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31杯目 彼女と弱さ。

「さて、シュンヤ。大変だったわね。戻りましょう?」


返り血で赤くなった手。

頬にも1滴だけ帰り血が飛んでいる。


そして、自然な笑顔。

この状況で自然な笑顔と言う不自然(・・・)


「・・・ゴメンよエーデルガルド。僕は君が嫌いじゃないし守りたい、助けたいと思う。」


震える手。


「それでも僕は。僕はきみが怖い。怖くてたまらない。」



その言葉を受けてエーデルガルドはただ頷き先を促す。



「君を守りたい。君が怖い。君を信じたい。君を信じられない。」


「ならば、話し合いましょうか?」



何か悟ったように頷いた後、尋ねてくるエーデルガルド。

しかしこれは質問ではないのだろう。

僕が話しやすいように、後押ししてくれたのだろう。



「いや、それじゃもうだめだ。僕はもう君が怖いから話し合いになんてならない。それは嫌だ。話し合いにならない、なんてことになればもう信じあうことはないだろうから。」



勿論、それでも2人で過ごす場合も考えられる。

それは強者への従属。勝てず怖い、だから従う。それは自然なことだ。

どのぐらい当然か、といえば僕はいつもそうだっだぐらいに当たり前だった。


怖いから言うことを聞く。不安だから挑まない。


だから。


だからこそ今の僕はその状態から脱却する。




「エーデルガルド。提案が有る。家は好きに使ってくれて構わない。だから僕に少し時間をくれないか?」



「具体的には?」


「一週間、欲しい。」


「さすがにきびしいわ。ヴォルフが回復してしまう可能性がある。3日ね」


「エーデルガルド。君を信用しきれないのはそういうところだよ。前一撃で一月掛かったのを覚えているよ。いくら何でも3日はあり得ない。」



顔に血をつけたまま困ったように眉をハの字にしている彼女。

表情と鮮血がミスマッチだ。



「嘘をついているわけではないのだけれど。わかったわ。5日でどうかしら。5日後に話し合って決めましょう。」


「わかった。」


「それと家もあなたが使って。人の家まで取るきはない。」


「君はどうするのさ。」


「色々方法はあるから気にしなくていいわ。ただ前借りたお金だけは再び借りていくわね。」



・・・まぁ男としては女の子を家から出して自分が家ってのは嫌なんだけど。

仕方ない、か。

あの約束破ることになっちゃったなぁ。



「その・・・・」


エーデルガルドの声。



「なに?」


「あの約束はなかったことにはなっていないのよね?」



不安そうな話し方。あぁ、やっぱり彼女も覚えていたんだ。



「勿論。でもこの5日間だけ、約束を破らせてほしい。」


「わかったわ。いいの私はは忘れられてない、それだけ十分。5日間待つわ。」



彼女の不安そうな様子を見ていると徐々に僕の恐怖も薄れてきた。

それでもこのままなぁなぁに家に来い、とは言えない。

恐怖は減った。つまり残ってる(ゼロじゃない)



臆病者の僕を笑えよ



「ありがとう。・・・・頬。汚れてるよ」

彼女に向かってそういうが顔は見れない。


「!!・・・ありがとう」


慌ててごしごしと顔をこする音。

ちらりと顔を盗み見ると彼女はこちらを見ておらず横顔で頬を袖でふき取っていた。

その顔は恥ずかしそうにしながらも微かに不安げで。



ふいに彼女がこちらを向く。どうしても正面から目を見ることができず少し目をそらす。

何度か声を出そうとして躊躇する様子。



「一ついい?」


「何?」


「シュンヤって私のことを結局エディって呼ばないわね。」


「・・・少しだけ待ってくれないか。」


ほんの少し肩を落とし落胆した気配。



「そう・・・。うん。いいわ。私イチゴは最後まで取っておく派なの。」



「え?」


「楽しみは後に取っておくってこと。」



そういってほほ笑む彼女は少し悲しげで無理しているように感じた。



そう、それはちょうど僕が非日常に足を踏み入れたあの日に。


彼女を守りたいと思えた、あの夜に。


彼女が見せた笑みと同じだ。



お読みいただきありがとうございます。

昨日は更新できずすいません。

その分今晩23時にももう一杯(一話)更新いたします。

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