答。
別れは後にした方がいいか。
「先にどうぞ。あ、ちょっと待って。コーヒーを入れてくるよ。インスタントだけど。」
最後になるかもしれないんだ。
好物ぐらい用意してあげよう。
さっとお湯を沸かしコーヒーを淹れる。
話すときまずいのでずっと台所にたため、五分ほど時間が空いたが彼女は静かに座って待っていた。
「どうぞ。」
「ありがとう。いただくわ。」
彼女が一口飲み口を湿らす。
そしてこちらを見つめ口を開く。
「ようやく話ができるようになった、というときに申し訳ないのだけれど。私はここを出ていくわ。」
「え?そんな」
「あなたは優しいから、いていいよ、と言ってくれるかもしれないけれど。これ以上迷惑はかけられないわ。」
・・・出てってくれ、と言おうとしてたとは言えないなぁ。
「あなたは勇気ある人。恐怖に勝った。けれどそれは繰り返してはならない。恐怖というのは安全装置なの。」
「安全装置・・・」
「あなたが異常なほどに恐怖を感じた。それはあなたの手に負えないからよ。あなたは死ぬわ。今日生き残ったのは奇跡と偶然。」
自分でもそう思うが、人に言われるとなんだか妙な気分だ。
「あなたは実感がないみたいだけど、私たちの打撃力はもはや交通事故と同じよ。軽く殴れば塀を粉砕できるのだから。」
非現実すぎて忘れがちだがそれはそうか。
「そして自分の身に降りかからないと理解しにくいけれど、事故ってのは死ぬのよ。いい?骨が折れるとかじゃないの。ぐちゃぐちゃになることだってあり得る。」
「ぐちゃぐちゃって・・・」
「言っておくけれど冗談じゃないわよ。腕でもなんでも引きちぎってすりつぶして脳漿ぶち撒けて死ぬわよ。」
「・・・」
まぁ事実だろう。確かにそこまで想像できていなかったかもしれない。
「それが事故ならまだいいわ。確率は思ったより多くてもみんなが合うほどではない。でもあなたが向かう先はそういうところよ」
「そういう?」
「何秒かに一度交通事故クラスの衝撃が飛び交うってことよ。そしてそれは下手すれば一生続く。」
・・・命がいくつあっても足りない、そういうことだね。
「シュンヤ。他にも問題はある。生活費は?周囲の住民の目は?家族にはなんて言うの?友達には?」
全員をうまく説得できるの?という彼女の問いに僕は答えられなかった。
「ね。こんなに問題があるのに利点は何もないの。あなたは助けてくれて看病までしてくれた。本当に感謝している。ありがとう。明日の朝には出ていくわ。」
立ち上がる彼女。
横を抜けていく彼女。
階段を上がって、扉を閉める彼女。
望み通りの展開。厄介払いだ。
どうした。喜ぼうぜ。僕。
思い通りだろ
なのになんでこんなにもやもやするんだろう。
俺は本当に彼女を追い出したかったのか?
あぁ、落ち着かない。
お読みいただきありがとうございました。




